1BET:出会い+快速王子=爆弾発言雨霰
俺は今走ってる。
それはもう走ってる。
買い物袋片手に走ってる。
理由は後ろ。
「待てごらぁぁぁぁぁ!!」
スプリンターよろしく。全速力で追ってくる髪も服も靴も真っ黒の青年。端正な顔立ちで背は170弱くらいかな,若干低めだ。髪質もいいし,普通にしてたらモテるだろうな。
そんな状況の割には冷静な分析はいいとしてなぜ俺,夕凪 奏は追われているかというと,30分前に遡る。
あ,ちなみに女っぽい名前だけど,俺♂だから。
「むぅあてぇぃといってぅえいるどぅあろうがぁぁぁ!!!」
うっせぇ。あぁ…卵が。
───30分前───
学校も終わり,買い物も済ませ,さて帰宅して晩飯の用意でもしようかと考えていた時に,奴は唐突に現れた。
っつーか,道端に倒れてた。うつ伏せに。
こりゃいかがいたしましょうか。
人として倫理的に行動するなら助けるべきだ。しかし,怪しすぎる。このご時世に道のど真ん中でぶっ倒れてるなんて。
新手の詐偽か?
はたまたテレビか?
もしや政府の陰謀!?
なんて道のど真ん中でぶっ倒れてる人を道のど真ん中で見つめ続ける俺。すると奴は動きだした。
「うっ……助けてくれぇ……」
今にも天に召されそうな弱々しい声だ。ホントに辛そうだし助けてやろう。
「あぁ…どうしたんっスか?どこか具合でも?」
ぐぅぅぅぅぅ。
なんだ!?なんの鳴き声だ!!?
「腹減った……」
お腹の音でした。
腹減ってただけかよ!!
………
「…家でなんか食いますか?作りますよ?」
助けると決めたからね。これくらいじゃ考えは変わらないよ。
「蟹が食いてぇ。タラバ。」
前言撤回!!やっぱ止めた。
意外に元気だし。
「ないっすよ。それでは。」
早く帰って飯作ろ。俺も腹減ってきたなぁ。
立ち去ろうと回れ右をした瞬間,右足の脛辺りを掴まれた。
くっ…行動が一瞬遅れたか。
「じゃぁ毛ガニでいいよ。」
「だから,カニはねぇつの!!」
さっさと振りほど……けねぇ!?
てか痛ぇ!!すげぇ握力!!メキメキいってまぁす♪マジ痛ぇよ!!
「お願〜い。あまりに美形だからって見捨てないで。」
違ぇよ。元気な変人だから見捨てるんだよ。
つーかそろそろ折れるって!!
「だぁぁぁ!!もう離せって!!」
ゴキン!!
眉間に踵♪
言っておくが俺は酷いことはしてないぞ。正当防衛だ,うん。
「地味に痛ぁぁぁぁぁい!!」
眉間を押さえて転がりまわる変人。
今がチャンス!!その足の速さから“快速王子”と呼んだやつをたこ殴りにした俺に撒けないものはない。
さらばだ,変人よ。
「痛ぇ…むっ!!…フフフ,俺様から逃げられると思うなよ。」
ん?後ろから嫌な気配が……
速っ!!もう追い付かれそうだし!!
「待ってぇ〜。」
甘ったるい声を出してるのとは裏腹に凄まじいスピードだ。しかぁし!!ここで変人に捕まっては“快速王子”と呼んだやつをたこ殴りにした面子が立たん!!負けられねぇ。
「ついて来んじゃねぇ!!」
「走ってるものを見ると追いたくなるのが人ってもんさ。」
───そして現在───
「ここがおまえん家か〜。」
負けました。撒けませんでした。撒けなかったけど負けました。
屈辱……。
「あぁ,もう…入れば?」
「お邪魔〜。」
ピョコピョコ跳ねながら入って行きやがった。
さっきぶっ倒れてたくせになんでこんな元気なんだ。やはり詐偽か?
まぁいいや。飯食ったら帰ってもらお。
「飯食ったら帰ってくださいよ?」
「俺様はここに住むことに今決定したから。」
………
ぬぁんだってぇぇぇぇぇ!!!?
「後,俺様は正確には人間じゃないから。」
ぬぁんだってぇぇぇぇぇ!!!?
「後,俺様は超美形なん……気付いてたの?」
うっせぇ。