つまらない僕が素敵な彼女を見つけ出す。
(江藤さん…!いるのか…?いるなら返事しろよ……!)
渚月は、ただそれだけが気になって人混みへと歩いて行く……。
「お〜、おはよ!茅間。茅間も、伊瀬先輩のファンなの?」
女子のクラスメイトが渚月に気づき声をかける。
その声が聞こえた祈里は、渚月とは初対面なので挨拶をしようとして、渚月の方へ1歩前に出たのだが。
「こんにちは!私は、2年E組の ー 」
「すいません、ちょっと急いでて…。」
渚月は、その挨拶をスルーして祈里の横を通りすぎ、人混みへと入った。
渚月にとって今は、祈里の事など気にしている場合ではなかった。
何故なら聞こえてしまったからである、喋らない彼女の助けを求める心の声が。
「いた…。」
人混みの中に隠れて居たのは、机に書かれた落書きを濡らした雑巾で何度も何度も力強く拭いている美玖の姿だった。
「え、何これ…。」
「もしかして、江藤さん?」
祈里や教室に集まっていた一部の生徒が今まで気づかなかった場違いな状況に驚いていた。
恐らく、美玖をこの状況に追いやった生徒数名が隠す様に集まっていたのだろう。
(……。)
そんなことが起きていると、知っただけで渚月は凄く悲しく思えた。
すると渚月は、何も言わず直ぐに美玖の雑巾を持っている右腕を掴み雑巾を奪ってその場に捨てた。
(え…なんで……。)
渚月を見る美玖の顔はとてもじゃないが酷かった、目は赤く腫れていて、鼻水もかまないで、すっている…まさに、今にも泣きだしそうな……いや、散々泣いた上にまた泣きだしそうな顔だった。
そんな美玖に、渚月がかけた言葉は
「約束…でしょ?」
たったその一言だった。
ただ、その一言が美玖にとってどれだけ心に響いたかは誰にもわからない。
「ありがとう……。」
と、彼女は初めて小さく囁き程度だが喋った事も渚月には知る由もなく…渚月は、直ぐに美玖を引っ張って教室を出た。
(え……。ちょ、ちょっと…!どこに行くの?)
「屋上だよ。」
(でも…!もうすぐHR……。)
「いや、どう考えても昨日の事を先に解決させた方がいいと思う。」
渚月がそう言い張っると二人は黙って屋上に向かい廊下を歩いた。
そして、渚月の手はまだ美玖の右腕を掴んだままだった。