胡散臭い執事と狸の叔父
遅くなってすみません。
イマイチこの話で三人称書きにくいのでカーネリアンの一人称で書きなおそうかとも思ったのですが……。
ヘタレで気力が足りないのでこのまま続けることにしました。
にこにこと笑う少年に、カーネリアンが胡散臭さを感じ様子を窺っていたところ、横に座っていたユークレースは突然ガバッと立ち上がった。
「あ、あ………あの、わ……私、いえ、あの、わたくし……は、そ、そ…………の、ユ……ク……レ……ス……・フローラ……イ……ト……と、も……申し…ま……」
「お嬢様、落ち着いてください」
ほとんど連続した言葉にならない挨拶を必死に話そうとするユークレースに、カーネリアンはそう声をかけた。
「必要があれば私が話をします。またこの場でお嬢様からご挨拶される必要性はありません。だから落ち着いてください」
「カ……カーネリアン……」
ユークレースはその麗しい瞳をうるうるとさせ、自分の侍女の洋服の裾を掴んだ。
「ははは、話に聞いていた通り愉快な方達ですね」
胡散臭い少年はそう言って笑ってみせた。
カーネリアンは眉を顰めたまま、ユークレースを背に庇うようにして少年に向き直る。
「失礼ですが、貴方はどなたでしょうか。私はユークレースお嬢様の侍女をしておりますカーネリアンと申します。そのご様子であれば、こちらの事情は御存知でらっしゃると見受けられますが……」
「ああ、これは失礼」
少年はそう言うと、軽く一礼した。
「僕の名前は、ジルコン・セレスタイトと言います。このヘリオドール家の執事をしております」
「……執事? では先ほどこちらに案内してくれた方は……」
「ああ、あれはただの使用人ですよ。ただ対外的にこの年齢である僕が表だって出るよりは、余程『らしい』ので、来客の一次対応は彼に任せています」
そう、ぽんぽんと説明してくれる言葉には、どこか毒を含んでいる。
こいつは油断のならない奴だ、とカーネリアンは判断を下した。
しかし、主であるユークレースの為にも情報は少しでも多く仕入れておきたい。
「ずいぶんお若い執事さんですね?」
「いえ、貴女には負けますよ。小さな専属侍女さん? 女性に年齢をお聞きするのは失礼ですかね?」
「いえ、問題ありませんよ。私は十歳になります。侍女と言ってもお嬢様の身のまわりのお世話をさせて頂くだけですからね。貴方の年齢で執事のお仕事をされるよりはよほど……。いえ、もしやお姿だけが非常にお若く見えるだけということでしょうか? そうであったら申し訳ありません」
「いやいや、外見通りだと思いますよ? 僕は十五ですからね」
「ああ、お嬢様と同じ年なんですね? ……もしや、侯爵様にそのようなご趣味が……」
「いえいえ、侯爵は完全に実力主義の方ですよ。だからその杞憂は捨ててしまって大丈夫です。まあ僕の話はまた後日の機会ということで、これから……」
ジルコンがそこまで話したところで、コンコンと扉を叩く音がした。
そして、今度は返事を待たず、扉が開かれた。
そこに立っていたのは、茶色い頭髪をした、お腹がぼーんと前に突き出した凡庸な顔をした壮年の男であった。
「やあ、すまないね。遅いからつい見に来てしまったよ」
そう話す声はやわらかく、温かみがあった。
浮かべる笑みも、どこか頼りなさ気ではあるが、人が良さそうな感じがする。
(これが、ヘリオドール侯爵……? 少し年が上なのは気になるけど、性格は良さそうだし、お嬢様の相手としてなら……)
「狸さん……」
まじまじと品定めをしていたカーネリアンは横で突如呟かれた言葉に硬直した。
たしかに、その突き出た腹と頭髪の色合いが狸のそれを彷彿とさせるものはあるが……。
それを本人目の前にして言うは、ない。
カーネリアンがどう収拾させようかと、冷や汗を浮かべた、その時。
ユークレースに狸と呼ばれたその人が、ぷはーっと噴き出した。
「はっはっはっ、狸さんか。よく言われているよ、この使えない狸が、とね。こんな可愛らしいお嬢さんに、さんをつけて呼んでもらえると、またニュアンスが違っていいねえ。あの子もそう言ってくれればまだ可愛いのにねえ。そうは思わないかい、ジルコン?」
「僕の方ではコメントは差し控えさせていただきます」
ジルコンは笑顔のままそう言った。
「ふふ、じゃあ今度僕からあの子にそう言ってみようかな」
「あの……」
「ああ、すまないね。こちらの話でわからなことを言ってしまって。ああ、そうだ。まだ自己紹介もしていなかった。僕はラリマー。ラリマー・ヘリオドールだよ。君の婚約者であるジェット・ヘリオドールの叔父に当たる」
そう言うと、ラリマーはにこにことしながら両手を広げてみせた。
「歓迎するよ。ユークレースにカーネリアン。可愛いお嬢さん方」
ではまた次回、よろしくお願い致します。