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パンドラの騎士  作者: 水乃晶
穏やかではない日々
6/6

再会と出会い

「ただいま」

「おかえり、兄貴兄貴、ちょい来て」

「あん?」

 妹の星音が顔だけ出して呼んでいた。

 中三なのにどうせまた勉強していなかったのだろう。

 まったく。

「なに」

「兄貴にとって耳寄りかどうか知らないけど、面白い話がある」

「ほう……?」

「対価はそうだなー、二」

「出せるか! お前日に日にひどくなるな!」

 この妹、どんなネットワークがあるのか、噂というものに異様に詳しい。

 ただし金を取る。

 単位は万だ。

「ちっ……ま、流石に二は冗談。そのかわり」

「なんだよ」

「耳かき」

「……お前それで一回外耳炎になったの忘れたのか」

「だから自分でしないようにしてるんじゃん。なんか流行ってるんだよね」

「耳かき?」

「うん。何年か前から耳かき専門店とか出来てるよ」

 自分でやれよ……。

「ま。半分が風俗だけどね」

「ああ、それならなんとなく……」

 いや、やっぱりわからん。

「ほらほら、妹の商売道具の掃除を手伝ってよ」

「まさに地獄耳、ってやつか」

「天使の耳は地獄耳!」

「……ほら、はやくクッションもってこい」

 お気に入りのクッションを持ってきて、胡坐かいている俺の足の上におく。

「なんだかんだ兄貴は面倒見いいよね」

「お前に限ってはあきらめも強いがな」

 覗きこむ。

 普通だ。

 これといって何か変哲があるわけじゃない。

「なんでお前は耳いいんだろうな?」

「さあ? はやくしてよ」

 言われたとおり、耳かきを耳の穴に下ろしていく。

「この前兄貴、パンドラの箱気にしてたじゃん?」

「ああ、この前って言うか一週間くらい前だな」

「この前じゃん。それとはちょっと違うかもしれないけど、ケースっていう変なアイテムが話題になってるよ」

「は?」

「手、止まってる」

「わるいわるい。んで、ケース?ってなんだよ」

 極力いい気分にさせておいて、話を聞きだす。

「クラスのやつがやってるオンラインゲーム、そこで手に入れたらどんな願いでもかなうとかいう変なアイテムが話題になってるんだって。当たり前なんだけどそんなアイテムあるわけないじゃん?」

「ああ」

「そういう噂を流すやつって、相手にされないのが常なんだよね。で、あんまりしつこいから、どこの誰なのか調べたんだって」

 反対側の耳に移行する。

「調べるって……」

「うん、まあ方法はお察しの通りだけど、その誰かはね。回線持ってなかったんだって」

「はぁ?」

「ネットに繋がってるって証拠が何も出ない。ずっと監視してるのにね」

「なんか、そういう偽装かけてたんじゃないのか」

「そう考えるのが妥当なんだけどね。ケースって名前からチートツール入ったアイテムボックスって噂もあるんだけど、私は兄貴が気にしてたパンドラの箱を思い出したんだよね。箱もケースでしょ?」

「……なるほどね。確かに耳寄りかも」

 あんまり関係はなさそうだが。

「でしょ。ついでにアドバイス、デートするのは自由だけど相手は一人にしたほうがいろんな人からの心象がいいよ」

 デート?

「じゃ、また何かわかったら教えてあげよう。私はこれから」

「勉強か」

「友達に情報売りつけるよ」

 携帯を握って自室に引っ込んでしまった。

「勉強もしろよー」

 声だけはかけておく。

「ただいまー」

「お、姉貴。お帰り」

 姉貴が仕事から帰ってきた。

「星音は?」

「部屋」

「ふーん……」

 妹を大人にしたような美人の姉、清香。

 職業は……なんだろう。

 営業職になるのだろうか。

 この二人はめちゃくちゃ似てるのに、俺は似ていない。

「最悪の気分だ。タバコの臭いついたぞ」

「洗濯しとくから、風呂入ってきたら?」

「ああ、頼む」

「あ、そうだ。お前、気にしてただろ」

「ん?」

 姉貴は鞄から、紙束を出す。

「パンドラの箱。私なりに色々聞いて回った結果だ。年代ごとに中身の考え方が違ったりして面白かったぞ」

 紙には手書きで色々書いてあった。

「ありがと」

「いや。……そういえば妙なやつらが似たようなこと訊いて回っていたみたいだったな」

「え?」

「外人二人連れが同じようなことを聞きまわっていたそうだ。関係ないとも思えんし、そいつらのことも書いておいた」

「うん」


 頼りになる姉妹のおかげで、色々と情報が入った。

 翌朝、イリアと浅黄に話をする。

「姉貴のほうはどっちかって言うと、外人二人のほうに終始してるな……」

 片方は長身で、肩くらいまでの金髪。

 もう一人は黄色いドレスのようなものを着た少女。

「この外国人は恐らく先日の騎士ね。そして騎士と行動を共にしている女なんて、考えるまでもないわ」

「こっちのケースも気になるね。確かに変な噂」

「いまのところ確証のない噂で動く段階ではないわ。ひとまず様子を見ながら、力を蓄えましょう」

「それについて、ちょっと考えがあるんだよね。鉄哉は二つ鎧が――つまり二つ武器があるわけじゃない?」

「ああ、そうだな」

「じゃあさ、二つ同時に出せたら攻撃力アップじゃない?」

「…………」

 こいつ、馬鹿か?

「イリアさん、彼の武器はランスと大太刀よ?」

「知ってるよ。どっちも鎧ごと相手を倒せるよね!」

「……ランスはともかく。大太刀なんかどうやって片手で振るうんだよ」

「え?……あ、はは」

 やっぱり考えてなかったか。

「でも、武器はともかく属性を二つ出せたら強いわね……。それを練習する価値はあるわ」

「実際問題、俺まだ大地の属性が使えてないぞ」

「? 使ってるじゃない」

「は?」

「あの重すぎるくらいの鎧で走り回れる。スタミナとパワー、それが大地の属性よ」

「まじか……」

「まあ、もう少し熟練すれば重さを相手にかけることも出来るわ」

「拡散していく爆発を、重さの壁で抑え込んで威力をピンポイントに収束するとかできそうだね」

「そんなことしなくても円錐状に角度をつけてやればいいのよ。角度に従ってピンポイントになるわ」

 女子高生がする会話じゃない。

「とにかく、練習あるのみってことか」

「そういうことよ。じゃあ、走りなさい」

「なにをするにも基礎体力あるのみ、だよ」

 早朝からロードワーク、というかランニング。

 さすがに鎧ではないが、長距離を一定の速度で走るのはなかなか辛い。

 喉の奥が熱い。

「……っ、はぁっ」

 呼吸するたびに肺に流れ込んでくる新鮮な空気が心地いい。

「終わりだ!」

 なんか聞こえた。

「いまの……この前の騎士!」

 声のした方向へ走る。

 その先には。

「っく……いってぇ」

 壁に手をついて、なんとか立っている少女と。

「おや? 貴様……そうか、鋼の小僧か」

「女の子追い詰めてご満悦とか、警察のお世話になりたいのか、おっさん」

「おっさ!? 貴様!」

 エドラス・フォン・ガーリア。

 雷の属性をもつ、騎士の男がいた。

「引っ込んでいろ、貴様との決着はこの小娘を仕留めてからだ」

「目の前で変質者に襲われてる女の子放置すると思うか? それにお前には個人的に借りがある」

 あの日出会いがしらに襲われ、そしてたまたま助かったが、そうじゃなかったら死んでいた。

 そう思うとこいつを見逃す理由なんかない。

 足元のマンホールを跨ぎ、俺は声と共に鎧を形成した。

「鉄壁襲来!」

「聞き分けのない!」

 フェンシングのようにサーベルを構えるエドラス。

 どっしりと盾を前に出し、ランスを後ろに引いて構える俺。

「少しは腕を上げたか。だが、その程度で私に勝とうなど!」

 物理的に考えれば、この戦いエドラスに勝ち目はない。

 だがなんだろう、この自信は。

「…………」

「行くぞ!」

 また刀身に雷を纏わせた突きが襲ってくる。

 これは盾で受ける。

「そうだろうな。だから私には勝てん!」

 刃が雷に変わり、盾を貫く。

「なに!?」

「まさか刀身に纏わせるのが全てだと思ったか!?」

「うおおおっ」

 咄嗟に盾を投げつける。

「む!」

「灼熱具足!」

 ほんの一瞬の隙に、朱と黒の具足を形成する。

「なに……貴様、二重に契約しているのか……?」

「どうもそうらしいぜ」

 炎の属性を一定の方向に流しながら、距離をとっていく。

 後ろの女の子ギリギリまで下がる。

「ふ、なるほど。面白い小僧だが……しかしどうだと言うのだ。速さではまだ私のほうが上回る!」

 自信満々に踏み出すエドラス。

 女の子にだけ聞こえるように、俺は小声で言った。

「俺の背中にしがみついて」

「なん……で」

「逃げるよ」

 わずかに、重さが加わるのがわかる。

 チラッと見た限り、女の子にしては背が高い。

 もしかしたらつかまりにくいかと思ったが、思い過ごしだったか。

「なんだ? 背水の陣とでも言うつもりか?」

「どっちかというと、廃水の陣ってとこかな」

「……なに?」

 地面を強く蹴る。

 マンホールというのは、密閉された空間に水がたまったものだ。

 そこに熱……それも超高温の炎を流せばどうなるか。

 爆発が、起きた。

 高々と舞い上がったマンホールの蓋を足場に、さらに跳躍し戦線離脱する。

「なに……した」

「水蒸気爆発。あの辺り一体の下水道は駄目かもしれないけど……死ぬよりはましでしょ」

「お前……無茶苦茶だな……」

「あれ? おーい? ちょっと?」

 女の子の体が後ろに傾くのを背中に手を回して支える。

 気絶しちゃったのか。

「人目につかないところってなると……山のほうかな」


「ん……」

「起きた?」

「ここは……?」

 気絶してた女の子が目を覚ます。

「さあ、どこだろ。とりあえず人目につかなくて安全な場所」

 鎧はすでに消え、俺はジャージ姿で彼女はボロボロになった服。

 限りなく犯罪を連想させる図だ。

「汗かいてるけど……よかったらはおる?」

 ジャージの上を差し出す。

「いらねぇ。……さっきは助かった」

「どういたしまして、でいいのかな」

 厳密には何か出来たわけではないし、そもそも私怨の割合が高かった気がする。

「アタシはもう行くから、ついてくんなよ」

「いや、どこに行くか知らないけど、送るよ?」

「ついてくんな。さっきのことは感謝してるけど、アタシは騎士って連中が嫌いだ」

「……嫌い?」

「ましてや二人と契約してるようなやつは死ねばいい」

「えっ!?」

 きつい言葉が飛んできた。

「いつか借りは返す。だから、ついてくんな」

 明確な拒絶。

 騎士と何かあった、とかかな。

「っ……」

 脚を怪我しているのだろう。右足を引きずりながら山を下っていく。

「んー……気にはなるけど、仕方ないか」

 俺もそろそろ戻って支度しないと遅刻する。

 十分に姿が見えなくなったのを確認して、俺もまた山を下りた。

 のだが。

「やっぱり送ろうか……?」

「う、うるせぇ……」

 数メートルも行かないところで、木にもたれかかって休憩しているのを見つけてしまった。

「いや、さすがにそんな肩で息してるような人を置いていけないでしょ……救急車呼ぼうか?」

「っ……なんなんだよお前。そうやってアタシにも取り入るつもりか?」

「いや、そんな気は全然」

 キッとこちらを睨みつけた目は、強い怒りを伝えてくる。

 中性的というのはこういう感じだろうか。

 凛と涼やかな顔立ちで、男役がよく似合いそうな美女という感じだ。

 その口調の子供っぽさに、少し違和感があった。

「頼むから、どっかいけよ……」

「……まあ、そういうなら」

 俺はその場を離れ、下に向かって走り出し、そのまま木にもたれかかる。

 そうこうしないうちに、彼女も歩き出すだろう。

 しかし、今歩いている限りこの山は……。

「うっ……おわっ!?」

「はい、無理でしょ」

 足を滑らせ、そのまま滑り落ちそうな彼女の手を掴む。

 土が大分もろいのかなんなのか、不安定に体重をかければそのまま滑り落ちる危険がある。

「まだいたのかよ! 離せ!」

「離したら車道に落ちると思うけど」

「ぐっ……」

「意地張らずに、どこに行くかいってよ。実際ここまで関わって車に轢かれたりされても寝覚めが悪いし」

 渋々といった体で、ようやく彼女はあきらめたのだろうか。

「このまま、山を下りて……」

「下りて?」

「学校の東側のアパート……」

 ここから見える範囲にある学校……ああ、あれか。

「それじゃ、ゆっくり一歩ずつね」

「……っつ」

 必要なことしか答えない、か。

 まぁ、それでもいいけど。

 肩を貸しながらゆっくりと、下山した。

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