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榊さんの不躾なお願い

夏バテが激しいです。

誰かカルピスのCMみたいな青春をくれ。

しばらく日が過ぎた。


一週間くらいだろうか。

舞崎まいさき紫苑しおんとの一件を経て、俺は忙しい毎日を送っていた。


それはもうぶっ倒れそうなくらいに。


毎日欠かさず優梨乃の見舞い、シフト制のアルバイト、家事、学校。

もはや高校生の生活としては程遠いものを感じる。


因みに、紫苑に関しては、俺の家の半ば居候として三食を召し上がりに来る幸せ者と成り果てている。


アレが食べたいコレが食べたいと駄々こねないだけマシだとなんとかプラスに考えようとするが、意外にもコレが大食漢であった。

あいつ男じゃないけど。


昨日の晩御飯、炊飯ジャーに入っていた米の二合分の米が、彼女の胃袋に吸い込まれて行った。

本来一人暮らしの俺が炊く米は二合で上等なのだ。


まさかそこまで食うと思ってもいなかったもので、最終的には俺の茶碗まで明け渡すことになってしまった。


お陰で腹が減って動きたくない気分である。

もう朝の六時になる頃だ。


いつもならここで起きて、身支度を整えた後、掃除機をサッとかけて、キッチンに立つ頃だ。


普段から働く事が多いからこそ、運動には事欠かないが、体の性質や今までの性分、環境上俺の体内時計と

生活リズムは完全にニートそのものである。

それを無理矢理一般以上の水準に合わせる俺の身になって欲しい。


いや、もはやニートと呼べるものではないが、コレでも小学生の頃はゲームしかしてなかった糞餓鬼だ。


もう今日は寝てようかな…。

どうせ今日は学校が休みだ。


起きる必要もなければ、これだけ朝早いとあの子娘も起きて来る事は無いだろう。


___飯、三食くらいなら…作ってやる。


自分で言っておいてなんだか恥ずかしい。

そんなこんなでもう一週間こんな状態だと思うと、馴染んでしまったこの状況に腹立たしさを覚えてしまう。

何故なら___


「せーんぱーい!起きてますかー?」


…いや、俺は何も聞いていない。

そうだな?


まだ六時だぞ。

起きてるのは忙しい主婦だけだ。

あいつに主婦に才能が無い以上、その可能性は皆無だ。


玄関に立っているのは紫苑じゃない。

絶対に。


じゃあ、居留守使ってもいいよね?

だって俺の家を訪ねる奴なんて現状紫苑以外にはいないからな。


じゃあ窓から入って来た肉声は空耳で、玄関先に人がいるとかじゃないな。


「やっぱりいるじゃないですか。先輩、起きてください、朝ですよ」


…何の冗談だ。

玄関じゃなくて俺の部屋にいたのかよ。

何だこいつ。


晩飯食った後家帰らせたじゃねえか。

ゴミ屋敷だった隣の家に、確かに一緒にくっついてまで送ったじゃねえか。


夜道怖いって言うから。

じゃあなんでこいつ此処にいる…。


「あーさーでーすーよー」


「どうやって入って来た」


「窓が開いてました!」


爽やかに答える少女を罵倒する力もなく机の上のスマホに自然と手を伸ばし、そのまま番号を入力。

無論、一一〇番だ。


「ちょーっと!先輩!美少女にモーニングコールされてるのに、その子警察に突き出すつもりですか!?」


「冗談だよ。ツッコミどころがあり過ぎて色々言うのがめんどいがこれだけは言っておく。この状況で俺がサツ呼んでも俺がしょっ引かれかねない」


俺の方が凶悪そうだからな。

でもまあ、明確に悪いことしてたら指名手配書発行されるくらい危険人物って思われてるからね。

仕方ないね。



___



食卓に並べられた月が二枚。


元来、人々は卵の黄身を月になぞらえ、卵の黄身をのっけたうどんや焼きそばなどを月見うどんだとか月見

焼きそばだとか言って店頭に並べた。


いつからそ何な風習が始まったかなんて知らないが、要は何が言いたいかって…。


「お前、何回月見てんの?」


「ん?なんれふは?」


「食い物を加えながら喋るな。お前女子なんだからもう少しお淑やかさってのをだな…」


「まあまあ、良いじゃないですか」


冷蔵庫の卵三つ持ってかれた…。

この小娘…殺したい。


卵だって安売りしてる時が買い時なレア物なのに、何故に俺の一枚に対してこいつのは三枚目の一枚なんだ…。


何故だか知らないが、こいつの胃袋は少々一般女性と比べて大きいらしい。


そんな事よくある事だけど、俺の家系にそれはかなり大きいダメージを(もたら)す。

第一何故こんなに食べて太らないこの女…。


とまあ言いたい事は色々あるが、喉を通って出て来る手前でそれを飲み込む事にしよう。

一番気になる事だけ聞けばいい。


「…何ニヤニヤしてんのお前」


さっきから以上にニヤつきながら食事に在り付く雌豚の如きこの小娘に俺は恐怖しているのだ。

こいつが笑っているとかもう完全に良からぬ事しか考えてない。


「むっふっふぅ…聞きたいですか?」


「勿体振るな、言え。ウザいから」


本当ウザいなぁ…。

そのうちストレスで寝たきりになるぞ。


最も、こいつの話を聞いてストレスが溜まらない訳がない。


「今日は~、先輩と遊ぶ日ですよー!」


ほら見ろ…。

もうヤダよ俺。

誰だ三食なら食わすって言った奴。


気色悪…っと、また自分で言ってしまった。


「…悪いがまた今度な。俺は忙しい」


「ちょっと、即決は良くないですよ!?なんせ、遊びに行くのは優梨乃先輩の所ですからね」


またも訳分からん事を…。

お見舞いならいつも午後に行くだろうが…。

しかも最近ちゃっかりついてくるようになったし。


「…そういえば俺が食いつくと思ったか?」


黙々と箸を動かす。

目玉焼きを器用に割き、千切りのキャベツを摘み、ソーセージをかじる。


とっとと片付けて、終わり、以上解散。

もうこいつの話を聞く時間は_____


「優梨乃先輩が先輩に相談したい事があると言ったら、どうします?」


「…んだと?」

紫苑はホラ食いついた、と言わんばかりに俺を嗤う。

そりゃ気になるのも当たり前だ。


「今日は今から病院へ直行ですよ」


「んな事…いつ聞いた?」


そう言うと紫苑はデニムの右ポケットに右手を突っ込み、ケータイを取り出す。

そしてトントンと画面を少し弄った後、SNSの画面を開いて俺の眼前に突き出した。


「はいっ!証拠です!」


優梨乃が俺に相談…確かに文面にはそんなことが書いてある。


だが、そんな事今まで一度も無かった。

優梨乃は元がハイスペックなだけあって、人に相談することなんて滅多に無かった。

少なくとも、俺の記憶上、そんな事は絶対に無かった筈だ。


しかし優梨乃は現在リハビリが必要なほどに体が不自由な患者。

誰かに助けを求めるのはある意味自然な事だ。

しかし何故俺なんだ…?


「…ん輩、先輩!」


「ん、あぁ…悪い。考え事してた」


兎に角、この件に関しては気になるのも確かな事だ。

確認はしなくてはならない。


「で、どうします?行きますよね?先輩!」


それはつまり行くって言えって事か?

何れにせよ相手が優梨乃なら断る理由が無いし、むしろ行く理由しかない。


「…しょうがねぇな、今日はお前に乗せられてやる」


「そうこなくっちゃです!じゃあ急いで準備しましょう!お片づけ、手伝いますから!」


「いや、お前何もしなくていいよ。絶対、触るな、お願い」


「なんか信用されてない!?」


そらまあ、家があんな状態だったから、まともに家事は出来ないだろうし、何よりうちを潰されるのはごめんだぜ。



___



そんな訳で、今病院にいる。


ただ、目の前の七〇二号室、優梨乃の病室に入る事に躊躇ためらいを覚えているところだ。

病室の中からはそれはもうドギツい性格であろう女性の声がする。


明るめで若者口調で、そして優梨乃と言い争っているような、そんな声だ。


当然人との縁がない俺には、その声の聞き覚えなんてなくて。


「先輩、なんで入らないんですか?」


「いや…人いるから…」


「もー、そんな事で立ち止まってたら相談も何も聞けませんよ!」


「だぁっ、ちょっ…引っ張んな!」


紫苑は強引に俺の腕を引き、病室にズカズカ入って行

ってしまう。


俺は脚で踏ん張るも、抵抗は虚しく、成すがままにされた。


流石、俺の雁首引っ掴んで拉致っただけの事はある。


もしかして俺の方が弱いのかと錯覚するくらいだ。


「おっはようございまーす!優梨乃先輩!」


そして元気よく挨拶。


…いかん、首締まってきた…。


「あー紫苑、おはよう。今日はちゃんと朝に起きれたよ」


なんか勝手にやり取りし始めてる。

もうヤダこの人達。


___「誰?アンタ…」


突然聞こえた声には、今なら聞き覚えがあった。

針でも刺すように鋭い声。


その声の主の少女はベッドで寝ている優梨乃の横に、腕を組み、脚をパタパタしている。


典型的なクールタイプだ。


「あー、えっとね、柚音、この人が青娥だよ___」


だがその先入観は真っ先にひっくり返ることになる。


「うわっ!」


グイッと引っ張られる感覚。

しかし、俺が引っ張られた訳ではない。

俺を引っ掴んでいた紫苑が胸倉を引っ張られたのだ。


そして聞いた事もない罵声ばせいを浴びせられる事になる。


「アンタがっ!優梨乃をこんな目に合わせたの?!」


「え、ちょ…ま___」


「答えろ!!私は…お前を許さない!!」


…あっれぇ?

これアレか?


「…柚音、そっちは青娥じゃ…」


「優梨乃は黙ってて!」


ん~アレだな。

この少女なんか勘違いしているパティーンだな。


「わ、私は先輩じゃないですよ!」


「煩い!この…人殺し!」


___っ!?


胸倉を掴まれている紫苑に掴まれ、揺さぶられる中、一人、周囲の音が聞こえなくなった。


「___この…人殺し…!」

俺を頑なに睨み続けるあいつの顔。

きっとそう、あいつだけじゃないさ。

他にもそんな奴大勢いる。


しかし、そんな事訴えられても、俺の脳内回廊は一向に出口まで連結しようとはしない。

それが、辛い、苦しい、ムカ…く、憤…をか…る…、ウ…


___じゃあ、俺が死ねばいい。


そうすりゃ万事解決だ。

いつかの俺はそう言った。


やあ、いつかの俺。


今何処にいるの?

…へぇ、裁判場さいばんじょう


そうだな。

今か今かと、真実が露わになるたった一瞬間を待ち続け、裁判場で判決の時を待っている。


何裁判上だよ、それ。

決まってる。


___ざけんな神様やくびょうがみ


ここは、神の、神様おれの裁判場だ。


我に帰る。

多分そのために十秒は要した筈だ。


俺は俺自身を掴んでいた紫苑の手を払い退け、少女と紫苑の間に割って入る。


「…な、なんだよ、アンタ…」


「青娥は俺だ。誰だか知らねえけど、喧嘩売るのは構わねぇが場所を弁えるこったな」


柚音…と呼ばれていた筈の少女はハッとして顔を赤らめた。

人を間違えた上に盛大に人殺し呼ばわりしてしまった挙句、優梨乃を殺そうとしたかもしれない張本人に場の仲裁をされる。


これほど恥ずかしい事は無いと後ろを向いてしまうのは、もはや本能だから仕方ない。


「優梨乃…何だこのお転婆娘は…また疲れそうな奴だけど…」


取り敢えず事情だけでもと思っていたが最早戦意喪失寸前だった俺は、もう何もう聞く気は無いと思いつつ、優梨乃にそんな事を聞いてしまった。


横目に出来るのは少女の握り拳から解き放たれた紫苑の咳き込む姿だった。


「あー、この子だよ。今回の相談について、助けて欲しいのは」


「おい待て、俺はまだ何も言ってない」


(さかき)柚音(ゆずね)って言うんだ。私とは小学校からの付き合いでね…」


「ちょっと、勝手に話進めないでもらえます?それ最

後に引き受けてくださるかしら?はい、いいえって出てくるパターンだけど、お前に至っては絶対はい以外出ねえから」


「ツッコミが長いよ、青娥」


どんなやり取りだよ…。

まあ、実際そうともなりゃ俺の会話は必然的な物だったろうし、今更気に止む事は無いか。


「それで、この子の幼馴染の話で…」


「あわっ、わ、ゆ、優梨乃!」


後ろを向いてたと思った柚音が突然さっきと変わらない真っ赤な顔で優梨乃に耳打ちしに来る。

でもこれがなぜか丸聞こえなんだよね。


「…や、やっぱり…優梨乃にだけの…相談には…」


「どうしたの?全然問題無いよ。青娥だし」


どう言う意味ですかそれ。

小娘こいつも小娘で失礼だろ。

俺は頼りに出来ないってか?


いや…当たり前か。


「で、でも…優梨乃、この人…危ないんじゃ…」


危ない。

人殺し。

いつから俺は混ぜるな危険を混ぜた物の様な扱いされたんだっけ。

ほんと混ぜるの好きだよな。


俺の、不幸にも厳ついヤンキーの様な顔立ちに、定かで無い犯罪の前科を融合!

融合召喚!


「俺…帰___」


___「私が、信じれない?」


俺のフュージョンサモンにかさばる様に優梨乃の冷たい声がブリザードの如く覆った。


紫苑ですらやっと咳き込むのをやめたと思ったら、目を見開いて優梨乃を見ていた。


俺は…どうだろう。

融合解除?


へっ、んなもんじゃ無い。


融合…失敗だよ。


「「…優梨乃」」


俺と少女の声が同時に出た。

片方は、どうしたら良いか解らなくて、質問を投げかけた本人にすがろうとしている。


もう片方は、氷柱の如く鋭い針千本をみ込もうと、優梨乃の哀愁あいしゅう満ち溢れた笑顔を凝視している。


もう一人は、知らん。


そもそも何も言ってない。


「…私は、青娥なら柚音の力になれるって信じて青娥を呼んだの。でも、やっぱり、ダメかな…」


笑顔で、しかし裏腹にはかなり残念な気持ちを抱えているであろう彼女の微笑を、柚音はまともに受け切れない様であった。


榊はとうとう俯いてしまった。


しかしそんな彼女に、優梨乃はすかさず追撃をかます。


華奢きゃしゃな右腕を柚音の左側の頰に添え、撫でる様に俯いた顔を上げさせる。

その表情は未まだ笑っているのだ。


とりあえず言っとくが、ヤンデレじゃないぞ。

本当。

優梨乃はそんな奴じゃないからな。


「柚音…ゴメンね、でも、一度だけでいいから___」


____青娥を……私を信じて。


柚音の眼に、落涙寸前の水晶が浮かんでいた。


取り乱した自分を、少しでも優梨乃を信じれなかった自分を、どうか許して欲しいと懇願する様であった。


それはどうもドンピシャだった様で、柚音は私もゴメンねといわんばかりに、コクリと頷いた。


「よしっ、それでこそ柚音ちゃんだね。ほら、泣いちゃダメだよ、ハンカチ貸してあげるから」


いろんな意味でひやっとしたが、結局俺は優梨乃の相談とやらを受けなくてはいけない雰囲気になってしまったな。


ところで俺の名前って、女性で間違えられる事あるの?


___


どうやら俺は今血迷っている様だ。


…帰りたい。


でも帰れないのは紫苑に右手を胸部の谷間に挟み込む色仕掛けと同時に関節ブレイクの準備をしているのだ。


…怖い。


こいつ関節技とか知ってるのかよ。

そんな事考えてたら俺ん家通り過ぎちゃったよ。


と言うからに想像出来るだろうが、あの後見事に優梨乃に丸め込まれて俺は榊柚音なる少女の悩みを聞く事になっている。


…気不味い。

んで、俺ん家通り過ぎて何処向かってるんだ?

と思った矢先、ほんの二十秒も歩いてすぐ俺たちは立ち止った。


「…あの、俺ん家から数歩しか進んでないんだけど。何処?ここ…」


「あたしんち」


「おい、その言い方はマズい。せめて私の家とか…」


「は?何言ってるの…。変な事言ってないで早く来て」


確かに表札には榊の字が長方形の大理石に掘られている。


それも、俺ん家から数歩通り過ぎただけなのに。

紫苑の家と言い、此処と言い、どうしてこんなに関わった人間とゆかりのある場所が俺ん家の周辺に集まってるのだろう。


腹が立つ。


しかも…何故俺は素直について行ってるんだ…。


「おい、紫苑…ってアレ?」


気づいたときには紫苑は榊家の玄関に___


「せんぱーい、私、用事思い出したので、帰りますねー!じゃ、二人でごゆっくりぃ~!」


「…は?」


いなかった。

それどころかもう舞崎家の玄関先だった。

まあ、それだけ榊家と舞崎家は結構近場だって事が分かるだろ?


その間には俺ん家だよ…。


「ちょっと、何してんの?早く来てよ!」


「っ…へいへい…」


だからなんで俺はついて行ってるんだ。

変な自分につくづく失望する。


溜め息交じりに榊家の玄関前に着いたと思ったらすんなり家に入れる訳でも無かった。


「ん…?おかしいなぁ…」


「…何してんだよ」


「別に、鍵がつっかえて開けるのに手こずってるとかじゃないから」


何その典型的なツンデレ。

いやツンしかないけど今の所。

でもこんな所、近所の人に見られたらそれこそ榊家が危ないし、もたついてる暇はなさそうだ。


「…っつか、鍵の向き逆な」


俺はひったくる様に玄関の鍵穴に中途半端に刺さった鍵を引っこ抜く。


そして正しい向きで鍵を挿入して右側に捻る。


「ちょ、ななな、何してんの!?」


「焦れったかったから俺が鍵を開けてやっただけだよ」


アレだな、俺が開けたってのもあるが、その所為で自然と玄関を開けてしまう俺だったのだよ。

お邪魔しまーすもつけて。


「あら、ゆーちゃんおかえり…」


しまった…。

タイミング悪く家の人がいた。

この状況…。


沈黙が続く。

普通なら逃げるのが常套じょうとう手段だが…___。


「もしかして、柚音のボーイフレ…」


「「決してそんな事は無い」」


またも俺と柚音の声は調和した。

さっきよりも自然ではなく、明らかに息の合ったそれだった。


「うっそぉ!莢斗君以外の男の子がうちに来るなんて十年ぶりくらいの快挙かいきょよ!ささっ、上がって!」


「え、ちょ、待って…」


「ま、ママ!そういうの良いから!お茶も出さなくて良いから!どうせすぐ追い出すから!」


サラッとひでぇな。


一応お客だぞ俺。

客な扱いはしなくても良いくらいの人間だけどよ。


「えぇ~ママもこの子とお話ししたいな~。ねね、このことどういう関係なの?」


普通に聞いたら見ず知らずの男を問いただす質問だが、目の前の榊の母親らしき人物から放たれる煌びやかな笑顔がそうはさせなかった。


寧ろ問いただされてるというより、引く。


「い、いぃから!少し話したらすぐ追い出すから!」

パシッと俺の手首を掴んだと思ったら榊は俺を引いて


階段を駆け上がり出した。

その拍子に俺の脚も自然と階段を上がる。


「絶対上がって来ないでね!」


途中振り返ってそう一階に言い放ってからまた柚音は階段を登り出した。


なんと破天荒な奴だ…。

誰かとは違った意味で。


「…っつか、自分で歩けよ!」


榊は無意識に掴んでいたであろう手首も投げ捨てる様に放した。

なんて破天荒な奴だ…(二回目)。

そもそも何故こんな事になっているかと言うと___



_____



時を遡る事大体三十分前。


「___って事なんだ」


「…つまりアレか?俺にこいつの悩みの解決として、こいつの幼馴染おさななじみなる人物の隠し事をあばけと…」


相談事…。

まあ確かに優梨乃には解決出来る事では無かったな。

でも、俺に頼む事か…?


「お願い…青娥。私の友達を、助けてあげてよ」


「な、分かったから…寄るな…恥ずかしい」



___



キモ…あ、また自分で言っちゃったよ。

ってな訳で俺は今ここにいる。

な?

丸め込まれてるだろ…?


…はいそうです嘘です本当は自分が安請け合いなだけですすいません。


「入って」


回想してたら榊の部屋の入口であろうドアが開かれた。


その証拠に、柚音と書かれたウッドプレートがドアに捻じ込んである釘のようなものに、付属の紐を通して掛かっている。


「お、お邪魔します…」


「それ玄関で聞いたし」


噛み付くところがユニークだなこいつ。

しかしユニークなのは部屋の中もで、なんとなく腰掛けるのも気が引けそうなくらいに薄いピンク色で溢れていた。


流石にラブホかどこかと勘違いしそうな程、真ピンクでは無いが、少しソワソワするのは確かに俺が緊張している証拠だった。


しかもぶっちゃけた話、殺風景だった。


普通…かどうかは知らんが、女子の部屋ってアイドルのポスターかなんか貼ってあるもんじゃないのか?

紫苑はバナナの皮くらいしか張り付いてなかったと思うが…。


「そこ、土下座して」


「正座な。どこまで俺に恨みがあんだよ…」


渋々俺は部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルの前に正座する事にした。

榊は榊で、勉強机に備え付けられたワーキングチェアの上にドカンと座る。


足を組み、腕までも組み、最早形だけは会社での女性の上司そのものだ。


俺会社行ったことないから知らんけど。


「で、早速本題に入るけど、そもそもアンタなんでここに呼ばれたか知ってる?」


「いや知らねぇよ…それが知りたいからここ来たんだろうが」


ウゼェ…。

まぁ、姫城を相手していると思えば幾分か楽にはなるか。


「幼馴染の、(やなぎ)莢斗(さやと)について調べて欲しい。優梨乃はそう言ったわね」


「ああ、そうだったな」


三十分前に俺は優梨乃にそう頼まれた。

まあ、俺が調べるってのもアレだし、調べ物に関して


言えば紫苑が情報部なだけあって情報は早い筈だ。

ならあいつに頼るしかないか。


かなり不本意だけど。


まぁ、仕事に関して言えばかなり熱心だか___。



「とりあえず、この件が終わったら、私達から離れてもらえる?」


「……なんじゃそら」


三割くらい予想出来たぞその言葉。


「優梨乃に免じて、今回は許すけど、私は…アンタの事まだ認めてないから」


めんどくせぇなぁ…なあ神様やくびょうがみ


ざっけんな神様やくびょうがみよぉ…。


_____

受験勉強しろっていい加減言われてます。

でも書くことをやめられないSieg004です。

今回に関してはかなり間が空きました。

なんかバックアップ取れてなかったり、途中で文面リセットされたりして萎えてたんですよね。

まあ、許してくださいよなんでもしませんけど。

って訳で、誤植も緊張もキンチ○ールも満載な夏真っ只中の今日この頃、夏と呼ぶにはまだ少し早すぎる季節の甘酸っぱい少年と少女の話第二章、お目にかかって頂ける事をお祈りしています。

読んで、感想を持ってくれたらこれ以上の幸福はないでしょう。


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