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漆黒の魔剣士出撃編


 玉座に腰かけ不敵な笑みを浮かべている金髪ツインテールの少女。

 彼女の名はイリス・フェッセルン、魔族と呼ばれる種族の王で平たく言うと魔王であった。

 そのイリスの前に立つ口元以外の全身を漆黒の鎧で包んだ女性が「お呼びで消かイリス様?」と口を開く。

 「うむ、ブラッディ・ブラックアーマー……いや、BBAよ」

 次の瞬間に漆黒の剣士は「だぁああああっ!!?」と盛大に転んだ。

 「……む?」

 「ちょ! 何なんですか? その呼び方は!?」

 どうにか起き上がりながら抗議するBBA。

 「作者おまえも言うなぁぁああああああっ!!!!」

 「しかしな? ブラッディ・ブラックアーマーと毎回言うのも面倒だし、何と言うか廚二っぽいであろう?」

 ブラッディ・ブラックアーマーは「いや……廚二とか言わないで下さい」と困惑した様子だ、面倒くさいと言われても本名なのだから仕方ない。

 「別にBBAと書いてビービーエーと呼んでいるのだ、問題あるまい?」

 「いえ、”あいつら”は絶対にBBAと書いてババァと読みますって!」

 何故か壁を指さして言うのは、あるいはここではない別世界を示してるのかも知れない。

 「……まあ、これはもういい。 これではいつまで経っても本題に入れんからな」

 ブラッディ・ブラックアーマーは「良くないのですが……」と小声で呟くが、イリスにこう言われればそれ以上は言えなかった。

 「最近バーンテオのゴブリン共が暴れておるのは知ってるな?」

 黒衣の剣士は無言で頷く。

 「それ自体は別にどうでもいい事なのだが、どうやらアルナとガルドが動いているようだ」

 「ガルド……あの剣士ですか……しかし、彼はともかく一国の姫であるアルナもとは……」

 兜に覆われた顔では表情は分からないが、彼女の声に驚きが含まれているのをイリスは分かる。

 「あいつらが動いた以上はゴブリン共はすぐに大人しくなろうが、黙って見てるのもちとつまらんのでな……少しばかりちょっかいをかけてこい」

 自分達の配下の兵隊としてゴブリンもいる事はいるが、それ以外の連中をイリスは守ろうとかは思わない。 だから単にアルナ達の邪魔をしてやろうというだけの話なのだ。

 ブラッディ・ブラックアーマーにはそんな魔王の気持ちが分かるので、「……また子供じみた事をなさる」と苦笑してしまう。 イリスも部下のその言い様に気を悪くする事はしない。

 「そう言うな、魔王とて遊び心はあるのだ」

 不釣り合いな大きさの玉座に座る魔王が少女であるのは外見だけだと分かってはいるが、それでも今この時の笑いは子供のものであると感じたのであった。

 

 

 ゴブリン退治をしていたアルナとガルドが合流していたのは、予定通りの行動だった。 あらかじめ決めていた村の宿で互いの状況を報告し合った後で宿に設置されていた電話で城のナリアとも相談し帰還する事となった。

 電話という技術はおよそファンタジーに相応しくないと思う者もいるであろうが、魔王なんてものが暴れ回った時代から千年も経てば文明とてそれなりに進んでいるものだ。

 まあ、それは置いておき二人揃って帰路に着いた直後の出来事であった。

 「すでに合流していたのか……まあ、いい」

 唐突に現れた全身黒づくめの女がアルナ達を通せんぼするように立ちはだかる。

 「あんた確か、魔王四天王の!」

 アルナが驚いて叫ぶのに、女はまるで血のような紅い唇をにやりと歪めた。

 「ぶら……ぶら……何だっけ?」

 「ごめん……俺も忘れた……」

 二人して真面目な様子で言い合うのに「だぁぁああああっ!!!!」と叫び声を上げながら地団駄する。

 「私はブラッディ・ブラックアーマー! 魔王四天王のブラッディ・ブラックアーマーだぁぁあああああああっ!!!!!」

 そう言われれば、そんな名前だったようなと思い出す少年少女である。

 「……って! つまりは俺達の敵じゃないか!」

 ガルドが剣を抜き前に進み出ると、「そういう事よ!」とブラッディ・ブラックアーマーも同様にした。 全身鎧姿のブラッディ・ブラックアーマー……もう面倒なのでBBAに対しガルドは防具など何も身に付けていないという戦場ではどこか異常ないでたちだ。

 「まずはお前が相手か? 別に二人がかりでも構わないが?」

 挑発的な口調でBBAが言えば、「ん? いいの? じゃ~~!」と跳び出すアルナの行動に、「「ちょ!」」 と剣士二人の声が重なった。

 「たりゃ~~~~!!」

 先手必勝とばかりに繰り出されたパンチを「……素直と言うか何と言うか……」と横に跳んで回避し、反撃とばかりに黒い刀身の魔剣を振り上げた。

 「だが、攻撃まで素直過ぎてはな!」

 アルナはアルナで振り下ろされた剣をバック・ステップで避けると、彼女と入れ替わるようにガルドが突きを繰り出してきた。

 「考えなしの突っ込みは危険だってばっ!!」

 「ガルドが心配性過ぎるの!」

 思い切りの良く、上手く狙ってきたかのようなタイミングでの攻撃だったがBBAが回避出来たのは、一旦引いて間合いを取ろうとしていたからだ。

 「今の連携、偶然にしては……む?」

 更に斬り掛かってきたのを魔剣で受け止める、その重い一撃は単に身体能力だけではないと分かった。

 「魔法による身体強化かっ!!」

 「……は? 俺はそんな事はしてないが……?」

 「何!?」

 BBAが驚きながら剣を引けば、今度はガルドも後ろへ下がる。

 「自覚のないままやっていると言うのか……このレベルの事を……」

 日常の中でとまでは思わないが、戦闘などの緊張状態となった時に無意識に魔法を発動しているのかも知れない。 それにしても異常な事であるのは間違いなく、自分達四天王だけでなく魔王イリスにとっても侮れない敵だと分かる。

 「そして魔女姫アルナ、イリス様の闇の剣を砕いて見せたのも魔法を乗せた一撃……」

 敵が不意に自分の方を向いて言った言葉に「ほへ?」と首を傾げるアルナ。

 「魔法って……単なる気合だよ?」

 ホウキで飛ぶなどの魔法も使える事は使えるが、パンチやキックを繰り出す時にはそういう事は意識していない。 本当に気合を込めて攻撃しているだけだし、ガードの時も同様なのだ。

 「はぁ!?」

 BBAには咄嗟には理解出来ない、どうみても魔法なのに当人には使っている自覚がないなどあり得ない。

 「無自覚で魔法を使っているのでなく、無自覚で使っていたのが魔法だっただけと言うのか……?」

 鳥が生まれ持って空を飛ぶ能力を備えているように、この人間達には生まれ持ってそういう魔法を備えていたという事なのか、あるいはそもそも魔法ではないまったく別の何かのだろうか。

 自分のしている想像がひどく気味の悪いものと感じ、目の前の子供達が不気味な存在に思えてきた。 そうであればこそこの場で倒さなければという考えもあるが、そもそも今回の戦いに勝ち負けは最初から問題ではないのである。

 結果的に倒してしまっても良い事は良いが、イリスの命令はあくまで彼女らにちょっかいをかけて来いというだけだったのだから。

 「……それにこういう相手だと知ればイリス様も喜ぶか……」 

 小さく呟いた直後に「ちょっと! やるならやるでとっとと続けるわよっ!!」というアルナの苛立った声。 どうやらBBAが考え込んでいたので待っていたようである。

 まったく律儀な少女だと心の中で苦笑しながら剣を鞘に納めると、当然アルナとガルドは怪訝な顔をしたが、チャンスとばかりに攻撃もして行かない。

 「こっちの都合で悪いが今回はここまでにしてもらいたい」

 「はぁ? 何よそれ!?」

 「そっちから攻めて来て一方的に止めるなんて自分勝手な……」

 アルナもガルドも納得いかないという様子だが、それぞれ拳を降ろし、剣を納めれるのは、相手に戦う意思がないなら自分達も戦う気がないという意思表示である。

 「済まんな」

 流石に身勝手ではあると自覚はあるので素直に謝罪はしてから反転し歩き出そうとしたBBAだったが、不意に何かを思いだしたような顔になった。

 「最後に言っておく事があったな……」

 アルナとガルドが不思議そうな顔になったのは彼女の行動が唐突だったからだけではない、その視線が自分達ではなくここにはいない別の誰かを見ているようだったからだった。

 「私をBBAって呼ぶなぁぁあああああっ!!!! 私はブラッディ・ブラックアーマーだぁぁああああああああっっっ!!!!!!」

 実際咆哮めいたブラッディ・ブラックアーマーの叫び意味がまったく分からないアルナとガルドは、ただキョトンとなるしかなかった。

 

 

 オレンジに染まりつつある空を、ナリア・マスタージアは城のテラスで見上げていた。 

 「人には人の都合があるようにゴブリンとて彼らなりの都合や道理もある……が、人間にとっての厄介者は力で押さえつけるしかない」

 人間ではないが、人間に近く彼らの仲間・・である存在の象徴ともいえる長く尖った耳にそっと自分の手を触れさせる。 それから空に向かい意味深な嗤いを浮かべながら問いかけた。

 「しかし、その原因が人間の身勝手であったとしても……あなた・・・はそれを正義と呼べますか?」


 何はともあれ、こうしてバーンテオ国でのゴブリン騒動はひとまず沈静化したのだった……。

 


 

 

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