表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第二章 『建国編』
15/27

第十五話 「精霊との邂逅Ⅲ」

「ならば心して受けてみなさい。妾が造る幻想世界を」


 そう告げて、精霊は詠いだす。

その身に宿す計り知れぬほどの銀水晶の力に形を与える為に。


「Tu si vis spectare benedictione tudinem commodo tick in oculo《汝、幻想の祝福賜りたくば、その眼に刻みなさい》Born shi est stellas phantasia here《此処に生まれしこそが幻想の星々となりましょう》」


 ただ言葉を紡ぐだけあるが、その時点で其処には圧倒的な力が溢れ出る。

人々が銀水晶を操る為に紡ぐ言葉は、精霊の言葉を模したものであると言われている。

故にその精霊が紡ぐこの言葉こそが――原初の言葉。

ならばそこに宿る力を計ることなど一体誰に出来ようか。

そして、遂に精霊は最後の一節を紡ぎだす。


「caelesti sphaera ve astrum《天球の星々》」


 世界が精霊の幻想に覆われる。

精霊が詩を紡いだその瞬間に――湖を覆うように水の星が浮かび上がる。

その一つ一つに極限まで銀水晶を内包させた水球が太陽の光を浴びて、まさに星のように輝く。

ただ一つの水球ですら人間であれば己の限界まで銀水晶を操ってなお作り出せないほどのそれが、精霊が生み出したその数は一つに非ず。十でも数えきれず。百を超えてなお余りある数が世界を覆う。

その水球の一つにでも触れれば、人間など一瞬の後に内包された銀水晶に呑まれ文字通りに肉体ごと消滅するだろう。


 それだけの力を含む水球が、数え切れぬ星となってルナフィリアを覆う。

それはまさに天球の如く。圧巻の光景である。


 なるほど――とルナフィリアは思う。

流石は精霊である。魔獣などとはまさに格が違う。

伝説に謡われたその力にまさに相違なし。

神とすら呼ばれてもなお不足なしのその姿。


 そのような相手に挑まねばならないとは――――。


「――それでこそ心が躍るというものよ」


 ――その口にあるのはまさに極上の笑みであった。

精霊の領域においてなお、その立ち振る舞いは威風堂々。

そこから溢れる覇気には僅かな陰りもなし。

矮小なその身で悠久の時を生きる精霊に挑む。

なればこそ心が躍るのよ。

不可能に挑む――否、それは王道を歩む上で超えねばならぬ障壁の一つに過ぎぬが故に。


 王と名乗る。白狼帝と名乗る己だからこそ――精霊(その程度)の障壁などその悉くを凌駕しよう。


 故に――ルナは詠う。

この絶望的な状況を打破する為に必要な銀水晶を纏いながら。


「Tu enim fit pectore《其は汝が為の道標であり》,Rituali igneae arcessit illa《誘うは焦熱への儀式なり》」


 故にルナフィリアも詠う。ルナフィリアが紡ぐその言葉一つ一つに宿るその力、決してそれは精霊に劣るものに非ず。

ルナの鈴の鳴るような声が世界に響く。天球に覆われたその世界を覆い返す為に。


「Flamma petere concubitumque Emperor《求めるは炎帝の抱擁》,Ducens ad facere hic nuntius purgatorii《此処に至るは煉獄の使者と為す》」


 言葉とはそれすなわち世界に対する幻想の発露である。

自身の内にしかあり得ぬそれを、この世界に紡ぎだす。

そうすることで、より明確な形を持って銀水晶――すなわち幻想がこの世界に意思と形をもって現れる。

形なき銀水晶に形を与える為に。内にある幻想をこの世界の現実へと顕現させる為に。


 故に――ルナフィリアはこの世界へと幻想を造り出す言葉を紡ぎだす。


「Flamma Emperor《煉獄の炎帝》」


 その瞬間に――灼熱の炎が世界を焦がす。

それは、僅かな慈悲すらも無い、天上の業火。


 此処に世界に新たな幻想が書き加えらる。

精霊が造り出した水の天球に、炎の皇帝が挑み掛かる。

天球はまさに湖一杯を覆っていた。幾多の水球が精霊を中心に生まれていたが故に、それは天まで届かんほどであった。


 なれども――炎の皇帝が生まれ落ちたまさに数秒。

その一瞬をもってルナフィリアが生み出した炎帝は天すらも焦がす。

湖を覆う天球のその悉くを――焦がし尽くす。


 全てが消えるまでに、十秒も掛からなかっただろう。

まさに一瞬の錯綜。

後には――何一つ残らない蒼穹の空と湖のきが残るのみ。

大山一つすらも容易く飲み干せる水の天球。

それ悉くをまさに焦がしつくた灼熱の業火。

そこには、本来上がるはずの蒸気すらも無い。ただ全てを焦がしつくした後にまさに幻想となって消え去ったのだ。


 後には、ただ始まりと同様に紺碧の精霊と純白のルナが互いに対峙するのみであった。


「――うふ。あはあはははあははははは――!! 貴方はまさにシルエスト! まさか数え切れぬほどの悠久を超えてその力にまみえるなんて思いもしなかったわ。面白い。本当に面白いわ。神々が消え去り、そこから零れ出た力に縋る矮小な人々の営みばかりで何一つ楽しみの無い暮らしに飽き飽きしていたというのに。まさか今更になってこの妾に匹敵する存在に。シルエストに。こんな――面白いことに出会えるなんて――本当に楽しいわ。ねぇ――シルエスト。貴方は私に何を見せて貰えるのかしら?」


 楽しそうに。本当に楽しそうに精霊は笑い出す。

そこには、自分が造り出した水球を悉く焦がし消された事に対する不快感など僅かにも無く。

さらに初めてルナと出会った時の超然とした雰囲気すらも無く、ただ新たな玩具を与えられた少女のように目を輝かせた精霊が居るのみである。


「楽しんで貰えたようで何より。ならば余興を終えて互いに話し合いと行こうか――と言いたいところだが。精霊よ。其方――未だ満足はしらおらぬな?」

「……えぇ。そう。そうよ。貴方がシルエストであることはもはや疑いようもないわ。でも――いえ、だからこそ。もう少し妾と遊びなさい。貴方が何を見せてくれるのか、妾は楽しくて仕方ないのだから」


 もはや隠し切れぬほどにルナフィリアに対して関心を見せる精霊に、ルナフィリアは口元に三日月の笑みを浮かべて応える。


「あぁ。構わぬ。構わんさ。そもそも――我とて此処で終わらすつもりもないのだからな。故に精霊よ――。次はこちらより一つ条件を出そう」

「何かしら?」

「次の交錯でこの我が汝を凌駕したならば――我の配下となれ。ならば汝が望む世界をもこの我が造ろうではないか。悠久の倦怠すらも晴れる明日を――見たくはないか?」


 その言葉に精霊は僅かにポカンと口を開けて見たかと思えば、今度こそ楽しそうに笑い出す。


「あははは。配下。配下ですって? これでも妾は精霊よ。神々が居た時代から生き抜く妾を配下にしようなんて。今まで来たどれほど傲慢な人間ですら、配下になれなんていう奴は居なかったわよ。それでも妾を配下にしようと言うのかしら?」

「応ともさ。他所のことなど知らぬよ。我が汝を欲しいと思った。故に汝を求める。それの何が可笑しい? それを傲慢と言うのならば、意思ある者全てが傲慢というのよ。ならば我はその傲慢さを内包して、なお我が道を進むのよ。故に――告げる。精霊よ。我の配下となれ」

「……あは。良いわ。良いわよ。ならば約束して上げる。私の全てをもって紡ぎだす水の幻想を耐えたのならば、貴方の配下となってあげる。ならば――覚悟なさい」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ