結婚のメリットは
カーネリアンの語りが長いです。
「腹を、くくる……?」
「そうです、お嬢様。もう侯爵家との結婚は決まったこと。覆りはしませんし、ましてやフローライト子爵家の没落からは逃れようがありません」
「そ、そうね」
「ではお嬢様は旦那様の仰る通り結婚する、ここまではいいですね。では次の問題です。没落しその借財すべてを肩代わりしてくれる侯爵とは、何者でしょう?」
「何って、侯爵様でしょう?」
ユークレースはこくりと首を傾げてカーネリアンを見た。その様子は輝かんばかりの美貌もあいまって非常に可愛らしいものだった。
カーネリアンは刹那見惚れそうになりながらも、ぷるぷると首を振って話に戻る。
「そうではなく、言い換えれば、この結婚に伴うメリットが何か、ですよ」
「メリット?」
「そうです。通常貴族の婚姻にはメリットがあって然るべきです。旦那様は後で詳しくまた話すとは仰ってましたが、私は一応準備もあるので確認したんですよ。お嬢様の持っていかれる嫁入り支度」
「まあ、カーネリアンはあの場でそこまで思い至ったのね。凄いわ!」
ユークレースはぱんっと両手を合わせて感嘆した。
「当然です。お嬢様のことですから。そこはいいとして、先方からはお嬢様は身一つで来ればいいとのお達しだったということだそうです。花嫁道具など、花嫁として必要なものはすべて侯爵家で用意するからと。必要なものがあれば仰ってもらってかまわない、と」
「必要なもの? 私はカーネリアンがいればそれでいいわ」
「私は花嫁道具ですか」
思わずカーネリアンは突っ込んだ。
「え、ええ? そんなつもりは」
「わかってますよ、まあ。このカーネリアン、どこまでもお嬢様へ付き従って参る所存ですからご安心を」
「まあ、嬉しいわ」
「で、それはおいといて、相手のメリットですが、はっきり言ってこの子爵家自体には価値はありません」
「そうね、没落するくらいだものね」
「いや、それはそうですが、そうではなく。フローライト子爵家の所有する領地には特筆するような産出資源も名産もないんですよ」
「まあ、そうなの。知らなかったわ」
初耳だと言うユークレースに、カーネリアンは軽い溜め息をついた。
「そこは知っといてください、跡取り令嬢だったんだから。……それはそれとして、この家自体にそう価値はない。運用できるものがないんですから。実権を譲る、というのも、これ以上借財を膨らませないようにとの考えでしょうね。なので借財のことも含めれば子爵家自体はマイナスだ、ということは理解されましたか?」
「はい! カーネリアン先生!」
「誰が先生だ、誰が。疲れるな、ったく。では話は戻りますが、であればメリットとは何か、ここまでくればおのずと知れるでしょう」
「………………?」
こてりと首を傾げた主に、カーネリアンはぷつりと切れた。
「少しはそのゆるみきった脳みそをはたらかせろ! このアホンダラ令嬢が!」
「え、ええええ!」
怒りの沸点の低いカーネリアンは、そのブチ切れた勢いのまま言い切った。
「メリットはお嬢様、貴女自身ですよ! フローライト子爵令嬢こと、妖精姫ユークレース!」
そしてまだカーネリアンの語りは続きます。