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ハーフエルフの冒険者なお姫様  作者: はみる
プロローグ
1/9

プロローグ-魔法使い-

初作品です。お手柔らかにお願いします。

            

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。そろそろ着くよ」


心地よく揺れる馬車の中に、老人の声が届く。

微睡みから覚め、馬車の窓から外を見渡すと、そこには先ほどまでの砂と岩しかなかった荒野に薄っすらと街並みが見えるようになっていた。


「本当に1人で大丈夫かい? 何度も言ったけどよかったら俺の知り合いを護衛に紹介するよ?」


「大丈夫だよ。こう見えて私、結構強いんだから」


「そうかい。けど気をつけるんだよ? この辺りは俗な奴が多いんだから……」


「もー、心配しすぎだって」


ここまで長い間お世話になった馬車乗りのお爺さん。国を出て今まで私を運んでくれた恩人だ。

街への入り口らしき物がもう目の前にある。

このお爺さんともここでお別れだ。名残惜しくもあるが、別れを告げ、大地に足を下ろす。


「今まで本当にありがとう。あなたがいなかったら今頃私はここにいなかったよ」

「いいってことよ。これも何かの縁だ。じゃあこれから精一杯頑張るんだよ、エルフのお嬢ちゃん」


そう言って、馬車とともに荒野に再び走り去って行った。

ここからが、私の野望にも近い、無謀とも言える冒険の始まりだった。



「ここが世界有数の商業街……」

街は見渡せば様々な種族が一様にごった返していた。

「っと、まずは宿を探さないと」

しばらくの拠点となる街でいきなり野宿は洒落にならない。

周りを見渡しながらめぼしい宿屋を探す。

すると周りの建物よりも少し大きな建物が目に入る。看板にはわかりやすく「INN」の文字。


中に入ると、酒場も兼ねているのか何人もの人や獣人が杯を交わしていた。

なるほど、これはちょうどいい。


「なんだてめぇ、見ない顔だな。もしかして冒険者か?」

しばらくあたりを伺っていると、ガタイのいい大男が近づいてくる。

「まぁそんなところかな」

「ガハハハハ! そうかそうか! ならここはちょうどいい場所だな。酒場に宿、そしてここは街からの依頼を受けることができる、冒険者にはうってつけのところだからな」

「街からの依頼?」

「おうよ。継続的な収入がない冒険者がこの街でのたれ死なないように、街の様々な困り事を手伝ってもらって、そのかわりに報酬を用意するんだ。簡単な日雇いみたいなものだと思ってくれ」

「なるほどね〜」

「ま、この辺じゃ魔物駆除や傭兵の依頼みたいなでけえ仕事はねえがな。せいぜい迷子の猫探しや暴漢退治とかその辺が関の山だ」

「ふーん。それで依頼はどうやって受けるの?」

「それならカウンターにいるやつに話しかければすぐさ。なんならおじさんがパーティ組んで教えてやってもいいぜ」

筋肉質ないかにもな男冒険者は鼻の下を伸ばしながらそう提案する。

「あはは。今日はとりあえずいいかなぁ。なにせ1週間馬車の中だったし、先にお風呂に入って柔らかいベッドで早く寝たいしね」

「そうか。随分遠くから来たようだけど、嬢ちゃんどこの出身だ?」

「それは秘密。女の秘密を聞くにはもう少し仲良くなってからじゃないと」

男冒険者にお風呂を覗かないように警告をした私は、さっそくカウンターへと向かう。

「ねぇおじさん。このお金で泊まれるだけ泊まりたいんだけど、何泊できる?」

「……3日ってところだな」

そう告げるバーテンダー風のおじさんから「嘘の臭い」がした。

「おじさん。あんまり嘘ばっかついてると痛い目見るよ? 嘘をつく相手はちゃんと選ぼうね」

「チッ……魔法使いか。いいだろう合格だ。その金だと5泊が限界だ。それ以上はもう少し金を積んでこい」

魔法使い。

そう、この世界には魔法が存在している。

今の私には嘘は通じない。視線、体温、呼吸、話の間、様々な要素を魔力の微細な変化で感じ取ることで、嘘や相手の心理状態を把握する魔法を自分に施していたからだ。

厳密にいうと、これは魔法ではなく魔法を扱えるものなら誰でも使える特性のようなものだが。

「話のわかる人でよかったよ」

バーテンダー風のおじさんから部屋のキーをもらい、名簿に名前を書く。

その時だった。


「うるせぇ! この俺に金を払えっていうのか!! この俺様に楯突いてどうなるのかわかってるんだろうな!?」


大きな破裂音と怒声が宿屋の外から響いてくる。

「おじさん、あれは何? パレード?」

「あれがパレードならそんな国見てみたいものだな。あれはこの街じゃ珍しくない。いつもの連中が暴れてるだけだ」

「ふーん」

「まぁそろそろ俺らも飽き飽きしてきたけどな。あいつらが出ていかないで毎日暴れるから店の売り上げも伸びが悪い」

外で暴れる男たちに、街の警備隊らしき部隊が対応しているが、話し合いで済むようなレベルではないらしい。

カウンターでグラスを洗っていたおじさんは深くため息を吐く。

「ねぇ、あの連中をやっつけたらプラスで3泊追加してくれる?」

「は? 何言ってんだ嬢ちゃん、いくら嬢ちゃんに魔法の心得があるからってあいつらはーー」

「いいよね?」

「あんた一体……」

「何者でもないただの女冒険者だよ」

「……。名前を聞いていいか?」

「私は、アイナ。アイナ・エル・エゼルメネル」

「エゼルーーってあんたまさか!」

「さあね。この世にエルフなんて星の数ほどいるんだからおんなじ名前なんて珍しくもないのは人間と同じだと思うよ」

「…………。」

カウンターのおじさんは信じられないものでも見たかのように目を見開いていたが、私はそれ以上何も答えなかった。

今の私はエルフのーーーーーハーフエルフの冒険者。

それ以上でもそれ以下でもないのだから。 

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