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4人目

4人目の犠牲者、()(のう)(きち)太郎(たろう)は切り落とした腕が消えていることを知り、困惑していた。

血痕が等間隔に奥へとつづいている。3人が逃げたのとは反対方向だった。誰かが持ち去ったのだ。吉太郎は何者かに気づかれないよう、そっと追うことにした。

あの3人は無実だ。申し訳ないことをした。腕を取り戻し、結合させ、謝罪し、罪を償わなければ……。

階段をあがる、あがる、あがる。5階だった。廊下を進み、血痕が途切れた場所には、音楽室、と書かれているドアがあった。

吉太郎は刀を持ち上げて、うっとりするようなまなざしでその白光(しろびかり)するモノを眺めた。

この部屋の中で、何者かが罠を張り、虎視淡々とこの命を狙っているのだろう。だが私にはタカシゲがついている。幾度となくこの身を守ってくれたタカシゲ。恐れることはない。臆することはない。返り討ちにし、この狂った施設から早く脱出するのだ。


ピアノの前に、ひとりの少女が座り、なにかを演奏していた。10代半ばだろうか。顔を伏せているので細かい部分までは見えない。肩の下くらいまで伸びた黒髪が垂れさがっているのを確認できるだけだった。

姿を隠していなかったことに吉太郎は意表をつかれたが、冷静に対処することにした。それが自分の武器である、と知っていたから。

「君が、私たちを閉じ込めたのかな?」

少女は演奏をつづけている。なんという旋律。心の中に、ゆっくり、まるでタオルが水を吸うように、しみこんでくるようだった。

「閉じ込めた目的はなんだい?」

吉太郎は周囲を警戒しつつ、スピーカーの前を通り少女に近づく。

この演奏を聴いていると、本来の目標を見失ってしまいそうだった。優しく、流れるメロディー。しかしどこか悲しみもはらんでいる。この曲はなにを訴えているのだろうか。

「君になにかしたかな? 身に覚えがないんだ。もしもそうなら、この場を借りて謝らせてほしい」

繰り返されるフレーズ。耳から離れない。この部屋から出ても、しばらくは脳内にとどまりそうだ。否、一生……つきまといそうだ……。

「君を救うために、私は全力でがんばろうと思う。願いを教えてくれないか」

部屋の中央に到達したとき、別の楽器の音が流れてきた。バイオリン、ホルン、フルート、ヴィオラ、トランペット、チェロ、それらすべてが同じフレーズを繰り返す。

そのとき吉太郎は気づいた。

この演奏をやめさせなければ。

好き勝手に演奏させてはならない。

名刀タカシゲを振りかぶる。大上段に構えたまま前進する。

「なぜ私を殺そうとする。なぜ他の連中を殺した。答えないのなら答えさせるのみ。腕の1本や2本は、覚悟してもらうぞ。タカシゲの切れ味はばつぐんだ。それほど苦しむことはないだろう。しかし、真の痛みはあとからやってくる。神経を切断された場所に走る激痛は想像を絶することだろう。鼓動のたびに赤黒い血液がどびゅっどびゅっと飛び出し、命の炎を消して行く。だが、泣き声は出させない。お前がくちにしていいことはここからの脱出方法のみで燦々と輝く太陽のしたに私たちを放置して雨水を乞わすためなら土も砂も飲み干しもしも仮にそれで嘔吐することになっても誰も恨まないしむしろ崇拝にあたいするバテレンのマリーアさまはカスティラをほおばりこう叫ばなされるであろうそうろう、コウ、コウ、コウ」

吉太郎はタカシゲを逆手に持ちかえ、自らの首に刃の切っ先をあてがい、躊躇することなくずぶずぶと喉元に突き刺して行った。さすがタカシゲ、痛みは感じない。ずぶずぶと喉に入りこみ、なにか太いモノをぶつっと切り、それから硬いモノをギギギギギと刺し貫いた。


     ☆

ガーゼをあてがい圧迫して止血した。応急処置は完了。あとは切り落とされた腕を早く見つけ出し保存しなければならない。

「村名さんはこのまま看病していて。ちょっと行ってくるね」

ぐったりと寝入っている少年を一瞥してボクはそう言った。起きるまでは叫ばないだろう。大丈夫そうだ。

「さっきの場所まで戻れる?」

「あ」

「S・P・W、スペース・プロジェクション・ウォッチを――」

腕時計をはずそうとするイヨをボクはとめる。

「使い方がわからないからいい」

大きな眼をいっぱいに開き、ボクの顔を見返すイヨ。残された時間は少ないのでボクは言う。

「問題ないよ、なんとなくは覚えている」

「ううん、ワタシも行く。ナビするから、急ぎましょう」


つづく

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