Act--:わたしの中には何もなくて……
夜もかなり更けた時間、ラグトゥダさんが寝るのに合わせてわたしもベッドにもぐりこんだ。
背中の固い感触に、もう少し柔らかいベッドにすればいのに、なんて思ってみたり。えへへへ。
わたしはいつものように、目を瞑る。
そこにあるのは何もない、ただ広いだけの場所。ちょっと前までは色々な物であふれかえっていたと思うけど、今ではもやがかかったみたいではっきりと思い出せません。
──あなたの髪は、どんな髪?──
この世界、毛髪魔法世界では髪型と髪の色は、特別な意味を持っています。
色は属性を表し、素敵な髪型はそのまま魔力に繋がる。
魔法使いは自分のこだわりの髪型があったり、家によっては伝統的な髪型なんてのもあったりします。
かくいうわたしも、お母様と同じ髪型です。いえ、髪型でした。
──あなたの髪は、どんな髪?──
わたしも、そんな魔法使いの一人です。
雷光魔法の名門、シュネーヴァイス家。それがわたしの生まれたお家です。
さらさらの髪、実はちょっとした自慢なんですよ? 自分では、言ったことはないんですけどね。
だから、いっぱい頑張ったんですよ。いっぱい、いっぱい頑張ったんです。
少しでも魔力を上げたくて、もっと魔法を上手く使いたくて。そして、できれば可愛くなりたいなぁ、なんて。ちょっとだけ思ったりしてました。
でも、もう頑張れないかもしれません。
──あなたの髪は、どんな髪?──
王族の方々の髪色は混じりっ気のない白。それは治癒の力を持っていて、とってもとっても素敵な色です。
シュネーヴァイス家の髪色は、プラチナブロンド。雷の力を象徴する、すっごくすっごく強い色です。
……でも、今のわたしはどっちでもない、色の褪せたプラチナブロンド。空っぽの色なんだ。
誰かを癒せる白に近そうに見えて、でもそんな力なんてこれっぽっちもない。偽物の白、壊れたプラチナブロンド。
まるで、今のわたしの心みたいに、どこまでも空虚な、そんな色なんだ。
──ねぇ、あなたの髪は、どんな髪なの?──
毛髪魔法世界は、髪色と髪型が魔法の源な世界。
なら、なにも持たないからっぽのわたしは、この世界でどんな価値があるんだろう?
初めましての方、初めまして。そうではない方、お久しぶりです。今回は、網田めいさんの連載小説である『美容師ウサヒコと濁髪の魔法使い』の二次創作である、『美容師ウサヒコと朽髪の竜騎士』を書かせていただきました。あらすじにも明記してある通り、原作者のチェックが入った公式外伝的な位置づけになります。
原作者のような濃厚な文章表現は得意としておりませんので、その点だけはご了承ください。