没落は突然に
妖精姫のキャラが……。
「お嬢様、最近何か変だとは思いませんか」
寝る前の身支度として、カーネリアンはユークレースの髪を梳かしながらそう話しかけた。
「変? 特に感じないけれど……」
「まあ、お嬢様は立派な引きこもりでいらっしゃるから、気がつかないとは思いますけどね」
「もう、カーネリアンったらそんな本当のこと言わなくても~」
「何だか屋敷の中がどこかざわついてるような……、嫌な予感がしますね」
「あ~の~、カーネリアン? 私の話、聞いてる?」
「……それにしても、お嬢様のこの御髪は本当に綺麗ですね。キラキラつやつや輝かんばかりで」
「きゅ、急に話題変わったのね。……ふふ、でも、ありがとう。褒めてもらって、嬉しい……」
「何か困った時は高く売れそう……、幾らになるかな」
「一言余計だわ、カーネリアン……」
そんな主従がいつもの会話をしていると、控えめなノックの音が聞こえた。
「こんな時間に……」
カーネリアンは眉を顰めた。
そして扉の方へ向かい、相手を確認する。
「ユークレース、カーネリアン? 私だよ。今少しいいかい?」
「旦那様……! 今しばらくお待ちを」
カーネリアンはユークレースのナイトドレスの上にショールを巻きつけると、扉を開けフローライト子爵を部屋の中に招き入れた。
「お……お父……様……。こ、こん…な……はしたない姿で……し…失礼……い……い……」
ユークレースがしどろもどろにそう言うのを、フローライト子爵は手を振って応えた。
「いや、私の方こそすまない、こんな時間に。気にしないでいいから、とりあえず座りなさい」
「は……い……」
父に促され、ユークレースはソファーに腰を下ろした。
どこかその顔色は青白い。
ユークレースのコミュ障は、実の父親にも発揮されていたのだ。
ユークレースの向かいに腰を下ろすと、フローライト子爵は部屋の隅に立ったままのカーネリアンの方を見て言った。
「カーネリアン、君も座って」
「いえ、私はこのままで」
「いいから座りなさい。でないと、私とユークレースではまともに話にもならないのは、わかっているだろう?」
「はい、それでは」
どこか切なげな様子の子爵に、カーネリアンは頷くとユークレースの横に腰を下ろした。
それにより、ユークレースがどこかほっとしたように息を吐くのをカーネリアンは肌で感じた。
「お父様、ではお話とはなんでしょう、とお嬢様が仰ってます」
口が利けないわけでもない真横に座っている主の言葉を、そのまま代弁するかのようにカーネリアンが口にする。
傍で見ていると滑稽でしかないような光景は、フローライト家にとっては当たり前のこととなっていた。
「うん、実はね……。非常に言いにくいことなんだが……」
子爵は手を何度も組みかえ、やっと決心したように顔を上げて言った。
「実は、フローライト子爵家は、没落したんだ」
次回は、子爵との会話の続きです。