第33話 もものひよこ初ゴール
翌日、法子とももちゃんのお母さんは、ひよこの練習を眺めていた。
「サッカーって不思議ですね。
北原先生が、パスは信頼する気持ちの交換だって言ってたけど、ほんとそう。
ももちゃん、今日入ったばっかりなのに、声掛け合って、パスして、走って、喜んで、ハイタッチして、ずっと一緒にやってるみたい。」
「ほんとに、不思議です。
ほんの少し前まで、私、どうしたらいいか全然わからなくて。
出口の見えない暗闇にいるみたいで、、。」
「ももちゃん、髪切ったんですね。
ショートカット、とってもかわいいです。」
「はい、日本の有名なサッカー選手の小学生の時の動画を見せてきて、お母さんこれにしてって。」
「そうなんですか。」
「ひよこの試合見てる時、選手じゃないひよこの男の子に名前ほめてもらったって。
なんでも、世界で活躍してるすごい選手と同じ名前だって。
漢字は違うみたいなんですが、ひらがなが一緒だからいいのって。
帰ってから、ずっとその選手の動画見てたんです。
すごいよ、お母さん、私決めたよ。
この人と同じ髪型にするって。
絶対、後悔しないからお願いって。」
「選手じゃないひよこの男の子、、。
はい、孝太くんと裕太くんですね。
2人はひよこの頭脳で、北原先生も信頼してます。
大鷹に勝てたのも、2人のおかげだって。
優しくて、とっても頼りになるんです。」
「小学生なのに。」
「そんなの関係ないんです。
ひよこでは。」
「それと、ももちゃん、翔太くん前と変わらないって言ってたけど、ちょっと違うんです。
あの2人と出会って、一緒に頑張って、そして昔の翔太くんに戻ったんです。」
「えっ、そうなんですか。」
「はい、いい出会いは人を変えるんです。
とっても素敵な方向に。」
「広田先生、授業はどうしたらいいでしょうか?」
「ゆっくり、ゆったりでいいんです。
まずは、ももちゃんのチャレンジした気持ち、練習がんばったこと、みんなと楽しくお話ししたこと、笑顔、全部いっぱいほめてあげてください。
実のところ、勉強を数ヶ月しなくたって、人生には何の影響もないんです。
でも、心が壊れたら、、治すのは大変です。
私も壊れかけたから、よくわかるんです。
ももちゃんがその気になったら、私に言ってください。
いちばんいい方法を、一緒に考えさせてください。」
「はい、ゆっくりでいいんですね。」
「はい、ゆっくり、ゆったり、それがいちばんです。」
グラウンドに歓声が響いた。
「もも、ナイスゴール!」
翔太の声が響く。
翔太のアシストで、ももがゴールを決めた。
電光石火のカウンターからのゴールだ。
みんながハイタッチで、もものゴールを祝っている。
「ももにやられたぁ、、、。」
かなの悲しげだが、ちょっと嬉しそうな声が聞こえる。
「あら、ももちゃん、ひよこ初ゴールです。
お母さん、今日ほめることがもう一つ増えましたね。」
「はい、、。」
思わず、法子とお母さんも笑顔でハイタッチを交わしていたのだった。




