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イリス襲撃編


よく手入れがされていると分かる城のを中庭を少女と少年が歩いている、アルナ・フライハイトとガルド・ディアンである。

 「今日もいい天気だねぇ~?」

 すっきりした青空を見上げながらアルナが言うのに、「そうだな」というガルドの会話は、仮にも一国の姫とその従者のものには聞こえない。 十六歳という年齢の割に小柄な少女と十七歳の少年の平均より多少背が高いガルドでは、下手をしたら似てない兄妹という風に見える者もいるかも知れない。

 「ところでさ、センセーはまだ帰って来ないのかな?」

 「先生? どうだろうなぁ……?」

 この城に使える魔法使いであるナリア・マスタージアの事だ、”先生”と呼んでいるように二人にとっては幼い頃から様々な事を教わった人なのである。 

 魔法使いというだけあって魔法はもちろんだが、剣術や拳法といった武術にも心得があり、更にそれだけではなく様々な知識や人間としての大切な心構えなどといった事も知っている尊敬できる先生であった。

 魔竜襲撃の数日前にナリアが出掛けって行ったのは、趣味でもある書物収集のための旅行であったが、どのくらいかかるのかという事は聞いてはいなかったというのは、彼女の気分で長くもなったり短くもなったりするからだ。

 「まあ、いいや~」

 アルナがポシェットを開くとそこに手を突っ込んでホウキを取り出すのをガルドが当たり前にように見ているのは、彼女のそれが魔法のポシェットだと知っているからである。

 どの程度までの物が入れられるのかはガルドはもちろん持ち主の少女も知らないのだが、だいたい手で持てる大きさと重量の物なら入るようである。 

 もっとも、いくらファンタジー世界と言ってもこんな物がそこいらで市販されてるものでもなく、ナリアがどこからか手に入れてきたものを貰ったのである。

 「また散歩かい?」

 「うん、ガルドも行く?」

 それはガルドはガルドでホウキに乗って空を飛んでいくという事ではなく、アルナのホウキに二人乗りという事だ。 魔法というものは実在してはいても誰でも彼でも使えるというわけでもなく、更に魔法使いと呼ばれる使い手の中でも飛行の魔法となると多くないと聞く。

 アルナの魔法もその飛行の魔法としていいものではあるが、世間一般のイメージするそれとはやや異なる。 何故なら魔法は彼女自身が飛行するのではなく”ホウキを飛行させる”魔法なのである。 

 いろいろと試したもののホウキ限定であり他の物、チリトリやモップといった同じ掃除用品でもダメだった、理由は不明だが何故かそうなのである。 

 「……っていうか、君が行くなら俺も行くしかないだろ? 俺は君の護衛騎士なんだからさ」

 青い髪を掻きながら仕方ないという風ではあったが、嫌そうではないとアルナには見えた。 


 そんなこんなで少女と少年が空の散歩で出かけてからしばらくした後、事件は起こった……。

 

 ジリジリジリというやかましい音の発生源は玉座脇にある小さなテーブルの上にある黒い機械だ、指を使って回すダイヤルの付いた本体の上に載った受話器を手に取ると同時に音も止む。

 誰がどこから掛けてきたかは分からないが、少し前に爆発めいた音が聞こえれば緊急の要件なのは分かり「私だ……」というルシード王の声も緊張したものとなり、それを見守る側近の表情も険しい。

 「……侵入者だと? 城門を破壊? 少数のようだが正体は不明?」

 しかし、このような攻め方は国同士の戦争のセオリーにはなく他国が攻めてきたのはありえず、不満がまったくないでもないだろうが国民が暴動を起こす程の国内情勢ではない。

 「……魔族か……」

 他に考えられないが、それにしてもかなり非常識なやり方とは感じる。 だが、現実に攻撃をされた以上は迎撃を命じるしかなく、それを実行してから受話器を戻した。

 「魔族が何故また……」

 「さてな……だが、四天王の一人を追い返したとなれば目も付けられるか……」

 青ざめた顔の側近に答えた自分の言葉にギョッとなったのは、それである可能性に思い至ったからだった。

 「アルナとがガルド君か……!?」

 

  最初は怖さも感じたものだが、今ではガルドもホウキで空を飛行するのを普通のものと感じている。 それでも眼下に見える城下の街並みがミニチュアめいて見える高さにもなると、ホウキの柄を握る手に多少は力を込めてしまう。

 「……何か聞こえた……?」

 聞こえたとようにも思えるし頭の中に直接音のようなものを感じたようにも思う。 錯覚としてしまってもいいようなものだが、幼い頃から時々あるこの不思議な感覚が錯覚だった事はなかった。

 アルナの不意の呟きに、ガルドは「どうした?」と少女の後頭部を見やると、紫の短い髪の毛が風圧で揺れていた。

 「……音がした……お城の方……?」

 言葉と共に急にホウキをUターンさせたのに驚いたガルドは、「わっ!?」と声を上げながらホウキを握る手に更に力を込め振り落とされないようにした。

 「この距離で聞こえたのか……いつもの不思議な感覚か……」

 視界に入ってきたバーンテオの城までは直線距離にして数キロメートルはあるように思う、だがアルナ聞いた……いや、感じたのなら何かあったのは間違いないと思えるくらいの時間を彼女と過ごしているのがガルドのである。



  攻め込んで来たのがたった四人と分かって愕然となったのは、騎士隊隊長であるアッカー・イーザックだ。 赤い甲冑に身を包み通常の騎士の三倍の強さを要するといわれる彼女は、今は玄関ホールで多数の部下達と共に迎え撃っている。

 「たった四人……しかも子供連れとはどういう冗談だという……」

 一見すると人間なのだが四人共耳が尖っていて、しかしその長さは人間程という特徴から魔族とは分かっても、彼女らが次々と騎士や兵士を倒していくのは受け入れがたい光景だ。

 漆黒の鎧を纏った剣士が剣を振るい、軍服めいた服の女が手を振るえば兵士の鎧や盾が紙のように切り裂かれ、メイド服の大鎌は一振りで数人の相手を倒す。 そして、後ろからそれを愉快そうに見物しているだけ十歳くらいの女の子は、しかしそれだけでアッカーにとてつもないプレッシャーを感じさせていた。

 「これだけ出来れば正面突破もしようとは分かるが……何が目的なの?」

 しかし、それを考える余裕もなければ、相手に問いただせる状況でもなかった。

 本陣たる王城を攻められて撤退するという選択肢はない、どんなに絶望的でも戦うしかないのがバーンテオの騎士であるアッカーの使命である。 だが、彼女には希望がないでもなかった。

 「……ガルド、それに姫様ならば……」

 

 バーンテオの騎士達も奮戦はしたものの圧倒的な力の差は覆す事は出来ず、ついに魔族達はルシードのいる玉座の間へと到達してしまう。


 「……はじめましてだな、バーンテオの国王よ」

 金髪ツインテールの少女が不敵な様子で挨拶をしてくる。 その後ろに三人の女性が控えていれば、少女が一行のリーダーなのは容易に判断出来た。

 「君達は何者で、我が城に何の用なのかね?」

 ツインテールの少女は愉快そうに笑いと「そう構えなくてもいい、今日は挨拶に来ただけだ」と言う。

 「ふん……我が城の兵士達を散々殺して挨拶というか……」

 襲撃者がここにやって来たという事はそういう事である、ルシードは怒りの籠った目で少女を睨みつける。すると少女の顔が今度は心外だと言いたげなものへと変わる。

 「殺した? まてまて、それは誤解だ。 いや……ひょっとしたら不可抗力で何人か死んだかもしれんが、たかだか顔見せの挨拶程度であえて人死になど出さんわ」   

 あまりにも意外過ぎる言葉にルシードと側近は思わず顔を見合わせた……まさにその時であった……大きな衝撃音が彼らの頭上からしたと思った直後に天井の一部が崩落したのは。

 そしてそれをルシードと側近が理解しきる間もなく、一瞬前まで天井の一部だった石材が彼らへと降り注いだ。

 「「なにぃぃぃいいいいいいいいっっっ!!!?」」

 おっさん二人の悲鳴が瓦礫に飲み込まれるのを、侵入者たちは唖然と見つめていたが、しばらくして「な、何事!?」と最初に口を開いたのは少女であり、それに答えるかのように「それはこっちのセリフ!」と聞こえた声も女の子のものであった。

 声のした方を見上げれば、天井の空いた大穴からホウキに跨った少女と少年がゆっくりと降下してくる。 彼女らの顔を見て「貴様らはっ!!」と叫んだのは女性の内の一人だった。

 やがて着陸した後に少年が腰に差した剣を抜くと少女の前に立ち、少女の方も無造作にホウキを置くと少年と並び拳法のもの思える構えをとった。

 「あたしはアルナ・フライハイトよ!」

 「俺はガルド・ディアン! お前達は何者だ!!」

 ツインテールの少女がぽか~んとなったのは二人の名乗りに気圧されたからでなく、唐突に天井に穴を履けて入って来る者がいるのがあまりも想定外過ぎる出来事だったからだ。

 それでもすぐに元の不敵な顔に戻し、「くっくっくっくっ!」と嗤う。

 「そうか、貴様らが……我の名はイリス。 イリス・フェッセルン、魔王であるぞ!」

 腕を組み愉快そうな声で、ない胸を張って堂々たる威厳を放ち名乗ってみせた。

 「うふふふ……って! ない胸とか言うんじゃねぇぇぇええええっっっ!!!!」

 いきなり上げた大声の意味が分からず、誰に言っているんだろ?キョトンとなったが、すぐに二人ともこの少女がとんでもない事を言ったと分かった。

 「……イリス?」

 「魔王だって?」

 アルナとガルドは思わず顔を見合わせてしまうと、互いに驚きと困惑の入り混じった表情をしていたのであった。



   

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