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赤い糸にむすばれて  作者: 登夢
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赤い糸

昌弘がこの会社に就職してから5年。当初は理科系なので研究所へ配属されたが、2年前に本社勤務となった。もともと人づきあいが億劫で研究開発の仕事を希望したが、おかしなもので人づきあいは研究所ではうまい方と見られたのか、本社向きと判断されて、転勤となった。本社の方が昇給は早いと諭された。仕事の内容は特段に難しいわけでもなく、卒なくこなせている。


入社5年で給料も年令の割には多くもらっていると思う。住居費も会社が半分負担してくれるので、田園都市線の高津駅から徒歩10分くらいのところに1LDKのマンションを借りて住んでいる。ここが丁度、本社と研究所の中間地点でもあるので、再度、研究所に異動になっても引越しをしなくてもよいと思っている。ただ、通勤は殺人的だ。だから、早い時間に出勤している。


今のところ、付き合っている女の子はいない。就職してから2~3人と付き合ってみたものの、東京の女の子とはどこかテンポがあわないので、深入りはしなかった。とはいうもの、健康な独身の男としては女の子がほしくなる。東京にはソープランドという便利なところがある。給料にゆとりがあるので、時々はめんどうがないプロの女性のご厄介になっている。30歳位で結婚したいと漠然と考えているが、恋愛がめんどうくさいように思えて、その頃になったら金沢の両親にたのんで見合いの相手を紹介してもらえばよいと気楽に構えている。


約束の日に、新橋の料理屋へいくと、個室にとおされて、紗耶香ちゃんの父親が待っていた。少し年を取ったようだが、あの時の恰幅の良さはそのままだ。


「わざわざありがとうございます」


「いいえ、こちらこそ、ご招待ありがとうございます」


「まずは、一杯」とビールを勧める。料理を食べながら、最近の金沢の話を聞いた。新幹線が開通が近づいて随分景気が良くなったとのこと。


「合田さんは独身とおっしゃっていましたが、付き合っている人もいないのですか」


「はい」


「それでは、お願いがあります。紗耶香を嫁にもらっていただけませんでしょうか?」


「それは、紗耶香さんの希望ですか?」


「申すまでもなく紗耶香の希望ですが、親の希望でもあります」


「合田さんには、紗耶香の命を救っていただいたり、家庭教師をしてよい高校へ合格させていただいたりと、えも言われぬご縁を感じるからです。これからお話しすることは紗耶香が知らない話ですが、合田さんには聞いておいていただかなければならないと思っています」と父親が話し始めた。


紗耶香ちゃんは月満たずして生まれて、幼い時から病弱であった。5歳くらいのころ、檀那寺の前住職が家に来た時に、紗耶香を見て、こう話したとのこと。


紗耶香は、昔の金沢あたりに住んでいた平家の落ち武者の流れをくむ土豪の姫君の生まれ変わりだという。その土豪は国主に忠誠を示すために、姫君を人質に差し出し、国主は姫君を側室とした。


姫君には好きだった幼馴染みのいい名づけがいたが、父親のために人質になることを承諾した。だが、父親は国主に忠誠を疑われて殺されてしまった。姫君はこれを悲しみ、自害したという。その時の年齢が21歳。


悲劇の姫君は、その後2回生まれ変わったが、いずれも21歳で死んだという。紗耶香は3度目の生まれ変わりで、21歳で死んでしまうと言われた。ただ、運命の人に巡り合って、幸せになれば生き延びるといわれたとのことであった。


「その運命の人が私だと」


「それは分かりません。合田さんの家系は金沢出身ですか?」


「父方の曽祖父は加賀前田藩の武士だったと聞いています。ただ、前田家とは寺の宗派が全く違いますので、金沢あたりの出身で後に前田家の家臣になったのではないかと思います。母方は近辺の山村の出ですが、平家の落ち武者の子孫と聞いたことがあります」


「住職の話がもし本当だとしたら、結婚していただいても、紗耶香は21歳で死んでしまうかもしれません。そのことをご承知いただいた上での話ですが」


「私も紗耶香さんとは、赤い糸で結ばれた不思議な縁を感じます。あの事故の後も『さやか』と言う名前がずっと記憶に残っていました。そして家庭教師になったときは本当に驚きました」


「一度、紗耶香さんに会わせてください。そして2人で話をさせてください」


「では、結婚の話は?」


「紗耶香さんと話し合って決めます」


「今度の土日に金沢へ帰ろうと思います。両親にも話しておきたいので。紗耶香さんのご都合はどうですか」


「大丈夫です。では土曜の晩に一緒に食事をすることで、我が家へ来ていただけますか」


「お伺いします」


「ただ、紗耶香にはこの生まれ変わりの話や21歳で死ぬ話はしないでくれますか」


「承知しました」


「よかった。紗耶香が喜びます」


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