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白狼帝 ~異世界建国物語~  作者: ジャオーン
第二章 『建国編』
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第十二話 「水源の確保」

「水源……ですか?」

「然り。この森にあるであろう? この国における全ての水をも賄えるほどの大きな湖が」


場所はエルフィール王国の中心から僅かに北にそれた一つの建物。

他のそれよりも立派は外観をしているそこは、嘗てはグランらが詰めていた宿舎。

現在においてはルナフィリアが仮の執務室として利用している。

そして、そこに居るのは白色の少女ルナフィリアと獅子の男グラン。そして黒豹のカールであった。


彼らが話し合っているのは水源。現在において、この国の水源は掘りぬいた井戸から細々と水を得ているのみである。

それは日々の飲み水と僅かな生活水として使われるのみであり、当然のことながら上下水道の整備など行われていない。


 それどころか農作に回せる分すらも確保できずに居た。

まあ農作においては、瘴気の濃度が高くその汚染は地中にまで及んでいた為にここ数年はまともに農作など行われていなかったという事情もあるけれど。

しかし、今後はあらゆる場面において水を活用する必要性があるとルナフィリアは考えるが故に水源の確保をしようと手を伸ばすつもりでグランに問いかけているのだけれど――そのグランの表情は普段と変わらず泰然とするルナフィリアに比べてかなり固い。


「確かに……あります。湖は此処から南方に数キロも離れていないところにあります。ありますが――」


 固い表情のグランに変わりカールがルナフィリアの問いに答える。

けれど、それも途中で言いよどむ。

水の確保は嘗てのグラン達にとっても死活問題であった。

井戸を掘るのみでなく、出来るならば湖から直接水を引っ張ってきたかった。


 しかし、結局それは叶わなかった。

理由の一つには道中にも魔獣が出る場所が幾つかあったというものがある。

魔獣は巣と呼ばれるある種が固まって居る場所があり、またそれとは別にはかなりの距離を徘徊する魔獣も居る。

そして、湖までの場所には道中に巣と呼ばれる場所と別の魔獣の徘徊ルートの両方があった為に水を引っ張るどころか、そもそも湖に到達することすら困難な状況であったのだ。


 それに加わて、グラン達が湖に近づかなかった理由はさらにある。

いや――正確に言うならば、魔獣との遭遇よりも遥かにこちらの理由の方が大きかった。

例え道中に一体の魔獣も居なかったとしても彼らはその湖には寄りつかなかっただろう。

なぜならその湖には――。


「精霊湖……か」

「――はい。あの湖は精霊湖と呼ばれとおりまして、そこには水の精霊がおわれます故に我らも手を出すことができなかったのです」


 ルナフィリアの呟きにカールが答える。

そう精霊。それが彼らがその湖に近づかなかった最大の理由である。


 精霊――それは魔獣と同様に銀水晶より生まれし存在である。

しかし、そこには大きな違いも確かにある。魔獣とはその始まりは元々の動物としての生があり、それが何某らの理由により淀み、穢れ、変遷していった結果としての成れの果てである。

故に魔道の獣――魔道とは外法としての意味あいで付けられ文字通りに元来の道より外れた末路として使われている。

それが魔獣であり魔物である。


 それに対して精霊とは、そこには元来としての肉体などはありはしない。

その根底にあるは純粋無欠な銀水晶である。この世界には銀水晶が集まりやすい場所というものがある。

そしてそこは銀水晶としての力に溢れていいるのだけれど、その溢れた力が長い長い年月をかけ形となったものこそが精霊である。

もちろんそれは簡単な話では無い。

それこそ、それは元来この世界に溢れる銀水晶の役数倍から数十倍ほどの濃度が集まり、そしてそれが千年すらも凌駕する時間を超えて積み重なった結果である。

故にこの世界において精霊と呼ばれる存在は有史以来では、僅か三体までしか確認されていない。


 しかし、その力はまさに強大絶後である。人や魔獣すらをも歯牙にもかけぬほどの力がそこには宿っている。

なぜなら彼らは銀水晶から生み出されたこの世界で最も純粋な存在であるから。世界に漂う銀水晶と体内に宿す僅かな銀水晶を幾多もの言葉を紡ぎ、形とする人間や所詮は銀水晶が汚染された結果でしかない魔獣など彼ら精霊とは比べることすらも烏滸がましいほどの差がある。


 それはまさに格の違いであるかのように。故に精霊を神として讃える人間もこの世界には多く居る。

そして、その三体の精霊の一体。その根源を火と定める精霊イグニスはセルトロン神聖王国精霊堂にまつわれているという。

この数十年ほどはその姿を見た者は居ないとのことだが、しかし確かにこの世界では精霊は神に等しい存在とみなされている。


 そしてこの魔の森フェニクルにも精霊は居る。

その存在自体は遥か昔に――確認できるだけでも千年以上前には既にその姿が見られている。

故に幾度として、多くの国の多くの人間達がその精霊を自国へと迎え入れようとその場所へ訪れようとしているが、その姿を見れた者は極僅かであったと言われ、またその存在とまともに会話することが出来た人間は一人として居なかった。

中には無理矢理にでも、その精霊を手に入れようとしたとある王国の王が多くの銀詠師を率いて、湖に向かったらしい。


 けれども、結果としてその者達は誰一人として生きて帰ってくることはなかった。

さらに、話はそれだけに終わらず精霊の逆鱗に触れたが故にその銀詠師達だけに留まらずその王国すらも大水害を起こし滅ぼしさったと言われている。

実際に今より三百年以上昔に魔の森に隣接する一つの小国が自然災害を理由に滅んでいるのである。

それが精霊の仕業であるかどうか、はっきりとした資料は残っていないけれど、しかし人々の間では精霊の怒りに触れたが故の天罰であると噂が流れた。


 そして、月日は流れ現在は魔の森に水の精霊が居るというその事実のみが残っているだけとなった。

故にもはやその存在に手を出そうとする者は誰一人として居なかった。

そして、それは此処に住まう者たちも同様。

どれほど水源を欲して居ようと、それでも決して精霊が住まう湖に手を出そうとはしなかった。


 それは精霊に対する恐れか、畏敬か、あるいは畏怖か。そこに込められた感情は決して一つではないが、それでも精霊の逆鱗に触れることを怖がったのは確かであった。


 けれど――。そんな事実など既に十全に理解した上でなお、普段と変わらぬその愛らしい顔に不敵な笑みを浮かべたルナフィリアは口を開く。

片膝で座るという少女がするには少々行儀が悪い姿も、けれどその場にいる誰よりも様になり覇気に溢れる白狼帝はそのような恐れなど微塵も見せずに彼女の配下へと自らの考えを述べる。


「精霊に手を出せば国が滅ぶ――か。ハッ!! そのような事などこのおれが認めるか。どのみちこの国がこれより発展を続ければ必ずあの湖に手が届く。既にあの場所は我の結界の内なのだからな。精霊のご機嫌を伺いながら国の発展など出来るものか」


 覇気が世界へと溢れる。

きらびやかな白色の髪が風も無く靡く。

聖堂に飾られる女神の彫刻のように完成された美しい素顔。

そして――その純白の姿に唯一交ざる紅い瞳。

白狼帝ルナフィリア・シルエストが世界へと向けて吼える。


「このおれの道を阻むというのなら誰であろうとも許さぬ! 例えそれが千年を生きる精霊であろうとも凌駕しよう――踏破しよう!! ならばグラン! カール! これより精霊湖へと向かう。その先にあるのが話し合いで済むか、あるいは戦闘になるかは知らぬ。だが――なお命じよう。我と共に来い!」


 その言葉に、それまで伝説とも言われる精霊が居る湖に対して賛成の意を見せてこなかった二人が――それでもそこに僅かな迷いも見せずに深々と礼をしてルナフィリアの言葉を受ける。

精霊――。確かに畏怖する存在だろう。魔獣ですら手一杯の獣人族である彼らに精霊に手を出した末路など考えるまでもないのだから。


 だが――けれどももはやそこに怯えの表情など僅かにも無かった。

なぜなら、彼らが王が向かうと言うのだから。

ならば、その近衛騎士隊たる自分たちはどどこまでも共に駆け抜けるのみなのだから。

彼らの命などとうに王へと捧げている。ならば――彼らが答えるべき言葉などたった一つである。


「「――は! 我らは何処までもルナ様と共に!!」

「よし! ならば準備に掛かれ。連れていくもは近衛騎士隊よりグラン。カール。ルベア。ダニエの四名である。これより四半刻後に向かうぞ!」


こうして――彼らが水の精霊が住まうという精霊湖へと向かう事が決まったのである。


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