表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第二章 『建国編』
20/27

第二十話 「獣人を産んだ者たちⅠ」

「――ルナフィリア様。十六名ほどの人間がこちらへと向かって居るとのことです」


 場所はルナフィリアが政務を行う執務室。そこでルナフィリアは最近実験的に造らせていた紙――和紙に似たそれに日々の政務の記帳を行っていたとき。

グランがノックと共に部屋に入るとそう報告をした。


「――ん? 人間だと。何処ぞの国が調査にでも来たか?」

「いえ……。彼らはおそらく密偵などではなく……恐らくは何度もこの場所へと訪れていた者たちであるかと」

「何度も……? それは……あぁ……いや。お主の記憶にあったなそう言えば……。そうか彼らは――」

「えぇ。彼らは嘗ての我らを援助して者たちです」


 ルナフィリアがグランから写し取って記憶を思い起こし、当たりをつける。

そう此処は獣人たちが住まう場所ではあるけれど、それを援助する人間たちが居たのだ。

此処に住まう全ての者たちを補うには、その援助は雀の涙程度であったかもれしない。

それでも、あらゆる物資が不足している為に貧窮に喘ぐ彼らからすれば、それは大切な補給物質でもあった。

だからこそ、人間である彼らがこの獣人の村に入ることを許されていたのだが。


 しかし、彼らがこの村に入ることを許されていた一番の理由はそれではないのだけれど。


「――彼らは……獣人を産んだ親たちであったな」

「……はい」


 そう。彼らはみな獣人を生んだものたちであったのだ。

獣人は獣人との間のみではなく、母数の数から言えば僅かな確率ではあるけれど、それでも一定の割合で人と人との間からも生まれ落ちる。

そのような事になれば、その親やその親族は必ず嘆いたことだろう。

なぜ我が子が獣人として生まれ落ちてしまったのかと。

その理由は、アナヒタの言葉のとおりであるならば、それこそが神が造り上げたシスムテの結果であるのだけれど。


「ふむ。とりあえず彼らを我のところまで案内して貰えるか。迎えには――グラン。お主が直接赴け」

「――は」


 彼らが前回この村に来てから、既に数ヵ月が経っている。

ならば現状の変化に驚愕するのは確実である。

また彼らが何処やの密偵である可能性もあるけれど。

それらを踏まえても、グランならばつつがなく対応にあたれるだろうという信頼があるからこそ、ルナフィリアは彼を迎えに出したのだ。




 そうして、グランが出向いてから、一刻ほど。

コンコン――。

ノックの音が、執務室の中に響く。


「――入れ」


 ルナフィリアが許可を出してから、二秒後に扉が開く。

入ってきたのはグラン一人であった。

しかし、ルナフィリアはその背後に十名を超える人間の気配を感じ取っていた。


「お待たせ致しました。彼らを全員お連れ致しました」

「うむ。それで問題は無かったか」

「はい。間違いなくみなが獣人の親であり、我らを援助して居た者達で相違ないかと」

「そうか。ならば全員をこの部屋に入れるよい」

「――は」


 グランは再度部屋の外に出ると、すぐに引き返してくる。

そして、十六名の男たちを連れて部屋の中に入ってくる。

全員が間違いなく人間であり、年齢で言えば最低でも皆が四十台以上といったところである。

黒髪の者が多く二名ほどがくすんだ茶髪をしており、全員が男性である。


 ――誰かが息を飲んだ音がした。

人間達は誰も声を発することが出来ずにいた。







 そもそも、此処に来るまでにも色々と驚愕すべき光景が広がっていたのだ。

朽ち果て、滅びていくだけにか思えなかった獣人の村。

少ないながらに何とか援助こそすれども、訪れるたびに死臭が広がって居た。


 もう――駄目なのかもしれない。


 それは誰も言わずとも、この場所を見た者全てが想っていたことであった。

だからこそ、彼らはこの度訪れたときには、最悪の光景が広がっているかもしれない。

そう覚悟しながら来たというのに。


 まず彼らの目に広がったのは、見たこともない強大な結界。

これまでの綻び、砕け散ってしまいそうだった薄い結界ではない。

地も空も、その全てを浄化してしてしまうような、どのような国家ですら見たこともないような結界が彼らの目の前に広がった。

そしてそこを超えた瞬間に、其処が魔の森の中心であるなど信じる事が出来ないほどに澄んだ空気が彼らの肺を支配した。

それだけでも、驚愕すべき事であるというのに。


 さらに進めば、監視塔と思われる簡易的ではあるが高い石塔に辿り着いた。

当然ながら、そんなものなど此処には無かったのだ。

そして、呆然とそれを見つめる彼らの前に見知った男が降りてきた。


 グラン傭兵団の一人である。この場所を実質に支配してるグランという男の配下。

その一人が、彼らの前に現れ――お久しぶりです、そう挨拶してきた。

混乱する人間達は当然ながら彼に色々と質問をぶつけようとするが、まずは連絡をしなければならないので少し此処で待って欲しいと言われたので従った。


 そうして待つこと一刻に満たないほどに、そのグラン傭兵団のトップであるグラン本人が現れた。

彼もまた、丁重に挨拶を告げると自分に付いて来て欲しいと伝えた。


「――何処へ?」


 そう告げる人間に、グランは胸を張りこう答えた。


「――王のところへ」


 そして、グランは彼らを連れながらこれまでの事を大まかな事に説明した。

此処はエルフィール王国と名乗るようになったこと。

それを率いるのは白狼族の少女であること。

彼女は銀水晶を操れること。

そんな彼女は――間違いなく自分たちの王であること。


 そんな事を告げらたけれど――しかし人間たちはすぐに信用できなかった。

白狼族の少女という時点で既にこの世界に居ないと言われる種族なのだ。

この世界で最も美しいと言われる種族。

なれども、どうしようもなく短命であり。また白狼族は白狼族からしか生まれないと言われている。

そして、最後の白狼族が亡くなってからすでに数十年。王侯貴族が血眼になって探したそうだが、結局もはや見つけられなかった。

故にもはや滅んだ伝説の種族と――そう言われているのに。


 その白狼族の少女が現れた。しかも王を名乗り――国を造り獣人たちを率いている。

さらに彼女は銀水晶を帝国銀詠師すらも圧倒するほどに扱えるという。


 なんだそれは――と。此処に居ない他の人間に伝えれば鼻で笑われるような夢物語。

しかし、彼らの前にはそれを夢物語であると言うことのできないだけの光景が広がっていた。


 彼らの前に広がる光景は――死に絶える寸前の滅びの運命にある村に非ず。

そこには、見たこともないほどに熱気と活気に溢れた王国王都として発展しようとする街であった。


 嘗ては村に近寄るだけで、様々な腐臭が漂っていたというのに。

今は獣人たちの活気から漂う人の生きる香りのみが漂う。

村に溢れていた塵は全て撤去されていた。

変わりに、地上の至る道の脇には溝がありそこには、日の光を浴び美しく輝く水がとめどなく流れていた。


 そして、前はただ夜を過ごす為だけの木材で出来たボロボロの家しか無かったというのに。

今では見たこともない、石と金属とも見分けが付かない――なれども美しい建築材による帝国王都ですらも見たことも無い建築技術で造らようとしている家々が見える。

それは未だ完成途上であろうが、けれども確かな技術の元で造られようとしている。


 また街の至るとこには金属と思わしきもので造らている管が見え隠れしてる。

それが何であるのか初めは分からなかったが、しかしその一本の端から多量の水が流れ出ているのが見え、これが水を運ぶ配管であること分かり――驚愕を覚えたというのに、さらにその水の先には畑と思わしき場所あり、そこには農作物の芽が見えていた。

此処は穢れた場所であるが故に、農作物は決して出来ないと言われていたはずなのにだ。


 彼らの理解を色々超えているが為に、もはや自分たちの知らぬ場所に来てしまったのではないだろうか。

そんなことを呆然と考えていたが、気が付けば彼らはグランに連れられて一つの建物の中に辿り着いたのだった。

そして、人間達はグランに言われるがままに奥の部屋の前で待たされて。再度出てきたグランの言葉に従ってその部屋に入った先で――。


「ようこそ諸君。我がエルフィール王国において白狼帝と呼ばれるルナフィリア・シルエストである。我は心より諸君らを歓迎しよう。よくぞ我が国に参られた」


 聖堂の絵画から抜け出てきたかのような美しさを持ちながら、王としての覇気の両方を併せ持つ白狼帝ルナフィリアと邂逅したのだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ