侯爵様が望まれる妖精姫とは
カーネリアンの語りが終わらないので強制終了。
「…………私?」
自身をメリットと言われても、ユークレースは意味がわからずこてりと首を傾げる。
そんな主を見て、カーネリアンはやれやれと首を横に振ってみせた。
「……自覚がないのもお嬢様のいいところ、ではあるんですけどね。お嬢様はご自身が妖精姫と評されているのは御存じですよね」
「うーん、知ってるはいるけど。……私、人外になった覚えもお姫様になった覚えもないのだけど」
「妖精姫は妖精の姫ではなく妖精のような姫という意味ですよ」
「んー、でも私妖精見たことないのだけど」
「私もですよ。つか誰も見たことありゃしませんよ、そんなの。あくまで比喩表現です、比喩」
「見たこともないようなものに例えられてるのね、私」
微妙な気分でユークレースは呟いた。
「いいじゃないですか、例えが可憐なイメージの妖精で。これで魔女姫とか鬼姫とか野獣姫とかに例えられたらきっついものありますよ、女性としては」
「えー、強そうでそっちのがいいわ」
「……お嬢様のずれた感覚は置いといて、まあ、その妖精姫と例えられてるのには二つの意味があるんですよ。一つ目は、妖精のように、可愛らしく美しい。二つ目は、妖精のように滅多に目にすることができない」
「あー……」
「お嬢様、引きこもりですもんね。たまに出かけて行ってもすぐに帰ってきてしまうし」
「あー…………」
「自覚があるようで何よりです。まあそれはそれとして、そんな妖精姫とお近づきになりたい、結婚したい、という男性は結構いるもんです。女性のわかりやすいステータスは若さと美貌ですからね。お嬢様はどちらも一級品です」
「何か……、あまり嬉しくないわ」
ますます微妙な顔になるユークレースに、カーネリアンはチッチッチと指を振った。
「世の中は単純明快、それを重視する人間は多いってなもんですよ。……で、ここで本題です」
「本題?」
「そう。旦那様から話のあった侯爵様は、お嬢様のどちらを欲しているのでしょうか。妖精姫と評されるお嬢様自身か、妖精姫と評されるお嬢様の名前か」
「……それは同じ意味ではないの?」
ユークレースはまたこてりと首を傾げた。
「もちろん違いますとも。前者はお嬢様の美貌目的。ろくに他者と接しないお嬢様のへっぽこな内面に惚れるわけがあり得ませんから、偶然見かけたお嬢様の容姿に一目惚れ、パターンでしょうか。まあこのパターンであれば、純真たる恋心か美人が好きな好きものかで詳細は別れるでしょうが」
「……あら? 結構酷いこと言われているような……?」
「いえ、事実です。で、後者は妖精姫の名を欲している場合。こちらの場合はちょっとやっかいかもしれないですね」
「どうして?」
「妖精姫は、妖精の姫のような存在、と言われています。それを手にしたいと思う者が多く存在します。いわば、それは外交カードにもなり得るんです。考えうる可能性としては……」
カーネリアンはそう説明しかけたが、当事者であるユークレースがまったく話についてこれてないことをその表情から読み取って口を閉じた。
「……まあ、推測だけで言っててもしょうがないですよね。今はまだ、それを判断するには情報が少なすぎます。……私としては、お嬢様に真摯に恋をした純朴侯爵様が望まれた、という恋物語的なハッピーエンドを期待しますよ」
カーネリアンは苦笑しながらそう言うと、ユークレースにもう横になるよう促した。
「すべては明日、今日は休みましょう。……ではお嬢様、しばしの安息を、お休みなさいませ……」
強制終了したのは後者の説明の部分です。
次回はもう少し話を進展させられるかと(希望的観測)。