12話 お家訪問2
逃げ出すように遼くんに連れられて2階へ。2階には、左右に扉があり、左の扉を遼くんが開ける。どうやらそこが遼くんの部屋のようです。
「ここが俺の部屋だ。反対の扉はトイレだよ。」
「ん。」
かなり整頓されていて、清潔感のある部屋だった。やはり私の部屋と比べてしまうと、どうしても狭く感じてしまいますが。と言いますか私の部屋はこの家のリビングよりも広いので比べてはダメな気がします。
それよりも気になるのが。これは男の子の部屋の独特の匂いなのでしょうか。不思議な感じのいい匂いがして、すこし戸惑いました。
「いい匂いがします。」
別に特別なものなどなく、ごく普通のどこにでもありそうな部屋なのですが。
「別にいい匂いがするものなんて置いてないんだけどな。俺も彩の部屋、いい匂いがしたぞ。うーん、彩ちゃんの匂いかなぁ。」
と言って突然私に近づいてくる。徐々に遼くんの顔が近づいてきて。
「か、可愛い。」
「その恥ずかしいです。」
かなり遼くんの顔が近い。ドキドキします。
ガチャッ
突然扉が開いてびっくりし、そちらを向くと、遼くんのお母様が居ました。
「あ、ごめんなさいね。お邪魔しちゃった感じ?ラブラブね〜。はい、ジュースとお菓子持ってきたから、机の上に置いておくわね。じゃ、ごゆっくり〜。」
遼くんと私はそのままの状態で固まり、唖然としていました。そのままスッと遼くんのお母様は部屋から出ていきました。私達のはしばらくじっとお互いの顔を至近距離でみて、急に恥ずかしくなりました。
「えーと、その。うん。ま、まあゆっくりして行ってよ。」
遼くんが私から離れようと後ろへ下がろうとする。何故か私は離れて欲しくないという衝動に駆られ、遼くんの腕を掴んでいました。
「遼くん。」
「お、おう。どうした?」
何で離れてほしくなかったのかわからなかった。ただ何となく離したくなかったからそのままつかんでしまった。
「あ、い、いえ、何でも。」
理由は私もわからないのでとりあえず誤魔化す。遼君は不思議そうな顔をしましたが、特に気にしてないようでした。
それよりも。
どうしてかすごく言いたい言葉があるのです。言わないといけない言葉。今の気持ちを伝えるのに的確な一言。でもその言葉が何か、引っかかって思いつかない。
「遼くん。」
「ん?どうしたんだ、彩。」
「いえ、何でもありません。」
「なんだ、どうしたんだ彩。さっきから何でもない何でもない言ってるけど何かおかしいぞ?」
さっきのことと言い私も流石におかしいとは思いますが、答えようがないので困りました。
何を伝えたかったのか、自分でもわかりませんでした。言いたい言葉があるのに何故かその言いたい言葉がわからない。普通ならあり得ない、可笑しな状況に、悩む事になりました。
(本当に何がしたいのです私は……。)
「ま、いいや、折角だし何かうちで遊んでくか?」
遼君が家庭用ゲーム機を示しながら私に問う。微妙な雰囲気になったので少しでも楽しい雰囲気にしようと遼君なりに配慮してくれたようです。
「あ、そうですね。私家じゃできませんし、折角ですし何かやりましょうか。」
「そうだなぁ……。これなんかどうだ?」
遼君が持ってきたのは遼君が私の家へ向かうときにやっていたあのゲームでした。
「あ、それ……。」
「おう、持ち運び用と家でやる用があるんだ。興味ありそうにみていたしこれならいいんじゃないかなって思ってさ。」
確かに興味はありましたけど、どうせできないとわかっているのですっかり忘れていました。
「そうですね。それにしましょうか。」
基本的なことを教えてもらったら思ったより単純でさくさくできた。
「うーん、初心者がここまでできるものなのか……?上手すぎる気がするんだが。」
「そう?」
ボタンを押すだけで別段難しくなかったのですが、遼君曰くどうやら上手だそうです。
やったことないので正直基準さえわかりませんが。
「むぅ。彩はやっぱり何させてもできるんだよなぁ。」
遼君とゲームするのが意外と楽しくて、気づいたらだいぶ時間が経っていた。
あまり遅くまでいるのも良くないので、そろそろ帰ることにする。
「そろそろ帰りますわ。」
私が帰りの準備をしていると、丁度部屋に遼くんの御両親が様子を見に来ました。
「あら、早乙女さん、もう帰っちゃうの?」
「ええ。あまり遅くなると心配されてしまうので。」
主にお父様が、ですけどね。紫雲さんに行先は伝えてもらっているのですが、お父様は心配性なのか、私が遅くなるとうるさいのです。丁度準備が終わったころ、外で車のエンジン音が聞こえてきました。紫雲さんが到着したみたいですね。相変わらず手早いもので。
「迎えが来たようですので、帰ります。」
「遼のことをこれからもよろしく頼むよ。ああ、あと早乙女さんの御両親によろしく伝えておいてくれ。」
「はい、ではお邪魔しました。」
そっと家から出る。すると車の前に紫雲さんが待機していました。こう、あまり目立つような行為はしてほしくないのですが。お父様の命令で何が何でも彩は少しでも危険な目には会わせるなといわれているようで。紫雲さんはいいのですが、偶に煩わしく感じることもあります。
「お待ちしておりました。では、お車の中へ。」
「お迎えありがとうございます。」
車に乗って家に帰る途中、あの遼君の腕をつかんだ時、私が何を言いたかったのかずっと考えていました。