第4話 パスが出来ないと駄目なんです
「練習試合をご覧になった感想はいかがですか?」
「翔太くん、5ゴールも決めて凄かったです。」
法子と北原先生は、校庭のベンチで話をしている。
ひよこサッカークラブの練習が終わり、子供達もみんな帰ったのだ。
「はい、彼いつもそのくらいは決めます。
ただゴールするのはほとんど彼だけ。
そして翔太くんのアシストは常にゼロです。
何故なら、翔太くん、誰にもパスしないから。」
「確かに、翔太くんパスして無かったような。」
「パスをもらうことはあっても、パスはしない。
ほとんど、敵からボールをぶん取ってドリブルして、シュート、その繰り返しです。
凄いテクニックです。
でも、それじゃ駄目なんです。」
「それが問題?」
「はい、サッカーはチームスポーツです。
彼がやっているのは個人スポーツ。
チームが力を合わせて勝つから意味があるし、みんな楽しいんです。」
「確かに翔太くんのチーム、誰も楽しそうじゃ無かった。」
「先日、このままじゃいけないと思って、翔太くんに言ったんです。もっと人を信頼してパスをしなさいって。
そしたら、彼言ったんです。
下手な奴にパスしても、どうせ取られるから意味無いって。」
「そんなことを翔太くんが。」
「それから、長く彼と話をしてて気づいたんです。」
「何をですか?」
「この子、パスをしないんじゃなくて出来ないんだって。」
「そんなことあるんですか?あんなに上手いのに。」
「小さい頃サッカーを始めた時、普通二人とか三人でボールを蹴りあって始めるじゃないですか。
でも、彼ずっと一人で練習してきたんです。
ドリブルしたり壁にシュートしたり。
だから、当たり前のパスの経験が無いんです。
パスはボールの交換であり、信頼する気持ちの交換なんです。
彼がパスを出来ないままじゃ、絶対駄目なんです。
変わらなくちゃ。
これから先、ずっと一人ではやっていけないんです。」
「確かに翔太くん、クラスでも孤立してていつも一人ぼっち。私もなんとかしないとと悩んでました。」
「パスをして、チームメイトを信頼して次のパスのスペースを作ったり、裏に走ったり出来るようになれば、彼はプロサッカー選手も夢じゃないんです。
その位のポテンシャルはあります。
でも、このままじゃ、プロサッカー選手どころか、普通の社会でも厳しいでしょう、、
まあ、会社とかで揉まれて、大人になった後で気付くかも知れませんが。」
「それじゃ遅いです。
小学校時代に友達との思い出とか作れないじゃないですか。
私がそうだったから分かるんです。
ガリ勉でひとりぼっちだった私だから。」
「私に考えさせてください。
クラスのひとりぼっち、翔太くんだけじゃ無いんです。
あと二人。
翔太くん変わったら、パス出来るようになったら、ひよこサッカークラブの子供達は受け入れてくれますか?」
「それは僕が保証します。みんな翔太くんの技術や努力は認めてるんです。
ただ、あんな上手い奴が俺なんかにパスする訳無いだろう。下手に貰ってシュート外したら恥ずかしいし、
って思ってるんです。でも、みんな本当は上手い翔太くんに信頼して欲しいんです。」
「来月、隣町の小学校の大鷹サッカークラブと練習試合があります。
ひよこは一度も勝ったこと無いんです。
翔太くんの個人プレーは彼らには通用しません。
三、四人で囲まれて終わりです。
彼がパスをしないのが分かってますから簡単です。
サッカーは勝ち負けだけじゃないのは分かっています。
でも翔太くんがみんなを信頼してパス出来るようになれば、チームが一丸になれば、きっとひよこが大きな鷹に勝てるんです。
僕は、そう信じてるんです。」
〜翔太くん、ずっと一人で練習してきたんだね。
いつもボロボロのボールを大事に抱えて、学校来てるの先生知ってるよ。
いっぱい頑張ったね。
でも、、、ひとりぼっちはさみしいよ。〜
「あれっ、汗が出てきちゃった、止まらないよ。」
帰り道、沈む夕陽が照らす法子の頬を、止まることなく涙が伝っていったのだった。




