15話 ふたりとひとり
時刻はお昼休み。私たちはいつものように屋上へ向かう。
出来れば今日は2人がよかったのですけど……。確かこの間一緒にお昼ご飯食べるって言ってましたし、来ますよね。
「やぁやぁやぁ!あーやーちゃんっ!」
噂をすればゆかたんが来てしまいました。相変わらず元気なようで。とりあえず今日の朝のことについて謝っておきましょう。
「ぅ、ゆかたん……今朝はごめんなさい。」
「いーよいーよ!それよりもお昼だし屋上いこーっ!」
ゆかたん。全く気にしてないよ〜って感じな雰囲気で流しましたけど、大丈夫な気がしないのは気のせいでしょうか。主にゆかたんの隣、結衣ちゃんから伝わってくる雰囲気が。
「えーと……結衣ちゃん?どうしたんだ?」
遼くんが耐えきれなくなって結衣ちゃんに話しかけました。何故か少し雰囲気が和らいだ気がするのですが。
「ん……別に何もない……です。」
「そ、そうか。」
むー。何か違和感があるのですが。でも確証もないので出来るだけ雰囲気が出ないように抑える。ただ、それでも遼くんにはバレたのか、少し焦っていた。
「え、えっと。彩、同じこと聞くけどどうしたんだ?」
「別に。」
何故か結衣ちゃんと私はお互いにじーっと見つめ合う。左右からの威圧感に耐えきれなくなったのか遼くんが露骨にゆかたんへ話しかけた。
「そういえばゆかたんはさ!」
「ん?あー、急にどうしたんって聞こうと思ったけど、察したわ。まぁ、頑張ってと。助け舟は出さないよ〜っと。」
「助けろよ!?」
ゆかたん、この状況を楽しんでますよね、絶対に。面白いことが起こるとすぐに悪ノリするのがゆかたんの悪い癖です。
微妙な空気のまま、屋上へ着きました。理由はわかってますけど遼くんが疲れた顔をしています。
「さー、お弁当会といきましょうかね〜!」
皆各々のお弁当を出す。私は遼くんの分も含めて2つなのですが…あら?結衣ちゃんも2つですね。ゆかたんの分でしょうか。でもゆかたんも持っていますし?疑問に思っていると次の行動ではっきりと答えが出ました。
「佐藤先輩、はい……作ってきた……。」
「お、おう。サンキュ。」
遼くんが結衣ちゃんからのお弁当を受け取る。
(えーと、この場合私はどうすればいいのですか。)
私からの無言の圧力が届いたのか遼くんが汗をかいて震えています。こちらを向かず、目線を合わせようとしないので私は呼びかける。
「遼くん?」
「ああいや、なんでもない。」
露骨に焦っているところを見るに悪いなとは思っているようで安心しました。流石にいくら仮でも目の前で他の女の子とだと気分が悪いですし。
「結衣ちゃんのはどんなのかな……。」
遼くんが私の顔を恐る恐る伺いながら結衣ちゃんのお弁当を開ける。中にはかなり完成度の高い料理が入っていました。一目でレベルが違うとわかってしまうようなレベル。私は料理が最近始めたばかりなのですが、結衣ちゃんはずっと作ってきたレベルです。料理の上手さでは絶対に勝てないと思いました。
「結衣ちゃん料理が上手だな。美味いぞ。」
「なははー。うちの妹は料理が上手でさ。家の晩御飯をお母さんの代行でやったりしてるんだー!」
それは上手くなりますよね……うちはすべてまかせっきりなので上達するわけもなく。常日頃どうにかしたいと思っていたのですが。ここ最近ようやく始めたばかりなのでそう簡単にすぐ上手くなるわけがない。こつこつと練習しましょう。
「成る程。ちなみにゆかたんはどうなんだ?」
「それがもう全くできないんだわ。卵は焦がすわ加減がわからずものすごく辛くなるわで。」
「そ、そうか。」
これを言っては失礼かもしれませんが、何故かゆかたんは性格上できないイメージしかなかったのである意味イメージ通りでした。
遼くんが美味しそうに食べる。結衣ちゃんが恥ずかしそうに、でも嬉しそうに遼くんが食べてる姿を眺める。
それよりも、さっきから結衣ちゃんがじっとこちらを見ているのですが。敵意を持った視線。
私も負けじと見返す。ゆかたんはそれを気づいているのか苦笑いで遼くんを見る。
「ん?ゆかたんどうした、成る程。」
遼くんが聞こうとして何かを察したみたいです。困った顔をしていますが。どうしたのでしょう
「んー、あー。えっと。結衣ちゃん、美味かったよ。」
「ねーねー佐藤くん。以前の彩ちゃんのとどっちのが美味しかったのー?」
ゆかたんが爆弾発言をする。私達の睨み合いはより厳しいものとな理ました。何故か負けたくない気持ちがあります。無理なのはわかってますけど。
「ぅ、ぁ。えっと。結衣ちゃん、ごめんな。やっぱ彼女である彩の方を贔屓目で見てしまうんだ。だからどれだけ美味しくても彩以外はありえないんだ。」
結衣ちゃんは不満げに。でもどこか満足げに頷いた。
「ん、わかった。」
料理の腕は負けているのがわかっているので、私も納得いきません。勝つとまでは行かなくても同レベルまで料理が上手になりたいものです。家に帰ったらこれから練習をしていきましょう……。
授業は何事もなく進み、放課後になりました。カラスの鳴き声が嫌に響く。
「部活、いきましょうか。」
「おう。」
今日は部活へ行くことになりました。正直気が乗らないのですが、今日は来て欲しいとゆかたんに言われてしまったので、行くことになったのです。
「んー。にしても今日来て欲しいってどうしたんだろうな。」
「何かするんでしょうけど、まぁ行ってみればわかるでしょう。」
部室がある旧校舎へ向かう途中、遼くんがお弁当のことを話し出した。のは別にいいんですけど。
「いやー、結衣ちゃんのお弁当美味しかったなぁ。結衣ちゃんは大人しいし凄く家庭的だな。」
結衣ちゃんのことを褒め始めた。目の前に私がいるのに。流石に気分が悪いので遼くんの頰を引っ張る。
「ねーえー、彼女の目の前で他の女の子のことを褒めるってどーいう神経してるのですかぁ?」
「ご、ごめんなひゃい。」
素直に謝ったので手を離す。私が全力で頰を引っ張ったので少し赤くなっていた。
「はぁ、全くもう……あら?」
一瞬でしたけど結衣ちゃんが居たような気がしました。一瞬見えただけなので確信はないのですが。結衣ちゃんだとしたら姉が部活で呼び出してるのの部活にいっていない事がおかしいですし、恐らく見間違いでしょう。
「どうしたんだ?」
「いえ、何でもありませんわ。」
「そうか。」
部室の扉の前に着いたのですが、えーっと、どうやるんでしたっけ。確か……。
コン、コンコン、コン
1、2、1の感覚でノックをする。ゆかたんに指示された部室へのノック。
「お、来た来たー。入ってー!」
部室に入ると、ゆがかたんしかいなかった。
「あら?他の方は?」
「んー。西岡さんは今日はどうしても来れないんだって〜。結衣は来る予定なんだけど、来ないんだよね〜。」
結衣ちゃん来てませんのね。ひょっとしたらさっき見たのは結衣ちゃんだったのかもしれません。
「ま、いっかー。彩ちゃんチェスやろー!」
「え、えぇ。」
メンバーも揃っていないのに急にゆかたんがチェス勝負を挑んできました。部活、三人で始めるつもりでしょうか。
「今回は勝ったほうが1つ命令できる権利ねー!」
何時もはできるだけ軽いのを賭けてくるのですが。私に勝つことが少ないから被害を少なくするために、でしょうけど。でも今日はかなりな勝負を挑んできた。まるで勝つことを予見しているかのようにゆかたんはニヤニヤと笑って、余裕でした。
「なーんか怪しいのですけど……わかりましたわ。勝負しましょう。」
三人しかいないことに凄く違和感を覚えながら勝負に応じる。遼くんが暇そうに私たちのチェスを眺めています。
チェスも中盤に差し掛かったころ、私がかなり優勢でした。何も策もなくいつも通りです。ゆかたんが何も考えずやるわけがないのですが……。それにしても結衣ちゃん遅いですわね。
「んー。遅いなー。そうだ、遼くんが結衣ちゃん呼んできてよ。今手が空いてるでしょ?」
「そうだな。呼びに行くか。」
遼くんが結衣ちゃんを呼びにいき、私達二人きりになる。恐らく意図的に作られた状況なんでしょうけど。だって目の前で露骨にゆかたんの雰囲気か変わりましたし。
「ねぇ彩ちゃん。」
「何でしょう。」
「今回の彼氏、遼くんはどこまで本気なの?いつもみたいにお遊びレベル?それとも本気?」
「……。」
カツ、カツ、としばらくチェスの駒を動かす音だけが部室に響く。それが何か焦りを生んでいました。無言の状態、黙っている時点で答えは明白。答えているようなものでした。
「そっか。なにも言わないってことは今回は割と本気なのかー。」
「何か?」
危険を感じ、つい刺々しい返事をする。次の言葉が薄っすらと予想できていますが。
「困ったなー。結衣が佐藤くんのこと好きなんだよね。ねぇ、良かったら佐藤くんから手を引いてくれない?彩ちゃんほどならほかにいくらでも探せるでしょ?」
「わかりましたというとでも思ってるので?」
「なははーそうだよね〜。だから。」
またカツカツとチェスの駒を打つ音が響く。その無言の時間が不気味でした。
急にゆかたんの雰囲気が変わる。嫌な感じの笑い方。
「ちと向こう様の反応を聞いてみることにしたよ。今頃佐藤くんは結衣ちゃんと会ったことかなー?」
バンッと机に駒を捨て、遼くんが向かった教室へ走って向かう。ひどく嫌な予感がしました。チェスの勝負はこの時点で放棄した私の負け。1つ命令を聞くなんて今はそれどころではありませんでした。
一心不乱に走って結衣ちゃんと遼くんがいる教室へ向かう。扉の目の前にきて、ふと冷静になり別に会うだけなら構わないことに気づく。でも、ここまで来てしまったので声をかけることにした。流石に他の人がいたら不味いので、そっと扉を少しだけ開けて覗いてみました。そっと覗いたことを中を見て後悔しました。
「な……!」
声にならない声、目の前で信じられない光景があった事による悲鳴に近い声。
遼くんと結衣ちゃん。二人しかいない教室の中で二人は抱きしめあっていた……。
手から力が抜ける。何が起こっているのかわからない。そのまま手がすっと下へ落ちていく。
パタン、と無気力に手を下ろした時に扉に当たる。その音を聞いて、遼くんがこちらに気づいた。
「あ……や……?」