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7/7

7人目~8人目

7人目の犠牲者はボクではなくて絵月蘭菜だったのだけどそれはもう少し先の話。


すべての謎が氷解した。イヨたちの正体、この学校の謎、そして、本当の自分。なぜ、痛みを感じないのかもすべてわかった。

「時間も、ばらばらなのかな?」

冷静さを取り戻したボクは質問する。

「ええ、そうよ。よく気づいたわね」

「村名イヨと多々羅光介はおそらく近い未来。尾納吉太郎は明治後期かな。赤堀陽美と松小信輝とボクは現代。平城金子は……」

「昭和45年ごろよ。終戦直後のね」

「だから変な腕時計を持っていたし刀を持っていたし性格が強かったのか」

血の海の中央に立ったまま蘭菜は黙っている。ボクの次の言葉を待っているようだ。

「よく考えてみると、この学校も異常だ。サクラは春に、ヒマワリは夏に、サザンカは冬に咲くはずなのに、ここでは混在していた。あり得ない」

「ぜんぶ、わかったの?」

「ああそうだとも」

ボクは蘭菜の眼をまっすぐに見据えた。もう怖くない。本当は怖がらなくてはならないのだけど、恐怖自体は、消滅した。

「なんで今頃なんだ?」

「ここにあるでしょ」


死体か?

そうか、そういうことか。


「ボクたちは――」その先を言うことをためらった。認めるのが恐ろしかった。しかし、言葉にしなければならない。


「君につくられた人格だ」


ふふふ。蘭菜が妖艶に笑う。

「正解」

「そしてこの学校は、君が作り出した精神世界」

「それも……まあ、半分は正解」

「ボクたちを殺しにかかったのは、もう、必要ないから」

ボクは横たわる死体を見ながら言った。

「用済みになったから、こうやって一網打尽にしようと試みたんだね」

「赤堀陽美でも逃げられなかった。松小信輝でも勝てなかった。尾納吉太郎でも説得できなかった。平城金子でも圧倒しきれなかった。多々羅光介でも許してもらえなかった。村名イヨでは、さらにいじめられた。あなただけなの、わたしを楽にしてくれたのは」

痛みを感じないボクが、蘭菜の痛みを和らげてあげた。

「最初は、あなたも殺そうと思っていた。なぜなら、主人格がわたしに戻ったとき、とてつもない痛みが襲ってきたのだから。いじめられている最中は問題ないけど、けっきょく自分は苦しむことになる。でもね、暴力をふるわれているもっとも苦しいとき、そう、心が痛いとき、あなたの存在があったからこそ、今もこうやって、わたしは生きて行けてると思うの。もしもこの先、他のひとたちにまたいじめられるようなことがあっても、あなたは必要だと気づいた。だからあなただけは、生かしておこうと決めたの」

蘭菜はまわりにある死体を見渡した。

「自分の手でこいつらを殺し、危険は取り除いたのだけど、栗夜先輩の存在意義だけは失いたくないと思ったの。それが未来に大切なことだと知ったから」

「冗談じゃない。お前がやっていることは、比呂秋たちとかわらない。イヨにも光介にも信輝にもしっかりとした感情があった。苦しんでいた。つまり、お前もまた、いじめる側にまわっていたんだ。自分で生み出した人格だとしても、彼らは、そのとき、生きていた。ボクも、生きている!」

 

ボクはおもむろに蘭菜の眼の前に移動し、彼女の首を絞めた。両手で、ちからの限り。

思うところがある。

もしも主人格の精神だけが消滅したら、肉体は誰のものになるのだろうか……。

蘭菜の髪の毛が、水中で広がるように、ぶわっとはじけた。それら一本一本がボクに襲いかかる。それでもボクは、両手に、ちからの限りを、込めた……。


     ☆

「ねえねえ、知ってる、この学校にも七不思議のような無気味な話があるの?」

「ええ、それってトイレの花子さんとかてくてくとか勝手に演奏するピアノってこと?」

「そういう都市伝説的なものとはちょっと違うけど……1か月前に失踪した7人っているでしょ」

「うん、知ってる。2年だよね」

「そうそう、そいつらが、夜な夜な体育館に現れるんだって。遅くまで残っていたバレー部の子が見たって言ってた」

「うそお! じゃあさ、今度、聖地(せいじ)くんとか誘って行ってみる?」

「出た、聖地。ふたりで行けばいいじゃん」

「もう、またそんなこと言う。私がガチガチに固まっちゃうのわかってるでしょ」

「冗談、からかっただけよ。でも……マジでやめたほうがいいみたいよ、この話」


ボクの視界、手足、骨、すべてが華奢(きゃしゃ)になっていた。

鏡を見たいけれどまわりにはない。

それに、ここから出られそうにもない。

ボクやイヨは想像から作られた存在だったけど、学校は違う。蘭菜は、実在する学校を精神世界に呼び出していた。

じゃあ、この体育館、まずいよね。

君たちを殺したのはボクじゃない、そう言いたかったけど、おそらく、通じないだろう。


8人目の犠牲者は、ボクだった。


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