第1話「終わりは始まりの合図」
現在地、上空7000m程の位置から絶賛自由落下中でございます。
何故こんなことになっているかと言うとそれは今から数十分前にさかのぼる。
「だぁぁ!!クソ雑魚プレイヤーがぁ!!何でそっち行くんだよバッカじゃねぇの?本っ当味方のNASAだわ!!」
深夜の薄暗い部屋でテレビの画面と月の明かりだけが光源の部屋で怒鳴っているのは、とある事情から学校に行っていない、棺奈落18歳だ。
こうも連続して負けるとイラつくし腹も減るな。
もう、食うもんも無いしコンビニでも行くか。
そう思い適当に着替えて気分転換ついでにコンビニに向かう。
コンビニで弁当とお菓子それと飲料を買った帰り道で街灯の下で俯くボサボサの長い黒髪で顔の見えない少女が体育座りをしていた。
格好からして虐待などで家出した訳では、無いようだった。
最初は面倒事になりそうなので通り過ぎようとした。
少女を少し通り過ぎた時に少女のものとは思えない。
お腹の音がしたのだった。
「…ぷっ…あっハッハッ、盛大になったな。くっくっ…予定変更だ。コレやるよ、ついでに付いてこいそんな、汚い格好嫌だろ。」
少女に先程買った菓子パンを投げる。
「あっ…すまない、恩に着る。」
「ガキのクセに難しい言葉使いやがるなもっと楽にしろよ。でっ?付いてくるのか?来ないのか?ちなみに俺はロリコンじゃねえぞ。」
少女を連れていくなんて危ない事だしな誤解されても嫌だし。
「妾はガキでは無いわ!それと、申し出は嬉しいが断わらせて頂く。ありがとう」
そう言って微笑む少女は不思議な魅力を感じた。
「そうか、なら変質者に気を付けろよ。俺はもう行くからよ。じゃあな。」
「うむ、この借りは必ず返すからな。」
「どうやって返すんだよ俺が何処の誰だかも分からないだろ。」
「返すったら返すからな。」
「はいはい、待っててやるから何時か返せよ。」
冗談を言いながら俺は少女に背を向けて歩きだす。
少女と別れて、もうすぐ家に着く目前で、1台の車が猛スピードで突っ込んできた。
気がついた時には口の中に広がる鉄の味と電柱にぶつかって止まっていた先程の車が目に付いた。
何が起きたんだ?俺は引かれたのか…くそ、まずは救急車を呼ばねぇと行けねぇな。
そう思いポケットに入っている携帯を取ろうと右手を動かそうとするが違和感に気が付く。
右手が無い!?気がついた時には激痛が走る。
「ぐっ…がァァ!!」
くそ、落ち着けまだ平気なはずだ左手で携帯を取れば良いだけだ。
激痛を我慢しながらポケットを漁ろうとするがある筈のポケットも無い…
嘘だろ…
そう思いながら下半身を見るが腰より下が無くなり少し離れた所に先程まで履いていたお気に入りのジーンズを見つける。
遠のく意識の中で人影が俺を見下ろす。
「こんなに早く借りを返すとはな、妾を助けた事を幸運に思うのだな。」
その言葉を最後に俺の意識が無くなる。
「うぁぁ!!はっ!?…足も…右腕もある……夢、じゃないよな…」
今、俺がいるのは全方位が黒いモヤのようなもので囲まれた場所だ。
「こっちの方が夢に近いよな。」
「うむ、確かにここは夢に近いな。お主が死んだのは現実だがな」
「何でお前がここに居るんだ?それと、ここはどうなっている?」
「待て待てそんなに質問するでない。」
「何言っている2つしかしていないだろ?」
俺が屁理屈を言うと少女はため息をついた。
「ちゃんと順を追って説明してやるから少し落ち着け。」
「俺は確り落ち着いてるだろ?早く説明してくれ。」
俺は少しムスッとした感じで言い放つ。
「はぁ〜仕方ない、まずここは冥界の入り口の門前だ。そして、妾はケロべロスと呼ばれておる。妾に食べ物を献上した礼にお主には選択肢を用意した。」
ケロべロスと名のる少女はそう言うと指を鳴らす。
すると、俺から見て右側に黄色い扉が現れ平仮名で「いせかい」と書かれている扉と左側に骸骨の装飾のほどこされた禍々しいこちらも平仮名で「めいかい」と書かれた扉が出現した。
「選択肢?つまり大人しく冥界に行くか異世界に行くか選べって事か?」
「うむ、ご明察だ。死を受け入れるか、死に抗い異世界で新しく人生を始めるかの選択肢だ。異世界での課題を解決出来たら現実に戻ることも出来るぞ。」
冥界がどんな所かわからないがここで大人しく死を受け入れたくはないな。
「異世界に行かせて貰うぜ。せっかくのチャンスを不意にはしたくないしな。」
「うむ、幸運を祈っているぞ。」
「そっちこそ行き倒れすんじゃねぇぞ。」
またも、冗談を言いながら少女の横の扉をくぐる。
そして、今にいたる
あれ?異世界到着で落下死?斬新じゃねぇかこんちくしょう。
「てか、もう1回死ぬじゃねぇか!」
遠くの方に城のある街が見えるがあそこにすら行けないのか。
短い異世界の鑑賞に浸りながら再びの死を待つ。
しかし、地面に接触した瞬間に大きく沈んで衝撃を吸収してくれた。
「おぉ、助かった。マジで死ぬかと思ったぜ。取り敢えず落ちてるときに見かけた城のある街にでも行ってみるか情報も何もないから下手に動けないしな。」
何故、上空7000mからの落下の直後なのに冷静なのは…そうだなぁ~。俺が凄いからだ。
こんな、訳のわからない事を考えながら進んでいくがまったく城に着かない。
街は見えるが近づいている気がしない。
森を歩き回っている内に小川にたどり着いた。
小川で水分を補給しようと近づいていくしかし、そこには水を浴びている少女が居た。
木漏れ日を浴びて煌めく艶やかな長い銀髪そして、それに負けない程綺麗な白い素肌それに…
豪速球で飛んでくる硬そうな石。
凄い衝撃と共に俺の意識は飛んでいった。
目を覚ますと知らない天井があった。
体を起こして周りを見渡すとかなりボロボロのシーツが、かけられていた。
ボロボロのシーツを払いのけて立ち上がろうとする、すると…
「ぎにゃぁぁぁ!!」
何かを踏んだ感触と少し遅れて鼓膜が破れそうな程の悲鳴が聴こえてきた。
「尻尾を踏むなんて酷いです!!両手と両足の爪を全て引っこ抜きますよ!!」
そんな、恐ろしい事を叫びながらベッドの下から出てきたのは黒髪でショートカットの頭にピョコンと生えている猫耳を先端まで伸ばし尻尾を擦っている少女が出てきた。
「何で見ているのですか?えっ…わぁ……きゃふ」
少女の手を掴み強く引くそして、素早く体を入れ換えて押し倒す。
「これはやっぱり本物だな…これがケモ耳ってヤツだな実物を見れるとわな……」
俺は、ぶつぶつと独り言を言いながらひたすら耳と尻尾を触っていた。
「んっ…ぁ……くっ…」
耳や尻尾などを撫でていると何やらちょっと勘違いしそうな声を出し始めたが無視して触り続けると…
バキッと嫌な音をたて扉が開く。
「私の妹に何をしてやがる!!」
扉を勢い良く開けて入ってきたのは先程の水浴びをしていたエプロン姿の銀髪の少女だった。
「愚問だな。頭に生えている猫耳を撫で回し自己主張していない小さな胸を揉み尻尾を擦り形の良いお尻を撫でていただけだな。」
立ち上がり呆れたようなポーズをしながら言う。
「…そこまで堂々と言われたら怒る気力が出てこないわね。」
疲れきった表情で肩を落としながら呟く。
それでも、撫で回し続ける。
「所でここは何処なんだ?お前たちの家だと思うが。」
これこそ愚問のような気もするが取り敢えず聞くと。
なおも、撫で回し続ける。
少々予想外の返答が返ってきた。
「確かに私たちが住んでいるのだけれど正確には私たちの家では無いわよ。取り敢えずご飯出来たから食べながら話しましょう。」
そう言うと反転して入ってきた扉から出ていく。
俺も猫耳少女を抱き上げて銀髪少女のあとを追う。
リビングらしき場所に来ると美味しそうな香りがしてくる。
俺の腕の中で猫耳少女が耳がピクッと動くと目を覚ました。
猫耳の少女を椅子に座った俺の膝の上に座らせて、対面に銀髪少女が座った。
「おい…何で妹を膝の上に座らせているんですか?」
「抱き心地の良いものを抱き締めないと吐血してしまう病なのだ、すまんな。」
そう言いつつ猫耳少女の頭を撫でる。
「抱き締めるのも今は、良いですよ。それと、撫でるならもう少しやさしくお願いします。」
「おっと、そいつは失礼しましたお嬢様。そう言えば自己紹介がまだだな。俺の名前は棺奈落18歳の変態だ。」
猫耳少女の頭を優しく撫でながら自己紹介をする。
しかし、銀髪少女の顔は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「そんな顔をしてどうした?話しづらい事なのか?」
俺の質問に銀髪少女は、俺の事を真っ直ぐに見つめ真剣な表情で話し始める。
「私達姉妹は名前がありません。私達は妹が産まれて間もなく捨てられました。」
その、言葉にすぐに意味を理解した。
「つまり、普通じゃない子供が産まれてそれを捨てた。なら捨てられるのは妹だけじゃないのか?君は見たところ普通の人間みたいだが?」
「私も普通じゃないですよ。いろいろと特殊です。普通じゃない私達はこの森に捨てられたんです。そしてある男に拾われて育てられた。」
その男グッチョブ、確かにこんなに可愛い姉妹捨てられてたら拾うわ。
そんな、事を思っている俺を無視して話は進む。
「育ててくれた男も私達が1人で生きていけるようになってから姿を消しました。この家もその男が住んでいた家なのです。」
その時、窓からガラスを突き破り男が入ってきた。
それと同時に扉からも複数の男が入ってきた。
男達が、ロープを投げる。
その、ロープが俺達の腕を拘束すると。
少女達はその場に力なく崩れ落ちる。
何だ勝手に腕に巻き付いてきやがった。
それに何故、少女達が動かないのかさっぱりわからない。
すると、1人の男が喋り始めた。
「あっ?1人普通に動いてんなァ。つゥ~ことはァだァ。コイツ人間か?もう1人の女も動かねェからコイツも魔物か。しっかしこの、魔封じのロープ便利だなァ。チット高いのをのぞけば簡単に魔物を捕まえられるったァ。楽勝だぜ。」
「へ〜。本当に狼男の亜種のハーフが居るんですね。貴族はこんなの欲しがってどうすんですかね?」
「知るかそんなの。とにかく、俺達がやるのは捕まえて売るだけだ。」
売る?こんなに可愛い姉妹売らせてたまるか。
「てめぇら好き勝手売るとか言ってんじゃねぇ!!この少女達に手を出したら許さねぇ!!」
俺は叫びながら男達に突っ込んできた行った。
俺は魔物狩りのギルド[ノワール]のリーダー、アシュアル▪フォトライトだ。
魔物狩りギルドでもかなり有名になってきたと思う。
仲間達もかなりの実力者達のハズだ。
その俺らが信じられない事に腕を拘束され、足だけで8人もの仲間が殺られてしまった。
「何だお前は!魔封じのロープが効かないなら人間の筈だろ。」
そう、俺達と同じ人間が足だけで8人も仲間を殺せる筈がない。
希少なハーフを捕まえるのにをギルドの中でも実力者を連れてきたのに…もはや、夢でも見ているんじゃないだろうか?
そうとしか思えなかった。
「……ハッハッ…アッハッハ!!もう笑える!スッゴイ笑える!何がおかしいのかわからないけど笑える!」
俺が最後に見たのは満面の笑みで顔面に前蹴りをする青年だった。