砂時計が落ちるまで
紅茶を飲む前に、蒸らす時間がある。
3〜4分ほどの短い時間だけれど、私にとっては幸せな時間。
カランカラン。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
「おや、今日は学校帰りかい?」
「はい!」
「ご注文は?」
「いつもの紅茶と、あと日替わりケーキを」
「はい。紅茶の注文入ったよー」
「はい」
このお店を見つけたのは、数ヶ月前。
突然の雨から避難するために、たまたま入った時に出会った喫茶店。
優しいオーナーさんと、社員として働いている男性の二人が、切り盛りしている小さなお店。
「こちら紅茶です」
「ありがとうございます」
そして、私はこの人に恋をしている。
ちょっと無愛想なところがあるけれど、仕事を真面目にしているだけ。
今、目の前に蓋をしたティーポットと空のティーカップ。
そしてゆっくりと落ちる砂。
この砂が全て落ちるまで、彼は決して席から離れない。
紅茶セットを置いて、「砂時計が終わったら、飲んでください」と言って立ち去ればいいのに。
それを彼は決してしない。
短いけれど、彼がそばに居てくれるこの時間がとても好き。
砂が全て落ちると、彼は手際よくカップに紅茶を注ぐ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「ごゆっくり」
「はい」
最初の一杯目は彼が淹れてくれる。
その紅茶はとても美味しくて、いつも幸せな気持ちになる。
「はい、ケーキどうぞ」
「ありがとうございます! 紅茶も美味しいです」
「そう? 紅茶美味しいってさ」
「どうも……」
あ、ちょっと笑った。
なんか、可愛いな。
「今日もここで勉強していいですか?」
「あぁ、もちろん。ゆっくりしていきな」
「はい!」
週に一度の特別ご褒美。
いつか彼と楽しくお喋り出来る日が、来たらいいな。
#いいねされた数だけ書く予定なんてひとつもない小説のタイトルを言う というタグより。
「砂時計が落ちるまで」でした。
タイトルだけ見た時、「え、これ悲恋になるんじゃね?」って勝手に思ってたんですけど、ちょうど紅茶飲んでて、「あ、そういや紅茶ってなんか蒸らすんだよなー」ってなりこんなお話になりました^^*
読んでくださり、ありがとうございました。