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白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第一章 『邂逅編』
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第六話 「邂逅Ⅰ」

「ん? 全く食が進んでいないではないか。この肉は汝らの口には合わぬか?」


 屈強な男たちが全く食が進めていないなかで、もっとも華奢な体をしたルナフィリアのみが最も肉を平らげていく。

肉の焼ける香ばしい香りが辺りを支配しながらに、それでもグラン達はその肉に手を伸ばすことが出来ずにいた。

故にそんな彼らにルナフィリアは疑問を投げかける。


「……いえ。ですが我々の常識では魔物の肉は食べることは出来ないはずなのですが」

「あぁ。それは銀水晶が瘴気に侵されいるが為だったろう。ならば安心するとよい。これに覆っておいた瘴気は既に私が浄化した故に汝らでも問題なく食べることができるようになっているわ」

「……浄化……ですか?」

「然り。生命を宿す者には必ず銀水晶をその体内に持って居るが、魔物とはつまりその銀水晶が狂ったが故の結末よ。ならばその歪みをほどいてやればそれはただの動物に戻るこそが自然よ。まぁ……私の場合はそれに加えて余分な雑菌も洗い流したがね」

「……そうですか」

「理解したのならばまずは一口食べてみるとよい。味も安全性もこの私が保証してやるのだから。安心して食べてみよ」


 そう言いながらルナフィリアはいつの間にか用意していたナイフとフォークをグランらに手渡しながら食べるように促す。

そこまでされて、ようやく目の前で焼かれる肉らを食べる決意を固めるグラン。

そもそも、先ほどから空腹の胃をこれでもかと刺激する匂いにもはや我慢の限界すらも超えていたのだけれど。

遂にグランは彼の部下たちが見守る中でその一つを口へと持っていく。


 そして――彼は目を見開く。


「なんて――美味い」


 口の中に広がる肉汁と香り、そして絶妙の噛み応え。

まともに味付けすらされていないにも関わらず、それでも文句のつけようもないほどの美味であった。

そして、そんなグランの反応にルナは満足げに頷くのであった。


「くく。であろう。味のよさが分かったのなら、ほれほれ――ならばお前達もいつまでも見ておらずに食べるとよい」


 そうしてそれまでただ呆然と様子見をしたいたグランの部下らも隊長に続くように目の前で焼かれる肉に手を伸ばし、おそるおそるながらに食べていく。

そして――誰一人として例外なく、みな驚愕する。


「う……うめぇ」

「なんだこれ……。なんで魔物の肉がこんなに美味いんだ」

「あぁ……これはやべぇ。死ぬほどうめぇ」

「うぅ……生きてて良かった」


 この魔の森に逃げ込んでから、常に質素な食べ物しか調達してこれなかった者たちである。

ただただ体中に染み渡るほどに美味しいと思える肉を食べて、もはや涙すら流す者すらも居た。

そして、それから先はただただ我武者羅になって彼らは肉を貪り食った。

焼いては食べ、焼いては食べ。

ルナフィリアが解体した分は魔物一体分であったが、それでも相当の量があった。


 少なくとも幾らグラン達十名が屈強な男たちであろうとも、十名程度で食べ切れる量ではなかったのだけれども。

それでも、気が付いたときには彼らはその肉の最後の一片まで焼き上げきったのである。


 彼らはまさにここ数年は味わったことがないほどの幸福を噛み締めていた。

まさか数時間前まで死すら覚悟していたというのに。

今ではただただ満腹感のみが体を支配しているのだから。

これは天からの恵みであろうかとすら思えて――思えたところで彼らは思いだす。


 そもそも、これらを自分たちに与えてくれものが誰であったのかを。

食べる事に夢中になり、忘れてしまっていたが改めて自分達が置かれている状況を思い出す。


 そして、全員がバッと一人の少女が座っている場所を振り向けば。

そこには、変わらず美しき少女が彼らの食べっぷりを楽しげに見守っていたのだった。

そんな少女を前にして彼らは改めて姿勢を正し頭を垂れる。

そうして、そんな彼らを後ろいにして彼らの頭領たるグランが代表して口を開く。


「……お見苦しい姿を晒してしまい申し訳ありませぬ。またこれほど美味な食を与えて下さりましたことを、改めてお礼申し上げます」


 グランは元は傭兵であったが、それでもあの帝国で仕えていた男。

必要最低限の礼儀作法は身に着けていた。


「よい許す。見事な食べっぷりであったからな。見てるこちらも楽しかったというものよ」

「……は。ありがとうございます。そして……あれほどの食を与えていただいたにも関わらず不躾だとは十二分に理解しておりますが、御身についてお聞きしたい事がござますれば、お答え頂けないでしょうか?」

「ふむ。構わんよ。私で答えられることならば答えよう」

「ありがとうございます。では――貴方様は何者なのでしょうか?」


 それはまさに彼らが抱く疑問の核心。

一つ一つの疑問はまさに出会ってからこの短い時間の中でも数え切れぬほどにあるけれど。

結局とろこその疑問の終着点は一つ。

つまり――この少女は一体何ものであるのだろうという。


「……ふむ。私が何者か。名を問うているならば、私の名はルナフィリア・シルエストである。が――私という存在が何者であるかという意味で問うているならば、私は未だ何者にも成り得ていないよ」

「何者にも……成り得ていないですか?」

「然り。私という存在は今を持って生まれ落ちたばかりであるからな。ルナフィリア・シルエストという存在は未だ何者にも成り得ぬ存在よ。何者であるかという意味ならば、私は未だ何も為しえていなければ、何も得ていないからな。故に私は未だ何者でもないさ」


 それは余りに抽象的な言葉であった。

グラン達にとっても全てを理解できない言葉。

なれども――その一部を取って考えるならば、このルナフィリア・シルエストという存在はまさに今この時を持って生まれたという。

そんな馬鹿な話があるはずがないだろう――などという想いは既にグランらには無かった。

既にいくつもの非常識な自体を目の当たりにしているのだ。


 白狼族というもはや伝説上の種族であること。

獣人族であるにも関わらず帝国ですら存在しない程の卓越し銀詠師であること。

魔物の肉を食らうという今まで考えられないことを平然と行えること。


 これだけの存在が今まで全く噂にすらなっていないのだ。

もしも、この少女が既にこの世界に居たのならば必ず大陸中に響き渡るほどの話題になっていたはずである。

にも関わらず今日までそのそうな存在は、誰一人として知らなかったのだから。

ならば、まさに彼女はこの時をもって生まれ落ちたのだろう。


 それにそんな事実よりも何よりも――彼女自身がそう言っているのだから。

ならばそれこそが事実なのだろう。


 幾多の修羅を乗り越えた男が、ただ少女の言葉を鵜呑みにするなど本来ならばあり得ないのだろうけれど。

けれど、それでもなおグランのみならずその部下ら全てがルナフィリアという少女の言葉を疑おうとすら思えなかった。

彼女の言葉にはそれだけの力があったから。それを疑おうとすら思えぬほど覇気に覆われて。


 そして――グランはさらに思う。



彼女は「未だ」何者でもないと言った。ならば。それならば――これから「先」は?



 未来においては彼女は何者に為り得るというのか。

このとてつもない力を持った少女は、この世界で何になろうというのか。

そしてそんな少女と自分はどう関わりたいのだろう。


 その想いに至った時に――ゾクリとグランの背筋に電流が流れる。


 それはまさに天命の如く彼の中を支配する。

何を馬鹿なと思うけれど。それでもなお――止まらぬ激流となって彼の中を流れゆく。

おもわず彼は、垂れていた頭を上げと――純白の中にたった一つだけ紅く光る瞳と目が合わさる。


 に居るのは、不遜な笑みを浮かべる美しき白狼の少女。

その身に宿るは圧倒的なまでの覇気。

彼女ならばまさに何者にもなり、望めば不可能すらないのではないだろうかと思うほどに。

それはまさに王道を歩む者の姿にしか見えぬからこそ。


 だからこそ――もはやその少女からグランは目を離せなくなる。

あるいは、既にグランは自身の心がその少女に魅了されてしまったことを改め理解する。

故に。だからこそ。もはやその想いを止めることができないと思ってしまった。

そして、そんなグランを見下ろすルナフィリアは楽しげに笑いながらに問いかけたのだった。


「ふふ。何やら申したげだな。許す。私に申したいことがあるならば口にしてみるとよい」


 そう問われてしまったならば。もはやグランに止る心算など完全に消え去ってしまう。


「――は。ならば申し上げます」


 そして彼は改めて膝を着き直し、右手を胸に当て、深々と頭を下げる。

それは今までの簡易的な礼では無く、まさに騎士が行う最敬礼の形。

騎士が最高位に当る者にだけ行うもの。

そして、グランは一度だけ息を吸い心胆に力を入れ――。


「我らが王となりて、滅び行く我らをお導き頂けないでしょうか」


 そう口にしたのだった。





ちまちまレイアウトを変更しています。

読み辛くなっていたらすみません。

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