舞崎さんの信じる友達理論:前編
前回もう少し頑張りますって言ったな?
ア レ は ウ ソ だ。
何故だか腑に落ちない感情。
俺にとってそれはきっと思いやりとか、優しさとか、そう言った、人に慈悲をかける様か感情。
勿論それは悪いものでは無い。
単に持ち合わせているかいないかって話だ。
それが無い人というのは、善行と言うものを知らない。
もっと言えば、いわば知るに足らない物なのかもしれない。
俺はどうだろう。
知っている様で、でもはっきりとは考えた事は無い。
しかし、紫苑はかつて俺にこう言った。
「先輩は優しいんですね」
優しいってなんだろう。
俺と言う人間は優しいのだろうか。
まるでそうは思えない。
現に俺がそれとは正反対に思われているからだろうか。
昔の俺は優しさの塊だとか優梨乃は良く言うが、それはあくまで昔の俺。
部分的とは言え記憶を無くし、主人格すらも思い出せない俺では昔の俺と言われても何もピンと来ない。
それでも俺が優しいと言うならば、それはきっと俺の理性とも言える何かなのかもしれない。
でも理性は理性。
俺の本能に近い存在であって俺の意思じゃない。
であるからにして、俺は優しい奴ではない。
そう証明したかっただけだ。
「何をそんなに悩んでいるの?」
決まっている。
俺がもし、本当に人を殺そうとする野蛮な人間だとしたら、これ以上優しくてもなんら意味が無い気がするだけだ。
このまま彼女らと一緒に日常を過ごして良いのだろうか。
迷惑じゃなかろうか。
_____もう…誰も傷つけたくないんだよォ!
「じゃあやめちゃえば?」
そう…出来たら苦労はしない。
でもそうさせないのは、"俺"なのだろう?
「どうだろうね」
まるで他人事だな。
でもしょうがない。
だって___
___
「…ぱい、先輩ッ!」
目の前に現れた怪訝そうな表情。
女性。
つまり紫苑が何かを心配していると言う情報を獲得した。
そしてふと気づいた。
俺はボーッとしていたんだ。
でも、そんなことより重大な問題が一つあった。
「…」
「ぼ、ボーッとしてないで早くフライパンを!」
数秒後俺はそれを理解する。
一人暮らし始まって以来の久々の大失敗に驚きを隠せず怒号する。
「ぎゃああああああああああ!卵がああああああああああああ!」
___
ってな事があった。
食卓を覗くと確かに一品だけ、物体エックスと呼ぶにふさわしそうなドス黒い食べ物が置いてある。
…俺の前に。
「いっただっきまーす!」
紫苑の前にはそれに対を成す如く、純白の目玉焼き。
皿の上に綺麗な満月が登っている様だ。
対して俺は新月どころか、星の輝きさえ無い。
「…アレ?先輩は食べないんですか?」
「誰がジ○スパーク喰らわねぇか、だ。パン一枚でいい」
「それじゃあ精が付きませんよ!」
その体と性格で精とか言ってくれるな。
たとえ正しくて如何わしくなくても危なっかしいんだよ、ぱふぱふの一種にしか聞こえねぇんだよ。
いやまあ、ぱふぱふがどう言うものかは知らないけど。
「先輩、今日はどうしますか?」
またこいつは…何を訊くかと思えば、今日の予定をなぜお前如きに言わなきゃならんのだ。
夫婦じゃあるまいし、それ以前に彼氏彼女の間柄でもないのに。
知りたくてケータイ覗き見ちゃうくらい気になる事でもねぇだろうよ。
「寝る」
「寝るぅぅっふぅ!?」
即答。
当たり前だ。
あんなに女子に怒鳴られて、まして俺が酷い事を言った様なものなのに、満足に休日なんか過ごせるか。
もうしばらく何も考えたく無い。
「あ、そうです!私と遊びましょう!」
「どうしてそう言う発想になる…」
「だって前回のお休み、先輩とお掃除して過ごしちゃいましたから。今日こそは絶対に遊びましょう!」
誰か俺に休息をくれ。
紫苑にも休息すると言う教育を与えてくれ。
遊ぶったってどうするんだ?
どうせ女の子だから、遊ぶっつったらショッピングとかゲーセンとかドラッグとかセック…___
「…さ、参考までに聞く。俺は偏見が激しいからな!遊ぶってどうするんだ?」
ダメだこれ以上考えると俺の人間嫌いを改めて自覚してしまう。
こんな腐った脳みそに遊びを期待するなら無駄だ。
どうせ今時十代後半から二十代以降の奴らはヤる事しか脳に無いとしか思ってないからな。
そんな事して遊ぶって、得るものは友情とか思い出だけじゃなくてオキシトシンくらいだ。
つまんねぇ。
誰が化学物質得て楽しいもんか。
言葉だけ聞けばやってる事は薬中と変わらねぇじゃねえか。
「んーっとぉ…」
こいつ、性格だけは変態だからな。
容姿とか胸とか脳みそはそこそこいい癖に色々残念だからな。
もう不安だな。
一体どんな答えが飛び出すんだ…。
「ドッグラン!」
___うっわ…。
唐突に涼しい風が吹いた気がした。。
怖気が走るよ。
それはどう言う意味だ?
俺がお前と言う雌豚を飼えばいいって事か?
お前一体どこからオキシトシン湧いてるんだよ。
「俺ん家にペットはいない」
「あ、そうでした…チェッ、先輩に飼われようと思ったのに…なんて」
おい今小声で俺が恐れてた事サラッと言ったぞこいつ。
ともかく、今日は大人しく___
「じゃあデパート行きませんか!」
「…」
さ、参考にはなるし、明らかな正論だ。
しかし、肯定すると俺に今日の休日は保障されない。
…どうしようか。
「な、何をしに行く?」
「お洋服とか買いに行きましょう!」
くそッ!
思いの外正当な理由だ…!
しかも、キラキラしている…目が、キラキラしているッ!
珍しく真っ当な理由で出かけようとしているこいつの誘いを断るのは…苦だ___
とでも思ったか。
「…じゃあ、洋服だけな」
「わっほぉおおおい!やったあああああ!」
…べ、別に苦じゃ無いし。
ただ、一人だとこいつがデパートをゴミ屋敷にしそうで怖くなっただけだしッ!
決して一人だと寂しいだろうなって同情したんじゃ無いんだからねッ!
けっ…ツンデレかよ。
キモッ…あ、また自分で言ってしまった。
とにかく、俺も俺とて、一人暮らしが始まってから服を買うこともそう無かったし、良い機会かもしれない。
特に休日の過ごし方を見つめ直そうと言う訳じゃ無いが…ここはひとつ肯定的にこの状況を捉えて___
「早く食って準備して来い」
「はいっ!」
紫苑のご機嫌が急に良くなった。
こいつの元気さ加減には限界と言うものが無いのか?
まさに底なし沼。
銀河。
怪物。
…なんか今日も嫌な予感しかしない…。
___
休みの日に近所のスーパー以外の場所に出かける事など四、五年は無かった。
そうだからこそ、今日、俺の人生の歴史の中に新たな歴史が紡がれた。
「…辛いよぉ、帰りたいよぉ…ってうわぁ!ぐっんんぬぉおおおおお!」
「先輩、変な声出さないで下さい。少し人の群れに突っ込んだだけです。それに、先輩にかかればしばらくすれば皆から退いてくれますよ」
「そ、その現象って、平ヶ丘だけでしょぉ!?」
何が言いたいかと言うと、四、五年振りに電車を利用している俺は人混みに慣れてないから、もうなんて言うか今すぐ死にたい気分なのだ。
この気持ち分かってくれる人いないかな?
あ、また来たでっかい塊。
「さあ先輩、ココ超えたらもうすぐ着きますよ!」
「よ、よぉし、ふっんんんんぐうううああああ!」
この人混みの中、付き人から離れると見つけるのに絶対時間がかかるな。
それこそ大きな嵐の中、船から大海原に放り出されたように無造作に流されて行ってしまうのだろう。
こんな経験、果たして今まで俺はして来ただろうか?
いや、していない。
ここ、古語…ってんなこたいいか。
その所為か、異常なまでに集中力が高まっている気がするまである。
一言で表すなら…そう___
ここは、戦場だッ…!
「あががあああぃいいうああおおお!」
「…何してるんですか先輩?変人みたいですよ?それより前みて下さい!」
「へ…?ハァ、ハァ…」
ちょまって、どエライ疲れてんねん、と言いたいがそうもいかない。
目の前に聳え立つ巨大な彩られたコンクリート群、張り巡らされた窓という窓。
それに反射する陽光。
そして人混達。
紛れも無い、ここはデパートとか言う、こっからが本番だぜと言わんばかりの戦場が用意された人々の憩い(大嘘)の空間。
都会だ。
俺は地元を離れればそう顔が効く男で無い為、周りの人々は俺を避けるどころか、気に留める事もしない。
それはそれである意味嬉しい気はするが、そう思うのはなんだか負けな気がするので歯を食いしばる。
それに、気に留めてないからこそ、この人という波に飲まれそうになっているのだ。
これを災害と呼ばずなんと呼ぶんだ?
しかし、それ以上に物理的に紫苑が俺の腕を引くのだ。
あぁ、腕がもげそう…。
「先輩、ついに着きました!ここが、フィザードパレスですッ!」
家を出て死闘を繰り広げる事三十分くらいだろうか。
パレスと呼ぶにふさわしいくらいどデカい、凸凹とした如何にも物質と呼べそうなくらい人工的な建物。
これこそが地元一のデパートメントストア、フィザードヒルズである。
まあ詳しくは知らないけど。
縁が無いし、そもそも行きたくないから。
着いたからといって特に感想もないのは、感想を言う気すら失せるくらい、その存在が圧巻であったからだ。
ここでこいつと洋服を買うために俺は今ここにいると思うと一層の事死にたくなる。
しかし、待っていなくても俺は今日既に死地へと引きずり込まれる事になるので、気にしなくても良いよね!
ほら気づけばもう体がグイッて…___
「さあ先輩!目的地はもうすぐそこですよ!」
「あああじゃぱあああああああああ!」
再び腕が引かれる。
___キャッ!
変化はすぐ訪れた。
紫苑が何者かにぶつかったようだ。
そう察するように、俺の腕に繋がれた紫苑の手から軽く衝撃が走る。
更にその衝撃だけでは飽き足らないと言うように紫苑がよろけた体を俺に預けて来る。
その反動で咄嗟に受け止めた俺も少しよろける。
「っと」
「す、すいません…ぶつかっちゃったみたいで…」
謝るなら俺じゃなくてぶつかった奴にだろ。
まあこう言う都会じゃ、ぶつかったところで謝る前にどっか行っちまうまであるしな。
でもホラ、相手が女子中高生だったら後で___
「ねぇ何なのアイツ、キモくない?」
「さっきアンタの事いやらしい目で見てたよ」
「やだぁ、通報した方が良くない?」
なんて事になりかねない。
恐るべし、女子。
「ちょ、ちょっと…」
ホラ来た。
まあぶつかったの俺じゃないし良いんだけど。
でも厄介ごとに巻き込まれるのはゴメンだ。
「す、すいません、連れがご無礼を…___」
「えっ…?」
それを厄介事と呼ばずなんと呼べば良いだろう。
やっぱり女子って怖いわ。
紫苑も吃驚だぜ?
目を見開き、目の前の奇跡に絶句する。
「せ…青娥…」
「榊…」
今一番、会いたくない奴にあってしまった。
強引な注文は今日ばかりは受け付けれないぞ…。
なんとかして逃げなくちゃ…。
そんな使命感が動く。
それほどの緊急事態という事だ。
「待って!」
振り返ったところで遅かったようだ。
俺のもう片方の腕は榊の手に掴まれた。
俺の首が反射的に、しかしブリキの機械のように榊の方に回転する。
ひとまず感想だが…___
___目つきがすっごく怖い…。
逃がさないとでもいうのか?
それだけはヤダ!
今のこいつの目つきなら、俺平気で殺されそうだ!
「あのさ…」
HA☆NA☆SE!
あっ、こっちはマズかったか。
離せ!
俺はまだ死にたくない!
どうせろくな事注文しねぇだろお前!
どうせ帰れとか言うんだろ!
「ちょっと、先輩は私のですよ!引っ張らないでくださいっ!」
お前は何火に油注ごうとしてんだァ!?
やめろ、今こいつと関わりたくないんだよ!
大体今一緒にいるお前だって敵対視されてる筈なんだぞ!
気安く声かけに行ってるんじゃ無ェ!
っつかまずぶつかった事謝れェ!
「は…?何言ってるの?そうじゃなくって、ちょっと二人に来て欲しいんだけど」
垂れたあああああ!
油垂れちゃったあああああ!
元からかもしれないけど今榊結構目つき悪いよ!?
俺が言うのも変だけど怖いよ!?
やめとけって絶対路地裏でシメられるよ~!
「な、ナンパですとぉ!?」
そうじゃ無ぇだろおおおおお!?
「だから、話あるからッ!少し付き合ってよ!」
「つ、付き合えぇええぇぇぇええええ!?そんなド直球な…」
だからそうじゃねぇだろおおおおお!
もうお前黙れよ!
良い加減黙れよ!
「いいぃだだだだだあああ!」
なんか両方に引っ張られてんだけど…。
やめてぇ!
腕ちぎれるゥ!
らめえええええ!
「早く来て…」
「言っちゃダメですよ先輩!」
お前らなんで街のド真ん中でドラマ作ってんの!?
やめろって目立つし腕が千切れんだろうがァ!
「あ、あのっ!」
その声が信号になったように二人の力がスッと抜ける。
拍子に俺の体も力が抜けたようにぐったりと腕が垂れる。
腕がもげるかと思った…と安堵する間も無く、事態は揺れ動く。
「ば、場所…変えませんか?」
俺の腕を引き千切ろうとしていた二体のオーガから出たでもないその声は、薄々空気になりかけていた榊の連れらしき男のものだった。
オドオドしていて、如何にも生まれたての仔鹿を連想させるその子の言う通り場所を変えないと、いくら人だらけの場所でも、騒ぎ過ぎた所為か、視線が集まり始めてしまっているようだ。
_____
フィザードパレスまでの道のりで色々あった三十分に更に三十分。
何故か今のような状況になっている。
フィザードパレスの中、とある喫茶店。
俺の正面には女の影は無く、男が一人座っている。
申し訳無さそうなツラで俺を見るのだが、その視線は常に泳いでいて定まらない。
それ以外に視線は無い。
あのバハムート達は勝手に話を進めた挙句、俺とこいつを残して何処かへ行ってしまった。
ツケも俺に回して。
それは数分前の出来事だった。
___
読者の皆様、Sieg004です。
今回もからっきし長いのを書く気が出ません。
自分本位ですいません許してください。
でもなんでもしますとは言ってませんよ。
構想はちゃんと練ってます。
ただ文才がなくて困ってます。
精進しなくては…(使命感)
P:S:的な感じで。
ルビの振り方最近知った…。
いずれ添削、遂行時に必要な箇所にルビ振るようにします。
その時こそ本当に皆様、この不肖の作家Sieg004の事をよろしくして頂けると有り難いです。