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魔王四天王全員集結?編


不意に聞こえた小石の転がる音に、アルナとガルドはギョッとなって振り返るのと同時に少し前まで天井の一部だった瓦礫の中から二人の男の上半身が飛び出してきた。

 「こらっアルナっ! 私達を殺す気かぁぁああああああっ!!!!」

 大声で怒鳴りながらルシードが瓦礫から完全に抜け出したのに続き、誰がどう見てもモブキャラと分かる側近も必死の表情で抜け出していた。

 「ルシード王!?」

 「おとーさん!? 何やってんの? そんなトコで?」

 まったく分かってなさそうな娘とその幼馴染みを「それはこっちのセリフじゃぁあああいいいいっ!!!!」またも怒鳴りつける。

 「お前という奴は!! 何で城の屋根を破壊して入ってくるっ!?」

 父親の剣幕に多少は圧倒されつつも「う~んと、勢いとノリ?」と答えるアルナの表情には流石に悪びれた様子はあった。 おそらくは直感的に魔王イリス達の存在を感じ取って最短距離を突っ切ったという事かと呆れると同時に、そうしてしまうくらいに魔王という危険の存在を敏感に感じ取っていたと理解もした。

 「……ルシードという男、単なる凡人かと思ったがあの瓦礫の下からほぼ無傷で生還とは……案外侮れんか」

 親子のやり取りを眺めていたイリスがある意味感心したという様子で言うと、「まあ、単にギャグキャラ属性なのかも知れませんが」とメイド服の魔族ことレナスが苦笑する。

 「つーか、我の事を忘れるなよ貴様ら?」

 最初は愉快な見世物と思ったがいつまでも無視されてるのも不愉快なのでそう言ってみると、全員揃って「「「「あっ!!!?」」」」となったのに、これは本当に忘れたなと確信する。

 「……と、とにかく! あんたは何をしに来たのよっ!!?」

 「その男にはさっきも言ったが単なる挨拶だ、我の部下を撃退した者の顔を見たいと思ってな?」

 アルナに答えてからチラリと後ろを見やると、三人の女性達は承知という風に頷き、そのうち一人が前に進み出た。

 栗色も長い髪を持った彼女は、その赤い瞳でアルナとガルドを見やる。

 「私の名はラミアス。 魔竜ラミアス、魔王イリス様のお仕えする四天王が一人っ!!」

 名乗ると同時に空を斬り裂くように右腕を振るってみせる、指先に目を向ければいつの間にか爪が数センチ程伸びており、それでどんな敵を斬り裂くてみせるという意味なのだろう。

 「そして……」

 次に進み出たのは漆黒の鎧でほぼ全身を覆われた人物だ、身長や体格から成人女性に見える。 頭部も口元以外兜で覆われていいるが露出している肌は透き通るように白く、血の色にも言える唇の赤を際立たせていた。

 「私は、この黒き魔剣で魔王様に仇なす者を斬り捨てる漆黒の魔剣士! ブラッディ・ブラックアーマーっ!!」

 言葉の通りの黒き刀身を持つ剣を掲げてから、次にアルナ達に切っ先を向けた。

 「最後は私! 魔王城の家事は私にお任せ! 更にはイリス様に立ち塞がる敵をすべてこの大鎌で冥土に送るメイド、レナス・グリッパーですわ!!!!」

 銀色の髪の両サイドを三つ編みにしたレナスは、自身の身長程の長さの大鎌を両手で握り軽々と振って見せる。

 さながら戦隊物の登場シーンのような迫力に気圧されたかのように言葉を失う人間サイド……と思いきや、一人だけ多少違う反応をした少女がいた。

 「……四天王?」

 「そうだ! こやつらこそ我の自慢の四天王だぞ?」

 アルナの、キョトンと首を傾げる仕草を気にしつつも自慢げに答えるイリス。

 「何で三人なのさ?」

 「うぐっ!!?……そ、それは……」

 素朴な疑問を何となく聞いてみたつもりだったのだが、イリスがいきなり狼狽え始めるのをアルナは変に思った。

 「あーそれはだな……いや、いるにはいるのだぞ?」

 


 おどろおどろしい装飾の施された魔王城の門の前に立つ一人の老人。

 白い髪の毛を生やした頭には悪魔めいた二本の角を持ち、長い顎髭もまた特長的である。 白い魔法使いめいたローブを着た身体はがっしりしており老人のそれとは感じさせない。

 「余が魔王四天王の最後の一人! 大魔王モンバーンであるっ!!」

 大声で名乗りを上げるモンバーンだが、彼の周囲には人っ子一人いない。

 「余の使命はこの魔王城の門を守り、誰であっても不法侵入を許さぬ事である。 故においそれとこの場を離れるわけにはいかんという事よっ!!!!」

 怖ろしいくらいの威厳と威圧感を、モンバーンは放っていた。



 「……というわけだ」

 ちなみに『魔王たる我の命令が聞けんのか?』と恫喝してもみたのだが、『余は”大魔王”なので何の問題もないわ!!』と返されれば何も言えないのであった。

 これにはアルナも流石に困惑した様子で「……どこから突っ込んでいいんだろ……」と言うしかなかった。

 「魔王の部下が大魔王で、しかも門番って……そんな事あるんですか?」

 とても信じられないという顔でガルドが聞いてきたが、「……私にも分からん」と答えるしかないルシードである。

 「……ってゆーか、ラミアスってこの前のクロトカゲだよね?」

 現実逃避的なものなのか唐突に思い出した様に言ったアルナに「トカゲ言うなっ!」とラミアス。

 「……まあ、ともかくだ。 これで当初の目的は果たしたわけではあるが……」

 気を取り直してイリスが見据えたのはアルナだった、その彼女の金色の瞳にはどこか挑発的な雰囲気が視えるのを感じ取ったアルナは、「まだ何かする気?」と言いながら半ば無意識に構えていた。

 殺気というような危険なものは感じないが、それでもこっちにとっては迷惑な行為であるという予感はあった。

 「する気だな?」

 ニヤリと笑うイリスの前に黒い闇が出現し、そして十字へと形を変化させた。

 「我の創り出した闇の剣、並大抵と思うでないぞ?」

 右手で掴むとすぐに構えをとった、それが決して素人のものでないと分かるガルドは、自身も剣を構えつつアルナの前に出る。

 姫である自分を守るのが彼の役目であるからだろうが、それだけでない事も分かるのをアルナは嬉しく感じてた。

 「ガルドとか言ったな、まずは貴様が相手か!」

 言うと同時に床を蹴って迫って来るのを、ガルドは焦らず迎え撃つ。 お手並み拝見とばかりに振るわれた闇の剣を自分の剣で受け止めた。

 「速い……それにパワーも半端じゃない!?」

 「ふっ!」

 イリスはそれ以上は攻撃しようとせずに後ろへ跳びと「そんな普通の武器でよくも受け止めてみせるものよ……」と感心した風に言った。 イリスの魔力で強大な創られえた闇の剣はそこいらの量産品の武具など容易く斬り裂けた、この人間の技量も大したものだが、それ以外の何かもあると感じる。

 「……む?」

 そこで自分に向けられた刀身に刃がないと気が付いたイリスは、そういう事かと理由を理解し「魔法による強化か?」と確認してみると、「ああ、そうだ」と肯定された。

 そんなやり取りにラミアスは、「そういうカラクリか……」と自分の火球が斬り裂かれた理由を知ったが、それとて誰にでも出来る芸当ではないのであの少女らが只者でないには違いない。

 直後、今度はこっちの番と言わんばかりにガルド打ち込んできた剣撃をイリスが受け止める。

 「不必要な殺生をしないための戒めか、人間にしてはよく自分を律しているか……」

 この少年が並大抵の騎士など遥かに凌駕する力量を持っているのは今の一撃で分かった。 普通なら強化系の魔法は更なるパワーアップのために使うものであり、普段は自分の力を発揮できなくしておいて、いざ必要という時の備えというのはイリスの基準では人間らしくない。

 「何?」

 「人間とはすぐに強大な力に頼り、呑み込まれて暴走し破壊と殺戮に走るもの! 己の身勝手な正義を免罪符にな!」

 ガルドもまた後ろへ跳び間合いを取る、魔王の人間を馬鹿にした言葉を不愉快と感じながらも反論の言葉も浮かばなかったのは、まだ自分が若く知識や人間としての経験不足からだと思いたかった。

 「そういう言い方っ!!」

 苛立ち気な声を上げながらアルナが跳び出し、勢い任せに殴りかかる。

 「感情的な娘か……」

 虚を突かれながらも闇の剣の刀身を盾代わりにして受けた、闇の刀身に少女の白く華奢な手が触れた瞬間に閃光が走り陶器かガラスの砕けるような音が聞こえたえ、直後に激しい衝撃が少女達の身体を襲った。

 「むぅぅうううっ!!!?」

 「わきゃぁあああああっ!!!?」

 イリスはどうにか踏みとどまったがアルナは弾き飛ばされて床に叩きつけられてしまう。

 「アルナっ!」

 慌て駈け寄ったガルドが助け起こそうとするタイミングでルシードと側近も駆け寄って来る。 少年の手を借りて「あたたたた……」と痛そうな声を上げながら起き上がり、それから闘志の失われていない紫の瞳で魔王である少女を見る。

 「……闇を砕く? こういう非常識をしてみせるとはな……」

 闇の剣の長さが半分ほどになったのを驚きの表情で見つめる、おそらくはこれも魔法の力とは分かっても、普通であれば砕けるのは少女の拳であるはずだからだ。

 「さっすが魔王って感じだねぇ……」

 「みたいだな……」

 油断なく構えながら言い合う少女と少年の声にはまだ余裕もあるように感じるのは、向こうもまだ全力を出し切ってないという事なのだろう。 その理由はこちらを甘く見ているわけではなく、戦う相手の命を気遣うという戦い方のためだろうとは思えた。

 ゴブリンのようなものならまだしも、人間と同等の姿形をし心を持った存在は、魔族と分かっていても傷つけたり殺したりをし辛いのかも知れない。

 「……が、こうも面白い相手となればここで止めたくもないな」

 久々に感じる高揚感に満足したところで、「お待ちくださいイリス様」というレナスの制止の声が掛かった。

 「何だ?」

 「残念ですが、ここまでです」

 「ほう? 魔王である我がやる気なっているのを貴様が止めるか? そう言うからにはそれなりの理由があるのであろうな?」

 従者を睨み付ける瞳には、気の弱い人間なら簡単に怯えさせるだけの迫力があったが、レナスはそれを受けても困った方ですねぇ……という風に呑気な表情で主人を見返していた。

 「はい……今回はもう尺がなくなってきましたので」

 親が子供を諭すような言い方をするレナスの言葉に一瞬呆気に取られた後、「……むぅ……尺の都合では仕方ない」と納得し、半分の長さになったままの闇の剣を消した。

 「「はぁ?……尺……?」」

 アルナとガルドが何だそれ?という顔で困惑するのに、「分からんならそれでいい事だ、気にするな」と言うと、レナスも「そういう事ですよ?」と意味深に微笑む。

 「そうなの?」

 「いや……だから俺に聞かれても困るよ……」

 自分達の後ろでルシードが、「まだまだ若いな?」と何か悟った風な表情をしているは、二人は気づかない。

 「まあ、そういう事だ。 なに、貴様らとはいずれまた戦う事になるであろう」

 そう言って立ち去ろうとしたイリスは、一度だけ振り返りアルナとガルドを見やる、魔王である少女のその表情は、まだまだ遊び足りなくて残念だというように二人には見えた。

 「それではまたな」

 そして再び出入口へ向かう歩き出せば、配下である三人も続いて歩き出すのを、アルナ達はただ見送っていた。


 なお、この日の襲撃においてアルナ達の壊した屋根も含めて建物や器物の破損や、重傷者こそ多数で多ものの死亡者はゼロであった。


 


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