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白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第二章 『建国編』
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第二十五話 「始まりの夜」

「く~。とりあえず今日の業務はこの辺で終わりとするか」


 そう告げて椅子に座りながら伸びをする少女が一人。

夕日に顔を赤らめながらのそうした仕草は実に愛らしいと言えるだろう。

彼女がエルフィール王国において白狼帝と呼ばれ、無類の畏怖と敬愛を受けているという事実を知らなければであろうが。

少なくとも彼女を僅かにも侮る輩はこの国は文字通り一人もいないだろう。

いや――もう僅かもすれば世界中でもこの少女を侮るなどということはできなくなるかもしれぬが。


「お疲れ様ですルナフィリア様。この後は部屋でお休みになられますか?」


 共に執務室で業務を行っていたグランがそんな主へと声を掛ける。

ちなみにグランがこの部屋にいるのは最近では珍しい。

書類仕事などは副隊長であるカールが担当している為に、グランは外部での任務を任されている。

なのでルナフィリアとグランが二人っきりで執務室で業務を行ったのは久方ぶりのことであった。


「うむ。今日はそうしようかの。まあその前にちと夕食を取ろうか」

「それがよろしいかと。直ぐにこちらへと運ばせましょう」

「あぁ、それには及ばぬさ。先ほど主が来る前に我がこのような物を用意したのでな」


 ルナフィリアはそう告げて、グランの目線に入らぬ机の影から二つの皿を取り出した。

そこに乗せられていたものは、俗にいうサンドウィッチというものである。

それの一つをルナフィリアは、グランへと手渡してやる。


 グランの方と言えばは、その皿をまるで財宝のように畏れ多そうに受け取るのであった。


「…………これはルナフィリア様が御造りなったものでしょうか?」

「然り。これでも料理はできるのよ。まぁ今回はかなり簡易的なモノではあるがな」


 気軽に笑いながら既にその一つを食し始めたルナフィリアに対して、グランの方は恭しくそのサンドウィッチを手に取る。

敬愛する王による手作りの食事が与えられたのだ。

これが嬉しくない訳がないだろう。

まさに麗しき主従愛である。


 ――見た目が十にも満たぬような少女から食事を与えら感動する五十のおっさんであるということを除けばだが。

まあそんな事を気にする二人では無いので、何の問題もないのだけれど。


 そんなこんなで食事を続ける二人であるが、話題は自然と食材方面へと移っていく。


「しかし、まさかこの国でパンが食べられる日がくるとは思いませんでした」

「ふむ。まあ確かに小麦がこの国で生産できるようになったからな」


 その言葉の通りに、この国では現在小麦を生産している。

それを使いルナフィリアはパンを造らせたのだった。

またこの国では小麦以外にも大麦やトウモロコシといった穀物類を中心にオリーブやブドウ、カボチャ、キャベツ等の農産物の生産も始めている。

それに多数の魔獣狩りも加わってこの国の食料生産性は跳ね上がっているのである。


「やはりアナヒタ様の加入の影響力は本当に大きいですな」


 グランが呟くその言葉の通りに水の精霊であるアナヒタの加入の影響力は本当に大きかった。

無限水源もさることながら、彼女はある程度ではあるが気候と土壌すらも操ってみせたのだ。

もちろんそれはかなり狭い範囲に限られる上に操作できる期間も長くはないが、それでも農作物を造るうえで彼女の影響力は計り知れなかった。

ルナフィリアですら肥料すら必要とせず、嘗て居た世界の農作物の生産性すらも上回った結果を見たときは流石に驚きを覚えたほどであった。


「確かにな。だがこれもまだ途中地点よ。もう暫くもすればルインがこの国には未だ無い更なる苗に、香辛料。それに家畜なども運び入れよう。さすればさらに生産量は上がろう。まだまだ手は抜かぬさ。食料の生産力はそのまま国力にも繋がるのだからな」

「そうですな。この人口も今より遥かに増えていくでしょうからな。この国はまだまだ成長を続けましょう」


 二人は未来に想いを馳せながら、この国で造られたパンに舌鼓を打ちながら食事を続けたのだった。


 そうして暫く後に食事を終えた二人は、そのまま最後の書類整理などを行っていく。

数分ほど互いに無言の作業が行われた後に、ルナフィリアの方が最後の片づけとも言える業務を終わらせて立ち上がる。

そのまま二人で執務室を後にした。普段であれば、このままルナフィリアはグランと部屋の前で分かれるのだが――その前にふとルナフィリアが立ち止まり振り返る事なく未だ部屋の前で見送るグランへと声を掛ける。


「――そういえばグランよ。アレの動きはあったか?」

「都市内部では未だ。ただし北方部でいくらか動きがありそうかと」

「くふ。そうかそうか。あぁ――そういえばカールがあの少女に勘付きよったぞ」

「……そうですか。というより結局カールには未だ伝えていなかったのですね」

「うむ。彼奴は少し指示待ちの傾向が強いからな。折角独自の裁量権を色々付けてやっているのだから自分で動い貰いたいという親心ゆえよ」


 クツクツと笑うルナフィリア。実のところカールは近衛隊の副隊長という括りではあるが、最近では隊長であるグランとは別の方面で働かせていることが多い。

グランが主に軍務に重きを置いているのに対して、カールは内務――その中でも特に情報統括部門を主にやらせている。

故にグランには伝え、カールには未だ伝えてい事があるのも彼の成長を促す為である――かもしれない。きっと。

悪戯をしている少女のような笑みをルナフィリアが浮かべていなければの話だが。


「……ふう。今回の事は私も余り賛成では無いのです。ならばカールにも伝え、もう少し人員を増やし慎重に事に当たるべきかと」

「それはならんさ。そもカールに伝えていない一番の理由は、我を餌にして早々に奴らを釣り出そうという考えなのだから。我の国で詰まらぬ行いをさせるなど我が許すかよ」


 ――笑みは未だ変わらず。なれどもそこに込めらた意思は確かにグランを射抜く。

ならばそれ以上彼が意見をするつもりなどない。

いや――元々そんな気もなかったのだ。

王がやると言った以上は臣下である自分は従うのみだ。

だが――それでもただ言われた事だけをこなすつもりもない。

故に必ず意見は伝える。

それでもなお王がその道を歩むというなばら、後は何処までも共に歩むのみである。


「……畏まりました。それでは私も残りの仕事をこなしてきましょう」


 最後に一礼を行いグランはルナフィリアよりも先に執務室を後にする。

そんな彼を見送った後に彼女もまた部屋を出る。

向かう先は、グランに告げたように自らの部屋である。

それも執務室のある、この屋敷の二階にあるのだけれど。


 そもそも此処は都市の中心である広場より僅かに南に逸れた場所にある、やや大きめといった屋敷の一つである。それをルナフィリアが政務庁且つ彼女自身の宿舎としたのだった。

理由は単純に、此処からならば都市の至る場所であろうとも赴きやすいというだけのものであった。

しかし村が街へと発展を遂げようとし、何れは都市と呼べる者になろうかなってくると逆に王国のトップが住まうには些か貧相さが目立ち始めてしまった。

故に都市建築を任されていた者達が中心となり、王に相応しき王城を造りたいと申し出てきたのだった。

それにグラン達もその意見に賛成した。

都市の発展は著しいく、やらねばならぬ事が山のようにあり余裕と呼べるほどの余裕は一切無いが、それでも嘗てに比べれば雲泥の差である。

故に都市のシンボルともなりえる王城を造ろうとルナフィリアに願い出たのだった。

そうすることで国王の威をさらに広められると言って。


だがそれをルナフィリアは却下した。


「威というならば我がおる。我がおるという以上の威があるか? ならば我が居るべき場所が国の中心であろう」


 たった一言。だがそこに居た全ての者を平伏させるには十分の覇気を見せつけた。

故に全員が彼女前で傅いたのだったけれど、その後にそれまでの覇気を霧散させ笑いながら言葉を紡いだ。


「――まあと言っても、今後他国との関わり合いが出てくる以上はそう言った場所も必要であろう。というわけで現状の都市計画を破綻させない程度にゆるりと造ってくれ」


 それを聞いた瞬間に、彼らは、ルナフィリアが苦笑を見せる程にやる気を漲らせ世界に轟く王城を造ってみせようと意気込んだのだった。

だが他にも造らねばならぬモノが多くあり、そちらを蔑ろに出来ない為に彼らは可能な限りにフル稼働で都市建設に従事しているのだった。

王城は未だ土台が出来始めたといったところであるが、それでも国民全てが完成を待ち遠しにしているのである。


 といった話もあるが閑話休題。

現在は未だルナフィリアが住まう場所は、この政務庁且つ宿舎の少し傷が目立ち始めた三階建ての屋敷である。

屋敷の入り口にのみ近衛騎士隊が配備されているが、内部には現在は幾人かの侍女が居るのみである。

そんな屋敷の中を歩きルナフィリアは自らの寝室に辿り着く。


 休むには少々早いが、ルナフィリアはそのまま寝間着に着替えベッドへと横になる。

それだけ日々の業務に疲れていたのかと思うかもしれない。


 ――その口元が眠るには少々不釣り合いなほどに口角が上がっていなければの話だが。


「――早く来い。この我が待ちわびるているのだから」


 その言葉は呟くような声であり、誰に聞かれる事も無く夜の闇に消えていったのだった。




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