Act01:深紅との出会い
魔法使い同士の喧嘩をラグトゥダが間一髪のところで止めた日から二日後のお昼、ファイが一人で街の見回りをしていると、
「うわぁああああああああああ! どこいったんだよぉぉおおおおおおおおおっ!」
街のど真ん中で赤毛の──というか赤色の髪の女の子が大絶叫していた。というよりも、いったい何事!?
とはいえ、困っているのは間違いないようで、ファイはその女の子の方に向かった。
「あ、あのぉ、どうかなさったんですか?」
「ふぇっ?」
ファイの方を振り返った女の子は、涙のせいで髪の色と同じくらい目を真っ赤に腫らせていた。
うわぁぁ、目の周りが大変なことになってる……。
「その、困ってる、みたいだった……から」
「そうなんだ! ボク、今すごく困ってるんだよ!」
女の子はファイの服を掴むと、力いっぱい自分の方へと引き寄せた。
はうぅぅ、すごい力。自分と身長もそんなに変わらないのに。あまりの強さに、ファイはこけそうになってしまった。それだけは、なんとかこらえたんだけど。
「せっかくコルサーンの森に行って採ってきた薬草を売ったのに、売ったお金の入ったサイフをどこかに落としちゃったんだよ!」
………………あぁ、なるほど。それは確かに大変だ。
実はファイも、ラグトゥダにお使いを頼まれて、おサイフを落としちゃったことが。
あの時はこの女の子みたいに、涙目になって目の周りを真っ赤にしながら、おサイフ探したっけ。でも実際は、そもそも持ってくるのを忘れてただけなんだけど。
……うん、考えるのはやめて、早くおサイフ探し、手伝ってあげよう。思い出すだけで、なんだか悲しくなってきた。
「その、もしよかったらだけど、一緒に探してあげようか?」
「ホントにっ!?」
素っ頓狂な声を上げて、女の子はファイの目をのぞき込んできた。
その目はまるで捨てられた子犬みたいで、とても直視なんてしていられない。なんだか、自分が悪いことでもしちゃったような気持ちになっちゃう。
「ほ、本当だから。ね?」
ファイはそらしたくなる目を必死にこらえて、できる限りの笑顔を作って答えた。
笑顔で相手の目を見るのは誰かとお話しをする時の基本だけど、もう顔の筋肉が釣りそうです。
これはアレでしょうか、普段から暗い顔ばっかりしているからなのでしょうか。とにかくもう痙攣起こしそうだから、そんなつぶらな目で見ないでぇぇ……!!
「ありがとうっ! 頑張って一緒に探そう! えぇっとぉ…………」
「リファイド、です。親しい人からは、ファイって、呼ばれてます」
「わかったよ、ファイ! ボクはね、ルビィっていうんだ。よろしく、ファイ!」
「う、うん。よろしく、ルビィ……ちゃん」
捨てられた子犬みたいだった目は一転して、今度は拾われた子犬みたいな目に。
さっきまでよりは楽になったけど、そんな期待に満ち溢れた目で見られても困ってしまう。おサイフだって、絶対に見つかる保証なんてないのに。
それになんだか、シディアちゃんの尊敬の眼差しみたいで見られてるみたいで、無性にいたたまれない気持ちになってきた。
わたしって、別になんにもすごいところなんてないんだから。
「じゃあ早く、おサイフ捜しを始めよう。ファイ、手を出して」
「あ、あのぉ……どうして、手を……」
「いいから! 早くしないと、おサイフを探す時間がなくなっちゃう!」
「は、はいっ!」
ルビィに言われるがまま、ファイは右手をルビィに向かって突き出す。
するとルビィは、そのファイの手の上に自分の手を乗せて、こう続けた。
「ボクが、我らは最強のトレジャーハンター。発掘できないものなんて、この世界にはどこにもないって言うから、ファイはその後に、いざ出発、おサイフ捜索隊! ね」
「えぇっとぉぉぉ……。それって、どんな意味が……」
「かけ声に決まってるじゃん! さぁ、いくよ!」
「ちょっと待って、わたし全然わからなくて……」
「我らは最強のトレジャー。発掘できないものなんて、この世界にはどこにもない。いざ、出発!」
「…………ぅ、うぅぅ」
わけがわからずに置いてけぼりをくらっているファイをよそに、ルビィはノリノリだ。
そして自分のパートを言い終えて、早くしてよと目で催促してくる。
もぉぉ、どうなっても知らないもん!
「れ、れっつご~、うぉれっと、さ~ちゃ~……!!」
ファイは白い肌を真っ赤にさせながら、もうどうにでもなれとお腹の底から力いっぱい叫ぶ。どこか遠くの方から、街の人がクスクスと笑うような声が聞こえた気がした。
おサイフ捜索隊の結成式も無事とり行われたところで、ルビィとファイは歩きながら捜索方針について話し合っていた。
ちなみになぜ歩きながらなのかといえば、さっきの場所に居続けるのにファイには耐えられなかったからである。もうやだ、あんな恥ずかしい台詞。
「それで、売上を、おサイフにしまったんだから、それまでは、おサイフはあったんだよね?」
「うん。でも、おサイフって言っても、こんな袋なんだけどね」
と、ルビィは手のひらで何かを包み込むようなジェスチャーをする。
落としたのは、手のひらサイズの袋みたい。
「それじゃあ、もう一回、来た道を戻ってみよ?」
「うん、そうだね。犯人は現場に戻るっていうもんね!」
「えっと、探すのっておサイフ、だよね? 何かの犯人とかじゃなくて……」
「薬草を売ってたのは、あっちの広場だよ。早く行こう、ファイ」
「……う、うん」
大丈夫。話を聞いてもらえないなんてことくらい、魔法学校時代から何度もあったではないか。
面倒な用事を無理やり押しつけられたわけでもないのだから、ここは笑って合わせてあげるのが大人のスマートな対応というものだろう。
もっとも、
「そういえば、ファイって職業は何やってるの?」
「ふぇっ!? え、えぇっとぉ……」
「ちなみに、ボクは立派な薬師を目指してるんだ。まだまだ見習い中なんだけどね」
「そうなんだ。えっとね、わたしの職業は……」
「でもまだボクって見習いだから、薬を調合しても全っっっっ然、売れないからさ。コルサーンの森で採ってきた薬草なんかを、調合せずに売ってるんだ~」
ルビィからは全然大人なお姉さんには思われていないようである。
てか、話を聞いてもらう以前に話させてすらもらえない。やっぱり、話しかけない方がよかったんじゃ……。
おサイフ捜索を始めてからわずか一分足らず、ファイはルビィに関わったことを後悔し始めていた。
それでも真面目な性格のファイである、職務放棄なんて言語道断。真剣におサイフを探す。くじけちゃダメだ、ちゃんと話を聞いてもらえないくらいで、シクシク。
それでも涙がでるのだけはなんとかこらえて、道の隅から隅まで目を光らせる。
でもどうしよう。もしかしたら、もう誰かに拾われているかもしれない。良い人だったらちゃんと届けてくれるだろうけど、盗まれちゃってる可能性もあるわけで。
お薬の材料になる薬草なら、それなりの金額にもなるだろうし……。
うん、早く見つけなきゃ。
「そういえば、ファイに聞きたいことがあるんだけどさぁ」
「あ、うん。なに?」
「ファイもやっぱり、彩髪は魔法使いになるべきだと思う? 薬師を目指すのって、そんなに変なことなのかなぁ?」
「そっ、それは……」
いきなりルビィから投げかけられた問いかけに、ファイは面食らった。
そういえば、さっきもそんなことを言っていたっけ。自分は見習いの薬師なんだ、って。
「ねぇ? どう思う?」
おサイフそっちのけで、ルビィはファイの目をじっと見つめる。
とても真剣な目だ。間違っても、ふざけていたり、適当な気持ちなんかじゃない。
「わ、わたし……は……」
だからファイも、真剣に答えようと思った。
だがその瞬間、ファイはあることに気付いてしまったのである。
「……わたしは、その、えっとぉぉ……」
自分の中に、ルビィの欲しているような答えがない、ということに。
「……あぅぅ。ごめん、なさい。わたしには、よくわからない、な。そういうの」
シュネーヴァイス家は、雷光魔法の名門一族。ファイも物心が付く頃には、自分は魔法使いになるのが当然なのだと思うようになっていた。
家名の誇り、一族の期待、そして持って生まれた髪の色と強力な魔力。魔法使いとなるべき環境や素養だけでいえば、ファイは間違いなく魔法使いに向いているだろう。
しかし、そこには自分の意志が本当に含まれているのだろうか。
もし含まれているとすれば、自分はなぜ魔法使いになりたいと思うようになったのか。
それがわからなければ、ルビィの問いかけに答えることはできない。
「う~ん、そっかぁ……」
「なんか、ごめんなさい」
ファイの答えを聞いたルビィは、少し残念そう。変なこときいちゃったねと、苦笑いを浮かべる。
相手の期待に応えられなくて、ファイも少しがっかり。もっと自分がしっかりしていたら、ルビィの欲しかった答えをあげられたかもしれないのに。そう、ファイのお兄さまのような、しっかりした人間だったら。
「あ、いいよ、気にしなくって。むしろ、ボクとしては嬉しいくらいだし」
「そ、そうなの?」
しかしそれでも、ルビィはファイの答えをそれなりに気に入ってくれたようだ。
残念そうな顔はしていても、暗かったり空元気だったりはしていない。それどころか、少し照れ笑いまで浮かべている。
「だってさぁ、他の人に同じこと聞いたら、みんな『薬師なんかよりも、魔法使いになるべきだ』なんて言うんだよ? でも、ファイはボクが立派な薬師になりたいっていうの、否定しなかったし。だからさ、けっこう嬉しいんだ」
才能のある彩髪は、魔法使いになるべきである。
それがこの世界の常識だし、現に才能のある彩髪達はその大半が魔法使いを目指して日々努力している。
ならば、才能のある彩髪は絶対に魔法使いにならなければならないのだろうか? 答えは否だ。そんな義務は、どこにも存在しない。
彩髪の中にだって、魔法使い以外の生き甲斐を持っている人達はいる。また彩髪だからといって、必ずしも強力な魔法が使えるわけでもない。
実際、魔法ギルドで働いているケセラスも元は名高い魔法使いだったが、今では別のやりたいことを見つけたらしく一線から退いている。
「そういえば、彩髪で薬師になりたいって言ってた人、ルビィちゃんが初めてかも」
もっとも、彩髪だからといって魔法使いになる必要はないが、もったいないのもまた事実の一面ではあるのだ。
「うん。そうだろうね。そういえば、さっきききそびれちゃったんだけど、ファイの職業って何なの?」
「あ、うん。えっとねぇ」
ようやく元の話に戻ってこられた。
女王直轄護衛騎士団とか言ったら、やっぱり驚かれるだろうか。いやいや、ちょっと前までは側近騎士団だったと言った方が面白いかも。
「わたしの職業は……」
ルビィがどんな反応をするのか、ちょっとうきうきしながら続きを言おうとしたファイの肩に、どこからか飛んできたカナブンがちょこんと乗っかった。
「ぎゃぁぁあああああああ!! カナブンだぁああああああああ!!」
その瞬間、ルビィは半泣きしながら一目散に走っていってしまった。
────────────────ファイのことを置き去りにして。
「ちょ、ちょっと、ルビィちゃん!?」
「わわわわわぁっ!! 来るな! 来ないでぇ! そい以上近付いたら情熱的応援撃つから!」
「な、なんでぇ!? どうしてぇっ!!」
ちなみに、以前橋を壊してしまったのが実はルビィなのだが、それはファイの預かり知らぬことである。
ファイの肩からカナブンが去ったことで、ようやくルビィは逃げるのを止めてくれた。
と、言うよりも……
「はぁぁ、はぁぁ、やっと、追いついたぁ……」
「ぜぇぇ、ぜぇぇ、カナブン、もういない、よねぇ?」
双方共に体力の限界なのであった。
特にルビィなんて、真っ赤を通り越して顔が真っ白になっている。取り乱し過ぎて、酸欠になってしまったのだろうか、大丈夫なのかこれ。
「カ、カナブン?」
「ボ、ボク、カナブンが、だいっきらい、なんだ」
「ど、どうして? 別に、カナブン、何もしないよ?」
「そんなことないよ!」
余裕の全くないルビィは、息を切らせながら目をキリッと吊り上げてファイに力説する。
右手に固い拳を作り、目にはめらめらと炎を浮かべ。こ、これは怖い。ちょっと引いちゃうレベルで。
「人類の敵…………まではいかないけど、どうしてあんなものがこの世界にいるんだよ、もぉっ!!」
「ほ、ほんとに、カナブンが苦手なんだね……」
「うん。無理。絶対に無理」
うげぇと、ルビィはようやく苦手なカナブンから解放されて、大きくため息をついた。
そんなになるまで苦手なのか、カナブンが。とはいえ、これでようやくおサイフ探しが再開できる。
えぇっとぉぉ、まずここはどこなんだろう。ファイとルビィは周囲を見回して、自分達の現在地を確認する。
「あ、ここだよ。ボクが薬草売ってたの」
「あ、そうなんだ」
ルビィがカナブンを装備したファイから逃げ回っている間に、目的の広場まで到着していたらしい。
真ん中にある噴水の周りには、ルビィと同じように色々な物を売っている人達がいる。
売ってる人はまばらだけど、けっこう繁盛しているみたい。駐街騎士団の人達も二、三人いるみたいだし、警備に関してはバッチリだ。これならお、店の物や売り上げを盗んだりするような不届きな人もいないよね。
「それで、ルビィちゃん。薬草はどの辺りで売ってたの?」
「えっとねぇぇ……。あそこだよ!」
ルビィが指を差したのは、噴水のすぐそばのスペースである。
ちょうどよく、ルビィと入れ替わりでお店を開いている人はいない。二人はさっそくその場に向かった。
「ルビィちゃん、本当にここなんだよね?」
「うん。おっかしいなぁ……。やっぱり途中で落としちゃったのかなぁ……」
のだが、ルビィが薬草を売っていた場所は綺麗にタイルが貼られているだけで、おサイフの姿は影も形もない。
「それじゃ、ここからさっきの場所まで、ルビィちゃんの通った道をもう一回探してみよっか」
「そうだね。えっとぉ、さっきの道はぁぁぁ、こっちだよ」
すると、そんな時だった。
「あぁ、やっと見つけた。愛しき僕の娘よ」
線の細い茶髪の──濁髪の男の人が、二人のすぐ後ろに立っていた。
最近普及し始めた、視力を矯正する“メガネ”をしている。
「うわっ、マサチチ。まだいたの?」
「お父さん、心配で心配で。ついつい付いて来ちゃったんだ」
名前、マサチチさんって言うのかな? しかも、お父さんって。もしかして、マサチチさんってルビィちゃんのお父さんなのだろうか?
でも、だとしたら髪の色が全然違う。ルビィちゃんは綺麗な赤なのに、マサチチさんは真っ黒だし。
「知ってるよ! ボクが薬草売ってるのずっと見てたの知ってるよ!」
「そんなっ!? バレないように隠れてたはずなのに……」
「だからって、なんで噴水の中なんだよ! マサチチってバカなの!」
噴水の中!? いくらなんでも寒すぎるよ! 風邪引いちゃうよ! マサチチさんって、やっぱりどこかおかしいの!?
てか、いったいどれだけの間噴水に隠れてたんだろう。
「こらルビィ! 女の子がそんな汚い言葉を使ってはいけません! お父さんはそんな娘に育てた覚えはありません!」
「ボクだって、育てられた覚えなんてないよ! てか、マサチチはボクのお父さんじゃないし!」
って、全然親子じゃなかった!? まさかの新事実発覚! いやその、髪の色的に違うとは思ってたけど……。
いや、それはそうと……
「あ、あのぉ、ルビィちゃん……」
ファイはルビィの肩をちょんちょって、
「あの人って、誰なの?」
突然現れた男の人を指差しす。悪い人ではなさそうな感じだけど。
すると茶髪の男性は、ネガネのブリッジを中指でくいっと持ち上げつつ、ファイに向き直った。
「初めまして、可愛いお嬢さん。僕はマサムネ・オカザキ。ルビィちゃんのお父さんだ」
「だから、違うって言ってるじゃないかっ!」
あぁ、名前はマサムネって言うんだ。やっぱりマサチチは名前じゃなかったみたい。どおりで、変な名前だと。
あれ、だったらマサチチって、いったいどこから出てきたんだろう?
「それでお嬢さん、あなたのお名前は?」
「あっ、はっ、はい!」
名前を聞かれて、ファイの体は反射的に動いた。
さすが、女王直轄護衛竜騎士団所属、礼儀作法は体にきっちり叩き込まれている。背筋はピンと伸ばし、指先は体側に沿って真っ直ぐ、つま先もきっちり六〇度の角度に開かれている。
「リッ、リファイドです。親しい人からは、ファイって、呼ばれてます」
「そうかそうか。ファイちゃんっていうのか。よろしくねぇ」
「は、はい。よろしく、お願いします」
ファイは伸ばされた手をかっちりつかんで、固い握手。うわ、けっこうゴツゴツした手をしてる。
華奢な見た目とは正反対で、少しびっくりだ。
「今日から君も、僕の可愛い娘だ」
「い、いえ、それは謹んで遠慮させていただきます」
当面の方針として、ファイはマサムネとはしばらく関わらないことにした。
隣のルビィの必死な様子だけでも、どれだけ大変かわかる。というよりも、なぜいきなり娘にしようとしてるんでしょうか、この人は。今すぐにでも、近くの駐街騎士に通報した方がいいかも。
「そ! れ! で! マサチチはなんでこんな所にいるのさ?」
「あぁ、そうそう。ルビィちゃん、これ忘れて行ったろう」
するとマサムネは、ズボンのポケットから小さな袋を取り出しって、それっ!!
「いくら呼び止めても、ルビィちゃんどっか行っちゃうし。仕方ないから、ずっとこの近くを探してたんだよ」
マサムネが取り出したのは、たぶんどう見てもきっと、ルビィのおサイフだ。
「そ、それぇ!」
あ、やっぱりそうみたい。
「マサチチが犯人だったのか! 盗っ人! 泥棒! 強盗!」
これでおサイフも見つかって一安心。よかったよかった、悪い人に盗まれていなくて。
ほっとしたら、なんだかぽかぽか温かくなって、温かく?
「これは、ボクのおサイフを盗んだ罰なんだからね!」
なんかいつの間にか、ルビィの両手には橙色の球体が光り輝いていて、
「いっけぇぇええええっ!! 情熱的応援ッ!」
その球体から超高密度に圧縮された炎が、線になってマサムネへと迸った。
って、
「えぇぇええええええ!?」
普段は大声を出さないファイも、あまりの衝撃に思わず叫んでしまっていた。
だだだ、だって、あんな危険で物騒な魔法を、こんな人の多い場所で撃つなんて。
「あ、そういえば、あの魔法……」
ちょっと前に、登録申請のあった魔法であんなのがあった気がする。
こう、炎をぐわぁっと凝縮させた球から、ものすごい高温の光線みたいな火を出すやつで。ちょうど今、ルビィの使ってる魔法とそっくり、というよりも全く同じなんじゃ……。
「そ、それよりも、早くルビィちゃんをどうにかしないと」
ファイは現在進行形で広場をしっちゃかめっちゃかにしている(それもマサムネを狙った流れ炎)ルビィを止めるべく、走り出した。