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美容師ウサヒコと朽髪の竜騎士  作者: 蒼崎 れい
Episode4:「アンティーク」
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Act06:遠い日の約束

 あれは、どれくらい前の出来事だっただろうか。

 お父様に連れられて、わたしはお城にある人に会わされた。

『しかしのう、妾の魔法では民の役には立てぬでのう。それが辛いのじゃ』

 そうだ。あの人も、なかなか人の役に立てない事を嘆いておられた。

 だから、私は言ってあげたんだ。

『だったら、わたしが、──様の魔法になります』

 あの人の悲しむ顔を止めたくて。

『わたしが、──様の魔法となって、民の役に立ちます。モンスターから民を守る盾となります。だから……』

 あの人の喜ぶ顔を見たくて。

『そのようなお顔を、なさらないでください』

 わたしは、あの人に、わたしの魔法を捧げたんだ。

『そうじゃな。確かに、ぬしの雷光魔法は変わっておるが、民を守る盾には最適じゃ』

 あの人の剣となって、モンスターと戦うために。

『あの、魔法の事は、あまり仰らないでいただけると……。ありがたいのですが』

 あの人の盾となって、この国の人達を守るために。

『あぁ、そういえば……。家臣の一人が言っておったな。シュネーヴァイス家に、汚れた雷光魔法を使う者がおると』

 なぜならあの人は、

『ふん。言わせておけばよい。妾は好きだぞ。ぬしの魔法は、面白い故な』

 この世で初めて、わたしの魔法を認めてくれた人なんだから。

『妾の騎士となって、早く来ておくれよ。待っておるからな』

『はい、すぐに参ります……。姫様』




 何のために、自分は騎士となる道を選んだ?

 何のために、自分は魔法使いとなる事を選んだ?

 あの日、ウサピィに問われた答えを、ファイはようやく思い出した。

 シュネーヴァイス家の面汚しとまで言われた、(いびつ)な雷光魔法。

 それを初めて肯定してくれた、リファイド・シュネーヴァイスの全てを受け入れてくれた、その人のために自分は頑張っていたのではないか。

 その人の剣となり、盾となり、魔法となり、その人の守りたい全てを守りぬける存在でありたいと。

「シディアちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな」

「はい、なんでしょうか?」

 もはや動くのも辛そうなシディアに向かって、ファイは静かに語りかけた。

「ちょっと前に登録申請した魔法って、覚えてる?」

「はい。えっと、みんなが大好きになる魔法、ですよね?」

「そう。私が登録申請を受け取ったやつ」

 ついさっきまでの怒っていたファイも、(しるべ)を見失い思い悩んでいたファイも、そこにはいない。

「それを、私にかけてくれないかな?」

 そこにいたのは、心優しき魔法使いの姿。

「それとも、もう無理?」

 そこにいたのは、誇り高き側近騎士の姿。

「だ、大丈夫です。できます!」

 シディアは最後の力を振り絞り、魔力を練り上げた。

「──我が心に眠る類まれなる希望の星光」

 頭上に、まるで天使の輪のような詠唱サークルが浮かび上がる。

 魔法学校の卒業と同時に女王陛下より授かる、魔法使いの証。

 より高みを目指す魔法使いの手助けとなってくれる、天使の輪。

「胸がどきどき、頭はぽっぽー。あらまあ、どうしましょう。……そう、愛は世界を救います」

 シディアの髪の色と同じ詠唱サークルは、練られた魔力を磨き上げ、研ぎ澄ませてゆく。

「色んな人を、もっと好きになりましょう」

 高められた魔力は言葉を介して魔法となり、シディアは最後の一言を唱える。

「──短縮詠唱、人が好きでたまらない(ラブラブ・タイフーン)

 魔法は無数の花弁となり、ファイの体を包み込む。

 これは特定の感情──“好き”という気持ちを肥大させる魔法だ。

 かけられた人は不特定多数の人に好意を寄せるようになる、いわば惚れ魔法みたいなものである。

 しかし、今のファイにはむしろちょうどいい。

 姫様の剣となってモンスターを倒し、姫様の盾となって人々を守る。つまり、不特定多数の人々が対象になるのだから。

 好きという気持ちを燃料にして、ファイは再び歩みを進め始めた。

 長い時間がかかった、もう無理ではないかと何度も思った。

 しかし、明けない夜はない。時が経てば日は登り、この世界を照らし出す。そう、今のファイのように。

 疲れきって眠ってしまったシディアに、ファイは静かに上着をかける。

 魔法使いとして、側近騎士として、リファイド・シュネーヴァイスは再び立ち上がった。

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