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妖精姫は逃避を試みる

いつになったら結婚相手出てくるのか……。

 浮き上がるような感覚に、ユークレースはぼんやりと目を開けた。


「……よかった。夢だったのね」


「夢じゃありませんよ」


 思わず漏れたひとりごとに返ってきた突っ込みに、ユークレースはゆっくりとその声の主を見た。


「……カーネリアン」


「お嬢様、大丈夫ですか? いきなり気を失われるから、このカーネリアン心配致しました」


「ええ、大丈夫。……ねえ、お父様は?」


「もうお戻りになられました。お嬢様が倒れてしまわれたので、続きはまた後で、と」


「そう……」


 ユークレースはゆっくりと身を起こすと、カーネリアンを迷子の子供のような瞳で見た。


「……私、どうすればいいのかしら?」


「それはもう、諦めて結婚されるしかないかと」


「結婚……」


 ユークレースはぼんやりと考えた。


 今まで考えたこともない。父である子爵からも話を切り出されたこともない。


 子爵家の一人娘となれば、いずれは避けられない問題であったとは思うが……。


「私に出来ると思う? 結婚」


「できるできないの話ではないかと思いますけど。まあ、出来るでしょうね、結婚は。その後の、結婚生活がきちんと成り立つかは疑問ですけど」


「そうよねえ……」


 実の父親ともまともに相対できない自分に、それまで赤の他人であった(将来の)夫と、果たしてまともに会話が成り立つものなのか。


「ここは、修道院にでも……」


「甘い!」


 逃げをうとうとしたユークレースに、カーネリアンはカッと目を見開いた。


「現実逃避は時間の無駄です、お嬢様。しかも何が修道院ですか。お嬢様のような甘えったれが莫大な寄付金持参金手土産に保護してもらう為に入るのならともかく没落して身一つで入ってうまくやっていけるとは思えませんね。修道女だからって聖女じゃないんですよ。神に仕えてるからって神ではないんです。そもそも神だってそんな慈愛に満ちてる存在ではないですよね。そんな存在ならこの世界で不遇な身に陥る人間なんでいるはずもないんですから。いや神の話は置いておいて現実の話です。女怖いんですよ。笑顔の下で熾烈な争いが常時発生してるんです。嫉妬や妬み虐めや陥れなんでもござれですよ。お嬢様のような超深窓の籠の鳥の令嬢なんかやっていけるはずはないんです!」


 呼吸もおかずに年端もいかない少女とは思えないド迫力でそう言いきったカーネリアンに、ユークレースはおされるように何度もこくこくと頷いた。


 カーネリアンはこほんとひとつ咳をすると、自分の仕える主に向き直って言った。


「お嬢様、ここは腹をくくりましょう」

ではまた次回にて。

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