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白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第二章 『建国編』
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第二十六話 「斬撃」

 場所はエルフィール王国政務庁且つ国王であるルナフィリアが寝泊まり宿舎である屋敷。

時刻は丑三つ時とも言える深夜。

人の気配も街を警護する警備兵が巡回する程度である。

当然ながらこの屋敷の人員も眠りについている為に人の気配はありはしない。


 此処はその屋敷において主たるルナフィリアが眠っているまさにその寝室。

中からは少女の寝息のみが規則正しく聞こえるのみである。

其処にはそれ以外に一切の気配も無く。

僅かな違和感すらも存在しない。

故に安らかに眠る少女が一人居るのみである。


 静寂な世界。

本来であればこのまま朝まで時が進むのみであろう。

部屋の中央に置かれたベッドにて横になる少女もまた朝まで睡眠をとり続ける。

何事も予定通りに時は進む。まさに世は全て事もなし。


 ――であるはずであった。

 ――まさにその瞬間に至るまで。


 僅かな異変。僅かな違和感すらも一切たりとも存在せず。

不変の時が悠久の如く流れようとしていまさにその瞬間に――。


 ――ルナフィリア・シルエストが眠るベッドに視認すら叶わぬ神速の斬撃が走る。


 その一振りはまさに神技の如く。一切の感知を許すことすらなく繰り出される。

ルナフィリアが眠っていたベッドは、刃すら触れずそこから生ずる衝撃波をもってのみで一刀両断される。

それはまさに至高の一撃をもって両断された。

ならば其処に人が居たならば、その者が辿る運命など確認するまでもないだろう。

例え如何なる鋼鉄の甲冑を纏っていようとも、その一撃から逃れることは叶わぬ。


 故に――そこで眠っていたはずのルナフィリアが辿った運命は既に決まっている。


「――やっと来おったか。待ち侘びたぞ!!」


 興奮を抑えきれぬ声が、部屋に響く。

切断された布団がベッドから剥がれ落ち、そこから一人の少女が現れる。

そこには極上の笑みを浮かべながら、先の一撃を逸らす為の結界が部分展開されている。

彼女はまさにこの一撃を待っていたのだ。

ならばそんな彼女がこの展開を喜ばないはずがないだろう。


「――Lucent mundo《世界を灯せ》」


 素早く詠われた術式。その瞬間に幾つも光球が浮きあがり、部屋を明るく照らす。

それらは昼間と変わらぬほどの明るさで部屋を照らすが、それでも部屋にはルナフィリア以外の気配は無し。

静寂さのみが未だ世界を支配する。


 しかし、そこに何かしらの隠蔽があることはもはや疑い無しである。

ルナフィリアの背後で美しいまでの切れ口で切断されたベッドこそがその証拠。

ならば――そのような異変をルナフィリアが許すはずが無し。


「王を前にしてなお姿を見せぬその不敬。この我が許さぬよ――。Sigillum polluit mundo ostendere conatur oculus meus《世界を汚す封縛よ、我が正眼が示そう》」


 部屋全体を俯瞰するように眺めながら、僅かな違和感すら許さず世界を見つめる。

そして、次の瞬間に彼女が右手を僅かに輝かせ世界すら騙しうる隠蔽を明かす術式を完成させる。


「Indicem depellendam mundi《世界を晴らす道標とならん》」


 その瞬間に――僅かに部屋全体が歪む。

非常から正常へと。

本来あるべき姿へと世界を正す。


 であるならば――其処には世界からも隠蔽してみせた一人の少女の姿が現れる。

エプロンドレスを纏い、部屋の隅に佇む猫族の少女の手には一社余りの小太刀が握られる。

その姿を見つけ、ルナフィリアは笑みを深める。


「やはり主であったな。ようやく我を襲ってきたか」


 其処に居た少女は先日にカールが居たときに紅茶を運んできたシロと名乗った少女である。

カールが違和感を覚えた少女が其処に悠然と佇む。

あの時に彼が感じた違和感も今ならはっきりと分かるだろう。


 彼女の瞳は僅かな光も灯していないのである。

黒い闇のみが広がる其処には、僅かな感情すらも読み取れず。

それは演技やそういう振る舞いを成そうとする気概程度では決して辿り着けぬ絶望の果てに辿り着く一つの極致。

煉獄の底とも言える場所。


 どれ程の経験を積めばそうなるのか。

感情を亡くすというのは言われるほどに簡単ではない。

世界でも最も卑劣な世界を生きる獣人族であろうとも、早々にこれ程の目は抱けないだろう。


「くふ。王たる我が問いかけているのだ、返答ぐらいせぬか」


 しかしルナフィリアはなお楽し気に問いかける。

配下であるはずの少女が刃を片手に襲い掛かろうという状況であろうとも、それを心から楽しむ気概。

それこそが彼女の本質。如何なる場面であろうとも笑みを辞めずに踏破してみせる。

それが神が与える一撃であろうとも、死を迎えるその瞬間まで楽しんでみせよう。

否。例えそれがどれ程の絶望であろうとも凌駕してみせる。ならば後は如何に楽しむかであろう。

そのような存在であるからこそ彼女は王であり、あらゆる者達が彼女に付き従うのだから。


「――」


 そして、そのような王を前にして猫族の少女は無言。

昼間に侍女として仕えていた時には、まだ見せていた生きる者の表情も全て削ぎ落し。

まるで動く死者とでも表現すべきその姿。

この世全ての絶望を経験したかのような僅かな光も灯さぬ瞳でルナフィリアを見つめる。


 それは殺気を伴う視線よりも遥かに恐ろしい眼だろう。

まるで彼女が抱く絶望が世界を侵食するような幻想すら見てしまいそうになるほどに。

普通の者が今の彼女と相対すれば、それだけで恐怖でパニックを覚えてしまうだろう。

それほどに彼女の瞳は生きる者からかけ離れていた。


 しかし――此処に居るのは並みの者に非ず。

白狼帝と呼ばれ獣人から無類の敬愛を受けるルナフィリア・シルエストである。

ならばその程度の視線、艶美なる笑みと共に受け止めよう。


 そしてそんな対照的な二人が見つめ合うこと――僅かな数分。

それまで一切の動きを見せていなかった猫族の少女シロが、音もたてずに地を駆け抜け――瞬きすら許さぬ神速で悠然と佇むルナフィリアへと肉薄する。

その速度を僅かにすら落とさず、右手に握る小太刀が振るわれる。

それらの動作が行われる事まさにコンマ数秒。

鍛え上げられた者であろうとも知覚する事すらままならぬ斬撃。

もはや、小柄な少女に過ぎないルナフィリアを一刀で両断するのは確定した未来となる。

既に一秒も要らぬ。世界が知覚するよりも早くシロの刀剣はルナフィリアを切り結ぶ。


「arcanum ve ros《幻想の雫》」


 しかし――それを覆してこその王。神速の斬撃がルナフィリアに届くその寸前に、それより早く彼女の手に現れた大太刀によって防がれる。

金属と金属が切り結ぶ美しい音が部屋に響き渡る。

一刀両断される未来を防いだその太刀こそが、まさに幻想より生まれし鉄剣。直刃と呼ばれる真っ直ぐな刃紋が広がるまさに芸術品の域にまで高められた剣としての一つの極致。


 その時になり――それまで一切表情を動かさなかった少女に僅かに揺れが見えた。

それは本当に僅かななものであった。普通であれば決して気が付けれない程の揺れであったが、しかし剣で切り結びあったが為に少女の寸前に居たルナフィリアにはその変化が確かに感じ取れた。


「くふ。僅かに揺れたな? 原因はこの剣か? 我が知る限り至高の刀剣を模倣したものであるが、主もそれほどの剣戟を振るえぬ者。ならば剣に目が行くのも然り。その小太刀は主が振るうには聊か以上に無粋であるが、語り合うには問題なかろう。その類まれな剣技を持って、存分に挑んでくるがよい」


 その言葉が終わらぬ内に再度シロは距離を開ける。その時には既に先ほど見せた僅かな揺らぎも完全に消し去って。

暗き瞳を伴って、逆手に握る小太刀をルナフィリアへと向ける。

それに対して、シロへ向けて正眼に大太刀を構えるルナフィリア。


 そうして次の瞬間には、再び距離を詰め互いに剣戟が始まる。

その闘いはまさに熾烈を極めたのだった。











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