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白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第一章 『邂逅編』
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第七話 「邂逅Ⅱ」

「我らが王として、滅び行く我らを導いて頂けないでしょうか?」


 そのグランの言葉を聞いたルナフィリアは、一瞬だけ目を見開き驚きの表情をしたかと思えば――次の瞬間には顔を破顔させ心の底から楽しげとも言いたげな笑い声を上げる。


「ふは。ふははは。あははははははは――。王。王だと。この私に王になれだと。流石にその言葉は予想できなんだぞ。先ほど生まれたばかりであり、この世界の常識すら知らず、未だ何者でもないと伝えたはずなのに、それでもなお私に王になれと申すか」

「――は。突拍子もなく、また余りにも傲慢な願いを抱いていることは理解しております。ですが……ですが、それでもなお伏してお願い申しあげます。どうか――我らが王となって頂けないでしょうか?」


 そうして深く頭を垂れるグランをルナフィリアは楽しげに見つめる。そして、ルナフィリアはさらに笑みを深めながらにグランの後ろにグランと同様に膝を着く男たちへと目を向ける。

そしてしばしの間、彼らを睥睨するのだった。


「まぁ……よい。その話自体はまず置いておく。だが――どちらにしろ汝らの事を含めて私はまだこの世界について無知ゆえにまずはそれを知らねばならぬか。ふむ……グランよ」

「――は」

「其方の言葉を受け入れるかどうかはともかく、まずは色々と知らねばならぬことがある。故に――その身に宿る記憶を覗かせて貰う。まぁ正確に言えば主が宿す銀水晶の記録を追憶するものになるのだがな。色々と見られたくない記憶もあるだろうが……それは先ほどの食事の対価だと思ってくれ。まぁ……もちろん嫌だと言うのならば当然ながら断ってくれてもよいのだがな」

「いえ。それがシルエスト様の言葉ならば従いましょう。どうぞ――この身はいかようにでも」

「ふふ。既に臣下の真似事か? グランよ。まぁそういうのならば遠慮なく覗かせてもらうがな。あぁ……ついでに私のことはルナフィリアと呼んで構わんぞ」

「……はい。ルナフィリア様」


 そうしてグランはルナフィリアに向けてその身を差し出す。そこには一切の戸惑いもないかのように。

ルナフィリアもまたそんなグランの額に向けて、遠慮なく手を伸ばしそして一言のみ詠唱を行う。


「Reminiscentiam《追憶》」


 そうして二人の間に僅かばかりの光が灯ったかと思えば、次の瞬間にグランが宿す記憶がルナフィリアへと流れ込んでくる。

生命の源は銀水晶である。正確に言えばこの世界の森羅万象。あらゆる現象は銀水晶から成り立っている。

此処はそういう世界であり、当然ながらに全ての生命は銀水晶をその身に宿している。


 例えそれが、銀水晶を扱えぬ獣人族であろうともその事実のみは変わらない。

故にルナフィリアが行っているのはその銀水晶を通し同調し、その銀水晶を宿すグランが辿ってきた世界を見ているのである。




 そしてルナフィリアは彼の記憶を辿るのである。

そこからルナフィリアはこの世界に存在する国。通貨。政治。種族と言った知識を流れ見る。

そうして、彼女が生まれ落ちたこの場所が魔の森「フェニクル」と呼ばれる場所であることを理解し、そして何故彼ら獣人族がこのような場所に居るのかも識る事となる。



 この世界は人族至上主義である。少なくとも彼らが苦難を強いられる結果となったギネヴィア帝国ではまさしくそうであった。

人族至上主義――というよりも正確に言うならばそれは銀水晶至上主義である。


 この世界の根源には銀水晶がある。万物の根源。あらゆる生命に力を与えている銀水晶。

その概念を嘗ての世界の言葉に当てはめて言うならば神という言葉に近い。

故に銀詠師とは、つまり神の力を使う者たちである。

その力をより正確に、より多彩に使うということはよりこの世界の根源に近づくこと。

そしてその力に限りなどはありはしない。故に優秀な者が扱う力とはまさにどこまでも絶大になりえるからこそ――彼らはどこまでも敬われるのである。


 人族至上主義を掲げるギネヴィア帝国などは特にその傾向が顕著である。

彼の帝国の貴族を継ぐ最低条件は銀詠師であること。

故にその条件から外れたものは容赦なく貴族という括りから除外されるのである。

逆に言えば平民であろうとも銀詠師の素質があれば、貴族へと成りあがることができるのだけれど。


 そして、ギネヴィア帝国皇帝一族は常に最も優秀な銀詠師であると言われており、現皇帝であるカルヴァトロスⅡ世は歴代皇帝の中でも極めつけの銀詠師であると言われている。


 それがこの世界における人族と銀詠師の位置づけある。

では翻って獣人族は? 獣人族とは言ってしまえば人の体に獣の体が一部付いているような者たちを指す。


 例えばグランを見ても基本的には人と変わらぬ姿をしているが、その顔の周りには獅子のような鬣が付いており、また人の耳の代わりに頭からこれも獅子のような耳が生えているのである。


 また人よりかは身体能力が上の者たちが多いが、言ってしまえば人と獣人との基本的な違いはその程度である。

けれどそこには決定的な違いが一つだけある。

それが彼ら獣人族には一切銀水晶を扱えないということである。

彼らに不幸があるとするならば――きっとその一点のみであろう。


 そして獣人族は獣人族との間のみならず、純粋な人と人との間の子としても生まれ落ちることがある。

なぜそのような事が起きるのかは、未だはっきりとしたことは分かって居ない。

しかし、それなりの確率で彼らはこの世界へと生まれ落ちてくる。


 そして本来であれば、例え彼らが獣人族であろうとも人と同じ祝福があっても良いのだろうが、しかしこの世界ではそうはなっていない。少なくともギネヴィア帝国では彼らが生まれ喜ぶ親は居ないだろう。

銀水晶を至上と考え銀詠師を敬う彼の国において、それを全く扱うことが出来ない彼らは銀水晶から見捨てられた一族として見下され侮蔑される。


 故にこそ彼らの扱いはどこまでも悪い。

だからこそ何故このようなまともに人が住む事が叶わぬ魔の森になどにグランら獣人族が暮らしているのか。

その一切をルナフィリアは理解する。


 彼らの絶望を。生まれ落ちた時から侮蔑の視線にさらされ、生きていくことすら常に命を懸け続けねばならなかった彼らの渇望を。そして、彼らが辿り着いた最後の場所。この魔の森ですらもはや彼らの命は閉ざされかかっていることを。

彼らの過去を。現状。絶望を。渇望を。それら全てを――ルナフィリアは十全に理解するに至った。


 そうして、ルナフィリアはゆっくりとその手をグランより離す。

さすればそこから溢れていた光も消え去り、周りには魔の瘴気によって出来た暗雲による陰りと静寂のみが広がった。

そして、ルナフィリアはしばしの間グランを眺めたのみちに静かにその口を開いた。


「なるほど。汝らの過去を現在を理解した」

「――は」


 その言葉にグランはただ一言をのみをもって頷く。

そうして頷くグランをルナフィリアはそれまでの楽しげな表情ではなく、この世界に来て始めて見せる真剣な表情を持って見つめ続ける。

そして、しばしの間またも沈黙が下りた後に再びルナフィリアは口を開く。


「ただ獣人族であるというだけで、迫害され差別され続けた。汝の記憶を辿ったからこそ理解しよう。これまでの人生において汝がどれほどまでの絶望を味わい続けてきたのかを。そして、その絶望をその身一つで払いのけて辿りついたこの場所であったが、けれども終焉がもはや見えたしまったというその事もまた理解した」


 それはただ事実のみを告げている言葉であった。まさにグランの過去と現在を端的に表している言葉。

それをルナフィリアは淡々と告げ――そしてグランはただその言葉を沈黙で受けた。

ルナフィリアは十全に理解しているのだ。もはやグランらに未来など無いことを。後はもはや終焉を待つのみ存在であることを。その深層まで理解しているのだから。


 故に――ルナフィリアはグランに問うのである。


「それはまさに煉獄のような生であったのだろう。そして今まさに煉獄の底に足が付く寸前と言ったところか。ならば――そのような状況から汝は何を見た。この私に――ルナフィリア・シルエストにグラン・ローヴェルトはこの暗雲に覆われた世界で煉獄の底から何を見たというのか」


 そう問うルナフィリアの周りには何時の間かその身が宿す銀水晶からその力が漏れ出るかのように力の片鱗が舞い踊る。

それはきっと無意識の行動であったのだろう。そしてその力は決して目として視認できるものでもありはしない。

けれど、その力は五感としてグランらに覇気として感じ取られる。


 決して嘘を許さぬ、覇者の風格。

もはやルナフィリアがどれほどまでの力を宿しているのか、グランらでは計り知れぬどの力の奔流。

並みの人間ならそれだけで身を竦ませるほどの畏怖を伴うその姿に――なれども

 

 グランは下げていた頭を上げ、はっきりとルナフィリアの紅い瞳と目を合わせる。そのグランの瞳には一切の恐れもなく、むしろ目を輝かせるようにただルナフィリアを見つめ続ける。

そして彼は胸を張り――ルナフィリアの問いに対して。


「明日を。光り輝く明日を見ました」


――そう答えたのだった。






小説家になろう勝手にランキングタグを追加してみました。

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