4話 早乙女宅 2
沙耶さんが事情を説明したのか、お父様は来なかった。杞憂で良かったです。いえ、何があったんだと言う叫び声が聞こえたような気もしますけど、もう気にしない方向で良いですわ。
後で質問責め受ける気がしてなりませんけど。
「にしてもやっぱ早乙女の家は広いな……。俺の家なんか比べ物にならないぞ。桜ヶ丘の格差はやっぱり可笑しいレベルだろ。」
「まぁ、それで有名になった学園ですし。それを覚悟で佐藤くんも入ったのでしょう?」
「まぁ、そうだが、その、いざ現実を見せられると虚しいというかなんというか。」
仕方がないとはいえ、生活水準が天と地の差ほどある子達が同じ学園の同じクラスになってしまっている桜ヶ丘はやはり格差による僻みや蔑みの泥々とした空気が稀に流れる。むしろこれだけ集まってて稀に、で済んでいるのが奇跡なくらいだと思う。最も私のクラスが平和な原因は私が一斉に色々な感情を集めてるからですけど……。
コンコンコン
「失礼します、お菓子をお持ちしました。」
沙耶さんがお菓子を持ってきた。私の大好きなシフォンケーキ。勿論佐藤くんの分もある。
「では、失礼します」
沙耶が部屋から出て行ったのでまたすぐに二人になる。ケーキを食べながら、先程の会話の続きをする。
「えっと、さっきの話ですけど、気にしない方がよろしいかと。そういうものは気にすればするほど負のスパイラルが生まれて、余計に下へ下へと行ってしまいますわよ。」
「そうだな。考えるのはやめておこう。んで、さ、その、今更だけどそういえば何であんなに男をコロコロと切り替えるんだ?」
何だかすっごく今更なことを聞かれましたわ。でもこれ答えると佐藤くんと約束した勝負が不利になりますわよね。でもどちらかと言えば私に勝ってほしいというか何というか、少し期待してますし。
「えっと、一言で言えば飽きるのです。」
「飽きる?男に?」
「男に……というより行動?ずっと同じようなことしか言いませんし、同じ所ばかりデートで行きますし。それで飽きてしまうのです。」
「成る程。」
佐藤くんはしばらく考えて、ふと決心したようにこちらを見て、
「よし決めた。俺はお前を全力で飽きさせないように努力する。絶対に飽きさせないようにしてやる。だから、さ。よければ……。」
「ん?」
「いや、何でもない。忘れてくれ。」
何かを言いかけたようですが、言わないことを無理にきくのもあれなので話題をふる。
「そういえば、報酬なのですけど、一日好きにできる、でしたっけ。」
「お、おう。俺が勝ったら、1日好きにできるじゃなくて恋人になってくれる、に変更して良いか?」
報酬変更を要求されました。
1日好きにできるの方が良い条件な気もしますけど彼にとっては価値があるのでしょう。
「別に良いですけど、私を心から惚れさせないとそれは意味ない気もしますが。」
「1ヶ月、1ヶ月で早乙女、いや、彩が惚れるような男になってみせるよ!」
こ、この男、今私のことを名前でっ!しかも恥ずかしい台詞を言い切りました!
名前言われて少し嬉しかった私が恥ずかしいです!!いえ、その、確かに元カレたちには彩と呼ばれてましたけど!何か違うのです!
……あれ?でも、もし本当に惚れるような男になったとして、それだと結局報酬なしと一緒なのではないでしょうか。まぁ本人がそれでいいならいいのですが。
「ぇ、えっと。気合いは十分分かりましたから……。そんな事よりお時間は大丈夫なので?もう夜の七時ですけど、御両親が心配されますわよ。」
時刻はすでに七時過ぎになっていた。佐藤くんと会話していると時間が過ぎるのが早い。本当はもう少し一緒に話していたいのですけど……って何考えてますの私は!
「そうだな、そろそろ帰るか。ってどう帰るんだ。」
「大丈夫ですわ。沙耶、居る?」
「はいお嬢様。此処に。」
私が沙耶を呼ぶとすっと側に現れる。
「え、何処にいたんだ!?」
「えへへ♪内緒です♪」
お茶目にウインクを決めながら沙耶が佐藤くんに向かって言う。沙耶はいつもこんな感じで、我が家のメイドの中でかなり浮いている。
「は、はぁ。」
困ったように返す佐藤くん。沙耶が音も立てずに現れるのはいつものことなんですけどね。
「沙耶、佐藤くんを家まで送ってあげて。」
「了解致しました。ではこちらに。車に乗ったら住所をお伝えしてくれれば目の前まで行きますので。」
「わかりました。じゃ、彩、また明日。」
「ぇ、あ、うん。また。」
また私の事を名前で。これからずっと呼ぶつもりなのかしら……?
まだ仮の付き合いのはずなのですが……まぁ嫌ではないのでいいでしょう。むしろうれし……って。もう考えるのやめましょう。これ以上考えてると
「お嬢様?嬉しそうなお顔してますけど、どうされました?」
「はひっ!」
どうやら考えこんでいる間に佐藤君の送りが終わってたようです。いつの間にか沙耶が私の部屋に帰ってきていました。
「な、なんでもないです!それよりお母様に報告しに行きますよ!」
「ふふ、わかりましたよ。」
沙耶がにこにこしながら私を見ました。恥ずかしいので足早に向かいました。
佐藤くんが部屋を出て行った後、私は帰った事をお父様とお母様に伝えに行った。
そこでお父様に何かされてないかの質問責めと、お母様に何か進展はあったかの質問責めを受けた事を佐藤くんは知らない……。
とりあえず5話分一気に。次話から少しずつ投稿します。