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白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第二章 『建国編』
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第九話 「集落」

 白狼族の少女ルナフィリアとそれに従うグラン含め十名の男たち。

牛鬼を背負う屈強な男たちの先頭を歩くルナフィリア。

その姿は威風堂々。もっとも背が低いはずの彼女が、なれども誰もがその少女が皆を率いる者であると理解する歩み。

さて……ならばそんな彼らを見た者たちは何を思うか。


 ザワリ――。昼にも関わらず静寂が支配する集落に音が蘇る。


 獣人族が暮らす魔の森にある集落。

そこに住まう獣人族たちがザワザワと騒ぎ出したのだ。


 それはそうだろう。

天をも焦がす業火が上がり、もしや自分たちを蹂躙すべき帝国の銀詠師達が追ってきたのかと思ったのだ。


 もしもそうであるならば、例えグラン達であろうともどうしようも無いだろう。

故に遂に今日こそが自分たちの命日なのではないだろうかと考えていたのに――そんなグラン達が誰一人欠かすことなく帰って来たのだ。

しかも彼らは、あの恐るべき牛鬼どもの死体を幾多も担ぎ持ってきているではないか。

たった一体でも遥かな脅威と成り得るのに、それが十体に近いだけの死体となって担がれて運ばれるなどそれだけでも驚愕の事だというのに。


 けれど――そんな事よりも、そんなグランらする目に入らぬほどに住人達はある一点から目が離せなくなった。

それは、グラン達の先頭を歩く白狼族と思われる少女。

もちろんこの中に白狼族を直接見た者たちは誰一人としていない。彼らの一族はもはや伝説の域にあるのだから。

だが、そんな白狼族の少女が自分たちの前を歩く。

その姿はまた何と美しいのだろうか。


 瘴気に覆われ死臭すらも漂う終末の集落。そのような場所においてなお――彼女は輝いていた。

長く風に靡く純白の髪。服の合間から見える汚れ一つ無い肌。

その美しさに獣人達は自分たちが置かれれいる境遇すら忘れ見惚れる。


 そして何よりも。その美しさすら凌駕する覇気に。

自分たちを今まで戦いから救ってくれたあの屈強な獅子族のグラン率いる元傭兵たちが付き従う事に疑問の余地すら挟めぬその姿に――魅了される。


「ふむ。これは……分かっていたことではあるが、中々に壮絶であるな」


 そして住人達にそんな言葉が流れ聞こえてくる。それはある意味に見た目通りに鈴のように響く声。

だがそこには隠し切れぬこの現実を前にした重みが含まれる。


「……はい。ですが我々も事に当りましたが、此処に至るが限界でありまして」

「よい。別に汝を責めてなどおらぬ。むしろこれだけの獣人族を引き連れてなお破綻させなんだことこそが称賛に値するわ」

「……ありがとうございます。ルナフィリア様」


 そんな主従の声が此処に住まう獣人族の住人に聞こえてくる。

そう主従である。どう見てもそれは主従のやり取りである。

だからこそ、彼らはみな驚愕の表情を浮かべる。

此処に居る者たちは大なり小なりにグランという男に感謝し、また敬愛しているのだ。


 嘗てギネヴィア帝国で傭兵として生き抜き、それ以降はこの魔の森で彼らの頭領として、自分たちを守ってきれくれたことを彼らは十分に知っているから。

故にどれほど現状が厳しいものであったとしても、それでもあの獣人族の中でも屈強な肉体を持つ獅子族の男に尊敬の念を抱いてきたのだ。


 だがそんな男が、自分たちの腰ほどにしかない華奢な少女に頭を垂れ、後ろに付き従っている。

その事実に思わず驚愕すると共に……何故かその風景が凄く当然なもののにも映る。

だからこそ、彼らはみな困惑の表情で彼らを見守っている。


「くはは。礼などいらぬさ。それよりもこれからやるべき事が山のようにあるのだからな。まずは我らが持ってきた食料を此処におる者たちに配れ。疲労してるだろうが、お主らは既にたらふく食したであろうから、これぐらいはまだまだ働けるだろう?」

「はい。お任せくださいルナフィリア様」


 そんなルナフィリアの問いにグラン達は揃い頷く。そんな彼らに満足げにルナフィリアは笑う。

そうした彼らのやり取りを住人達は訳も分からずに初めは眺めていた。

だが、そんな彼らの前で今までとは比べものにならぬ驚愕の現象が止め処なく行われいく。


 ルナフィリアという少女が辺りを眺め、一句何かを唱えたかと思えば――突如として広場として使っていた場所に焚火と同様の火が上がったのだ。

それも一つではなく、広場の中に等間隔でいくつも上がる。


 さらにそんな焚火一つ一つに肉を焼く為の道具も添えられていく。

外に居て、それらを眺めていた住人達は白昼夢のような出来事に目を見開き、そんな彼らに釣られるように小屋の中に居た者たちも出てきて、その光景に驚愕する。

獣人族は銀水晶を扱えない。それは不変の事実であるはずなのに。

目の前の白狼族の少女は難なくそれを扱っている。


 あり得ない現実。もしや自分たちは苦難の果てに幻を見て居るのではないだろうか。

そんな風に彼らが思い始めるが――しかし、グラン達元傭兵部隊の男たちがルナフィリアの指示の元に焼いていく肉の香りが空腹の体に直撃することで、これが幻ではないことを彼らは嫌でも理解する。

しかし、だけどそれでも彼らは再び困惑する。


 そもそもあの肉は魔物の肉ではないか。あの牛鬼が目の前で解体されながら焼かれているのだから、見間違うはずすらない。

しかし、魔物の肉を食べる事は絶対にできないはず。そんなことをすれば自分たちもまた魔物になり果てるのだから。

そう……思う。思うけれど……。


「……う……美味そうだな」

「……あぁ」


 そんなささやき声が至る所であがる。肉の焼ける香ばしい香りが既に辺りを支配しているのだ。

空腹の体でこれを我慢することなどもはや不可能に近い。

彼らの限界に直撃するような香りに釣られあがら……それでもそこに住まう獣人族の者たちは体を動かせずに居る。

 

 あそこで焼かれているのは、それでもなお魔物の肉であるのだから。

それに何よりも、それを主導しているルナフィリアというあの白狼族の少女が何者かすら分からないからこそ。

困惑の果てに悩まされるが故に彼らは誰一人として一歩も動けずにいたのだ。


 そしてそんな獣人族の住人達を肉を焼きながら見守って居たルナフィリアが――楽しげに口を開いた。


「我が誰であるのかそれが気になっているのであろう? それについてはこの後に話してやる故に今はまず此処で焼かれている肉を食すとよい。おそらく人数分はあるから、思う存分に食べるとよいぞ」


 ルナフィリアの声は決して大きなものではなかったが、それでもその声は其処に居る者たちの末端にまで確かに届いた。

その声に釣られるようにその居る者たちは、肉が焼かれている広場に集まる。

そして、元傭兵の男たちがそんな彼らをできるだけ均等の人数になるように焚火に誘導していく。


 そうして、動ける者たちのほぼ全てが肉が焼かれいる前に連れらて来るが、それでも彼らはまだ誰もそれを食べることが出来ずいた。

いくらそれが良い香りを発していようとも、それでも魔物の肉である事には変わりはないのだから。


 だからこそ彼らはどれほど腹を鳴らしながらも、決して最後の一歩を踏み越えるこは出来ずにいた。

そして、そんな彼らを見てルナフィリアは苦笑するように笑う。


「あぁ。魔物の肉であるから、食することを戸惑っておるのだったな。ならばその安全性をこの我が保証してやろう……と口で言っても分からぬか。ならば……ふむ。ルベアよこちらに参れ」


 そしてルナフィリアは自分に付き従う男たちの中から一人の男を指名する。

ルナフィリアは既に此処までの道すがらに元傭兵……そして、今は自身の騎士となる者たちの名前を全て聞き覚えていた。

ルベアは熊族の男であり、その種族に見合う荒々しい姿をしているが、それでもひょうきんな態度を取る事が多く他の獣人族からも好かれていた男である。


「じ……自分ですかい?」


 そして、そんなルベアが僅かに戸惑いながらルナフィリアへと近寄る。

まさか自分が指名されるとは思って居なかったのだ。

そんなルベアにルナフィリアは僅かにからかいを含む笑みを浮かべて声をかける。


「うむ。この肉が安全であることは皆に証明する為の毒見役をやってもらう。我がやってもよいが、お主らがやった方が伝わりやすいと思うゆえな。だから一口でよいからこれを食して……あぁいや、折角であるから我が直接食べさせてやろう」


 そう言って、楽しそうに笑いながらルナフィリアはそばに添えられたいフォークで一口分の肉を持ち上げてルベアの口元へと持っていく。

咄嗟の出来事に目を白黒させながらも、ルベアは咄嗟に目の前に持ってこられた肉を食べる。


「う……あむ……。え……あ、ありがとう……ござい……ます」


 そうして感謝の言葉をあげるルベアであるが、そこには相変わらず口の中に広がる香ばしい肉を食べられた事への喜び……ではなくて、あらゆる意味で既に惚れているルナフィリアから直接に肉を食べさせてもらったと言う事に対する羞恥と、彼の後ろから投げかけるてくる同じようにルナにその魂を捧げた男たちから何故お前だけがそんな羨ましい状態になっている……という怨嗟の視線を受けて居る事による焦りが含まれた表情する。

そして、そんなルベア達を相変わらずに楽しそうに眺めたのちにルナフィリアは住人達の方へと振り返り再度声をかける。


「このようにこの肉は幾ら食べようとも一切問題ない。故に安心して心行くまで楽しむとよい」


 そしてその言葉を受けて――遂に彼らは我慢の限界を迎えたように獣人達は貪るように目の前で焼かれる肉を食べ始めたのだった。





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