噂の妖精姫
またはじめてしまいました、新しい話。
先はまだ未定ですが、よろしくお願い致します。
ロードライトの国には妖精姫と呼ばれる令嬢がいた。
名は、ユークレース・フローライト。
フローライト子爵の一人娘であった。
王家の娘ではないのに『姫』と評されるのには理由が二つある。
一つはその容姿。
白金の長い髪、陶器のような美しい白い肌、澄んだ湖のような淡い青と緑が混じったような瞳。
そして、一目見たら二度と忘れられないような、その美しい顔。
この世の美を凝縮して生まれてきたかのような、令嬢であった。
そしてもう一つの理由は、なかなかその姿を拝めないこと。
もともと滅多に人前に姿を現すこともなく、稀に出てきたかと思えばすぐにどこかへ隠れてしまう。
また、あまり言葉を発することもなく、その声を聞いたことのあるものは、非常に少ない。
その儚さたるや、まるで幻想世界の妖精のようだ、とついた呼び名が。
――――妖精姫。
人々は、その妖精姫を一目みたいと渇望する。
そして、一目見た者は、もう一度その姿を目にしたいと思うようになる。
そんな、妖精姫こと、ユークレース・フローライトの実態とは……。
「い、嫌~。私、お外に出たくないの。みんな私のことじろじろ見るから嫌なのよ~」
「じろじろ見るんじゃなくて、見とれているんですよ。お嬢様がとてもお美しいから、妖精姫」
「い~や~、私はそんな大層なものじゃないわ」
「じゃあみなさんの前ではっきりそう仰ってきてくださいよ」
「無理ー」
「滅多に人前に出ない。出てもすぐに逃げ出して姿をくらます。本当に必要最低限、しかも超小声で話すからそんな呼び名がついたんですよ。しっかりなさい」
「私だって、これで精一杯なのよ~。カーネリアンの意地悪」
「意地悪で結構。さあ、支度しますよ」
「あ、私今日は頭痛で……」
「前回その手を使いました」
「そう言えば、おなかが痛くて……」
「前々回その手も使いました」
「今朝から眩暈が……」
「前々々回その手を使いました」
「何回だっていいじゃない」
「駄目です。それに今日の集まりはお嬢様の叔母様の茶会なんだから、いわば身内の集まりですよ。たいしたことじゃないでしょう」
「私にはたいしたことなの。死んじゃうわ」
「お嬢様の死ぬ気は世間様にとってはたいしたことではありません。諦めて死ぬ気でいってください」
「ふえー。人が怖いー」
「ほらほら泣かない、このカーネリアンが御一緒しますから。つか、いいかげんにしないとしばきますよ、こら」
妖精姫こと、ユークレース・フローライトの実態は、ただの容姿が飛びぬけて優れた、飛びぬけて人見知りのコミュ障害の子爵令嬢であった。
次回もまた、よろしくお願い致します。
※キャラブレの為ユークレースの語尾修正しました。