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魔女姫のゴブリン討伐作戦編


 ゴブリンとはファンタジー世界では知らぬ者はいないザコ・キャラである。

 この物語も一応はファンタジー・ジャンルと称しているので、やっぱりゴブリンは存在している。 

 緑色の肌をした体長一メートル程の小柄な体格でいかにも魔物らしい外見と聞けば何の捻りもないと思うかも知れない、だがこのセカイのゴブリンには独特の外見的特徴がある。

 それは何かと言うと、赤や黄色や紫と色とりどりのモヒカン・ヘアーだ。

 そしてそんなモヒカン・ヘアーなゴブリン十体に一人の少女が取り囲まれていた。 薄紫の短い髪や半ズボン姿は、ともすれば少年に見えるかも知れないが、近くで見ればほんの僅かに膨らんだ胸部が少女であると物語っている。

 「す~~~……」

 棍棒や短剣で武装したゴブリンに怯えるでもなく、少女は大きく息を吸い込んだ後、大地を蹴って駆け出し「あたぁぁあああっ!!」と正面にいるゴブリンに殴りかかった。

 「あぶぁっ!!?」

 少女の動きの速さに回避も出来ず顔面にもろに鉄拳を受け吹っとび、そして大地に叩き付けられたゴブリンはそのまま起き上がる事はなく、「……ひでぶっ!?」と断末魔の叫びを上げて爆発四散した。

 それは少女の拳がゴブリンの経絡秘孔を突いたから……ではもちろんなく、このセカイのゴブリンは死ぬと何故か爆発四散するのである。 しかし、何が原因でそうなるかは当の本人ゴブリンらも分からず、世界中の学者達もまだ解明できていない謎である。

 「なにぃぃいいいいいっ!?…あべっ!?」

 「一撃だとぉぉおおおおっ!!?……ぶぼっ!!?」

 更に驚愕の声を上げた二体を蹴りとパンチで吹っ飛ばした後に跳躍する、大の大人の身長程の高さで一回転してから着地すると同時に、ゴブリン達は爆発四散する。

 「おのれぇぇぇええええええっ!!」

 「よくもぉぉおおおおおっ!!!!」

 「まだまだぁぁああああっ!!!!」

 自分達に背を向ける形となった少女に迫る三体だったが、「まとめて来たってっ!!」と素早く振り返りながらの回し蹴りでまとめて吹っ飛び、やはり爆発四散。

 「仕方ない事だけど……やっぱいい気はしないなぁ……」

 そうは言いながらも、逃がしはしないよという風に残った敵を見回す。 もっとも、表情を見ればどっちも本心なのだろうとは分かる。

 とある村へと通じるこの道に出没しているこのゴブリン達によってすでに何人かの死傷者が出てしまっていれば、敵討ちという事は言わないでも逃がすという事はしてはならない。

 それでも、人間でなくとも命を奪うという行為に抵抗を感じるのが、このアルナ・フライハイトという名の少女なのである。

 「「「「ひぃぃぃいいいいいいっ!!?」」」」

 しかし、あっという間に仲間を四人も倒されたゴブリン達にしてみれば、少女のそんな表情も惨忍な笑みを浮かべる死神めいて見えていた……。


 ここで一旦、数日前に時間を遡る……。

 

 「「ゴブリン?」」

 アルナとガルドの声が被る、そしてその二人に「そう、ゴブリンですよ?」と答えたのは玉座に座るルシードでもなくその脇に立つ側近でもなく、長く奇麗な銀髪を首の後ろで束ねた女性であった。

 人間のそれより長く尖った耳を持つエルフという種族である女性の名はナリア・マスタージアという。見た目は二十代後半くらいだが実際にはその何倍もの時間を生きている。

 「どうも最近彼らの動きが活発になってるようなのよ。 正確に言えば魔王がこの城に現れたってくらいからね」

 ナリア自身はその時は居なかったが、城に仕える魔法使いとして詳細な報告は受けている。 

 仕えてるといっても特に決まった役職や肩書があるでもなく、ルシードから頼まれた事を手伝っているだけというのがナリアではあった。 彼女の能力や責任感が評価されての事でもあるが、礼儀さえきちんとしていれば立場や位に囚われたりはしない、そんなおおらかさがバーンテオの城にはあった。

 「それは魔王の影響という事ですか、先生?」

 弟子であり養子と言っても良いガルドの問いに「当たらずも遠からずってとこね」と答える。

 「魔王の存在が復活して凶暴化とかではなく、魔王の復活とこの城への襲撃の事を知って調子づいてるだけだと思うわ」

 連中の思考を分かりやすく表現すると、『魔王復活だ! 時はまさに世紀末だぜひゃっは~~~!!』であろうと、ナリアは説明した。

 ちなみに、ゴブリンがどこからやって来たかは誰も知らない。 もっとも有力な説は魔王イリスが現れるよりもさらに昔に、人間同士の戦争の手駒として召喚されたとものが棲みついて繁殖したというものがある。

 いずれにしても厄介者であるには変わりなく、法律で裁ける相手でもないので悪さをするなら退治せねばならない。

 「……なのでな、各地に兵を派遣し対処する方針なのだが……いかんせんこの前の襲撃で動ける者が少なくなっていてな……」

 「ん~~? じゃあ、おとーさん。 あたしが行けばいんだね?」

 父親の言いたい事を察したというよりは、なら自分の出番だなと思っただけという方のがアルナ・フライハイトという魔女姫であり、「なら当然、俺もですね」と言うのがガルド・ディアンという名の護衛騎士なのである。

 娘の言葉は頼もしいものであっても、やはり父親としては少しは嫌がる素振りをしてほしいものだと思うのも本心である。 娘に危ない事をさせたくないというのは父親としてであり、ゴブリン退治など一国の姫の仕事ではないと考えるのが国王という立場での想いである。

 だから、「そういう事だ」と頷く彼の顔は複雑そうな表情をしていた。

 「それでね、今回はあなた達も手分けした方が効率がいいでしょう」

 「ん? ガルドと一緒じゃなくていいの?」

 「ナリア先生、それは……」

 ガルドが抗議するのはアルナの護衛騎士という自身の役目のためだが、それは友人としての心配がないのではない。 長い付き合いであればアルナ一人で何が出来て何が出来ない事なのかは、ある程度は把握は出来るようにもなる。

 「二人して適当に暴れてくれれば連中もすぐに大人しくなるわよ、分かったかしら?」

 どういうネットワークがあるのかは知らないが、ゴブリンはゴブリンで噂が広がるのは速いのである。 バーンテオの魔女姫が討伐に出たとあればすぐに怯えて暴れるのを止めるだろう。

 「うん、分かったよセンセー」

 「……はい」

 アルナとガルドが頷くと、「じゃあ、お願いね」と微笑むナリア。

 「ゴブリンは我ら人間と同様の言葉は話せても人間の道理は通じぬ、そういう相手には力で道理を押し通さねばならんのだ」

 ルシードが言ったのは、ゴブリンという命を持った生き物に対する人間の一般的な考え方であった。 アルナとガルドは黙って頷き、そして旅の準備のために退室して行った。

 「……言葉は通じても道理の通じぬ相手には力で押し通す……か、人間相手には使いたくない言葉だな……」

 国王の誰にともなく言った言葉に、「まったくです……」とナリアは同意するのであった。

 

  そんなわけで、アルナはここ数日ゴブリン退治に奔走しているのであった。 

 

 「……ふぅ~」

 最後の一体を倒したアルナは大きく深呼吸し気持ちを落ち着ける。 自分のしたことは正しい事であるとは分かっているが、理由はどうあれ命を奪ったという事を忘れてはいけないと思う。

 しかし、背後から複数の足音が近づいてきて「てめぇ……」という怒気をはらんだ低い声が聞こえれば、気を引き締め直してから振り返る。 

 やって来たのは更に十体のゴブリンだが、そのうち一体は他の個体の倍近い身長があったが、赤いモヒカン頭のそいつも間違いなくゴブリンであった。 個体差とでもいうべきか、とにかく通常のタイプより大型で戦闘力も高いタイプも存在するのである。

 「あんたがボスってわけね?」

 最初に襲って来たのは見張り役兼足止め役だったのだろう、自分を見つけた段階で一体がこいつらを呼びに行ったのだろう。

 「小娘……まさかてめえ一人でオレ様の手下をやったとか言うか?」

 木材を伐採する時に使う斧を右手で構え威嚇しながらボス・ゴブリンが言う。

 「そうだけど?」

 間違いなく事実なのだが、ボス・ゴブリンは「はん!」と鼻で笑った。

 「武器も持たない人間の小娘がか? 噂の魔女姫とでも言う……」

 最後まで言い切る前に笑いが消えたのは、まさかという考えが過ったからだ。

 仮にこの娘に仲間がいたとしてもわざわざ姿を隠している必要もなく、逆に彼女が魔女姫ならこの状況に説明が付いてしまう。

 「そうだよ? あたしはアルナ。 アルナ・フライハイト!」

 「そうかい……オレ様はアッパ・ラッパーだ!」

 まだハッタリの可能性も充分に考えられた、噂なんてものがどこまで本当か分からないし、いくら強いといっても一国の姫が護衛の一人も連れてないはずはない。

 「あっぱらぱ~?」

 「アッパ・ラッパーだ!! やっちまえっ!!」

 アッパの号令と共に九体のゴブリンが一斉にアルナに襲い掛かるが、彼女にしてみれば先程より一体少ない数である、慌てることなく冷静に応戦を開始する。

 「きぇぇええええええっあぶぁぁあああああっ!!!?」

 短剣を手に真っ先に斬りかかって来た一体のみぞおちに拳を叩きこむと、更に左側からの敵を蹴りを見舞う。 吹っ飛ばされた二体が地面に叩きつけられ爆発四散するのに、他のゴブリン達が一瞬怯んで動きを止めてしまう。

 すかさずパンチを叩きこんでやった一体は、「こんな簡単に……あべっ!!?」と倒れ爆発四散。

 「小娘ごときっ!」

 半ばやけ気味に振るわれた棍棒を左腕でガードするアルナ、籠手どころか半袖の服で素肌が剥き出しにもかかわらず痣になるどころか痛みに表情を変える事すらしていない。

 「効いてないっ!!?」

 「女の子って馬鹿にするとこうなるのっ!!」

 反撃の鉄拳を顔面に打ち込み、更に一体を倒す。

 あまりにも非現実的な光景にアッパが「……冗談だろう?」と呻いた時には、すでに手下達は全滅していた。

 「後はあんただけ? それともまだ仲間がいるの?」

 アッパの呆然となりかけていた意識は、少女のその声で現実に引き戻される。

 「バーンテオきってのお転婆姫、あらゆる敵をその拳で砕く撲殺系魔女のアルナ・フライハイト……本物ってか!」

 いきり立った叫びと共に力強く大地を蹴って突進し軽々と斧を振り上げてみせ、そして躊躇なく振り下ろされたのを、アルナは「ひどい言い様っ!!」と後ろに跳んで避けた。

 「オレ様の手下をあっという間に皆殺し! そんな真似が出来る奴ならっ!!」

 「あんた達だって人に散々迷惑かけてて言うっ!!?」

 力任せに振るわれる斧を避けながら言い返す、ゴブリンにだって充分に退治されるだけの理由はあるのだ。

 「それがゴブリンっていうんだよっ!!……なっ!?」

 アルナはアッパの頭上を軽々跳び越える跳躍をし、彼の背後に着地したが攻撃はしなかった。 それはアッパには馬鹿のされてると感じさせ激しく苛立たせた。

 「こいつぅぅううううっ!!!!」

 怒りの感情に任せ振り下ろされた斧に対し、アルナは今度は避けるではなく拳を繰り出し真っ向からぶつけてみせれば、一瞬にして砕けたのはアッパの斧の方であった。

 「オォォオオノォォォオオオオオオっ!!? そんなんありかよぉぉおおおおおおっ!!!?」

 信じられないという風に声を上げたのも僅かな時間、柄だけになりただの短い棒となった斧を無造作に投げ捨て己の拳で殴りかかるという切り替えの早さをアッパは見せた。

 しかし、アルナは「ありなのっ!!」と両腕を交差させてガードしたのに、一度後ろに下がり間合いを開く。

 「おいおいっ!! よろめきもしないってかっ!!?」 

 訓練された兵士でもなければ体格の良い大人でさえ耐えられる威力ではないはずなのだ。

 「てめえ! どういう頑丈さだよっ!?……うぼっ!!?」

 そこへ腹部へのパンチを打ち込まれて顔を歪めるアッパ、人間との戦いで鈍器を使われ殴られた事もあるが、その時とは比較にならない痛みである。

 「たぁぁああああああああっっっ!!!!」

 「ち、ちょっと待って……!!?」

 間髪入れずに繰り出される蹴りを、アッパは避ける事も出来ずにまともに食らい吹っ飛ばされ、道のわきにあった樹木の太い幹へと叩きつけられた。

 「……嘘だろ……オレが……あばらばぁぁああああっ!!!!?」

 自分が負けたと認める間もなく、アッパは爆発四散した。

 しばらく油断なく周囲を警戒してが、もう敵はやって来ないと分かると「ふぅ~……ひとまず終わったか……」と安堵の息を吐き拳を降ろしたアルナであった。





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