いわゆるひとつの誤解です
隣の席のあの子は、いつも窓の外を見ている。
休み時間になって、他の女子は友達と話したりしているのに、彼女はいつも窓の外を眺めてばかりだ。
彼女はいつも何を考えているのだろう。
友達がいないのかといえばそんなことはなく、一人で昼食を食べるようなことは全くない。
それでもついつい彼女のミステリアスな部分にぼくは惹かれてしまうのだ。
彼女がぼくの隣の席になったのは偶然でしかないのだが、彼女が隣にいるだけでぼくは幸せな気持ちになれる。
窓の外を眺める彼女の横顔を、彼女に気づかれないようにそっと盗み見る。
ふっくらした頬が、彼女の愛らしさをより一層引き立てる。
その頬に触ってみたい。
彼女は、誰かに触ってもらいたいと思っているのだろうか。
それとも、どこかの誰かがもうすでにそんなことをしているのだろうか。
まだ誰もそんなことをしていないなら、ぼくがその「誰か」になれないだろうか。
ぼくはいつもそんなことを思いながら、教科書を見るふりをして彼女を見る。
彼女と話がしたくて、意味もなくノートを貸してもらったりシャーペンの芯を分けてもらったりと回りくどいことをずっと繰り返している。
「ねえ」
ぼくの視線を知ってか知らずか、彼女が不意にぼくに声をかけた。
彼女のほうからぼくに声をかけてくるのはとても珍しく、ぼくはつい上ずった声で返事をした。
「これ、読んで」
そう言うと彼女は、ぼくに小さく折った紙を手渡した。
「な、何これ」
ぼくは暑くもないのに体から汗が出るのを感じていた。胸の鼓動が高鳴る。
なんだこれは。
なんでこんなものをぼくに渡すんだ。
こ、これはもしや…。いやこんな教室のど真ん中で?誰かに見られでもしたらどうするんだ。
いろんな想像が頭の中を駆け巡った。
ただでさえ手汗をかきやすいぼくは、すっかりびしょ濡れになってしまった手でその紙を広げた。
席替えのクジ引きだった。
おわり