第29話 北原先生の約束
「俺、たぶんその子知ってます。」
「えっ、翔太くん、思い当たる子いるの?」
「はい!幼稚園の時、一緒にサッカーしてましたから。
そんな凄い運動能力持つ女子は、うちの学校には一人しかいないし。」
「えっ、その子サッカー出来るの。」
「出来るっていうか、運動能力とセンスは抜群です。
幼稚園の時だからそれ以上は分からないけど。
運動会で見たけど、今でも足は俺より早いと思う。
ただ、、、最近学校で見てないけど。」
「学校で見てない、、あっ、分かった、4組のももちゃん。
北原先生、ももちゃん、運動会のすぐ後ぐらいからずっと休んでるんです。」
「広田先生、一応、担任の先生に今の状況を聞いてみてください。」
「はい、4組の担任は藤田先生です。
明日、聞いてみます。」
「時間もあまりないし、荒鷲との試合には現実的に厳しいかな。
しかし、長い目で見れば、ちぃ、かなに続く女子の後継者が必要なのは確か。
広田先生、やんわり無理のない範囲で当たってみてください。」
「まずは、今のひよこの戦力で荒鷲に対抗する方法を考えよう。
まずは、出来ることからやっていく。
堅守速攻のチームへの対抗策として、カウンタープレス、サイドアタック、サイドチェンジ、ラインコントロール、いろいろ策はあるが、ひよこの限られた現有戦力を考えて現実的な作戦を練らないとな。
孝太、裕太、翔太、そしてかな、荒鷲の資料は至急用意する。
徹底的に分析し、ひよこに合った作戦を考えてくれ。
それから、低学年の子たちへの指導も引き続き強化していく。荒鷲の下級生も相当手ごわい。
ひよこの下級生が、自信を付けるチャンスだ。
俺も頑張って指導するが、みんなも協力してくれると助かる。
この間の試合から、ひよこに入りたいって下級生が増えてるって聞いてるしな。」
「北原先生、下級生への指導について、何かいいアドバイスとかあると、ありがたいんですが。」
「かな、すまんすまん。
一番大事なことを言ってなかった。
悪かった。
俺がサッカーやってて、ずっと心に刻んでいることがある。
昔、小学校の時のサッカーのコーチ、すなわち俺の恩師の教えだ。
俺はコーチから教えてもらって以来、ずっとそれだけは守っている。
簡単なことだ。
自分がされて嬉しいことをする、自分がされて嫌なことはしないってこと。
自分が教えられる立場になったら、こう教えてもらったら分かりやすい、こうほめてもらったらやる気が出る、こう注意されたら納得する、っていう風に、相手の立場になって考え、教えること。
まずこれが大前提。
それと、忘れちゃいけないのは、人は運動能力も体の作りも、心もそれぞれ違うってこと。
同じことを教えても、簡単に出来る子もいれば、なかなか出来ない子もいる。
すぐに理解出来る子もいれば、さっぱり理解出来ない子もいる。
当たり前、人はみんな違うんだ。
とかく、こんなに丁寧に教えてるのに、なんで分からないの、なんで出来ないの、って思いがちだが、そういう事があるのが当たり前なんだ。
一生懸命教えても、相手がなかなかうまく出来ない時、まず、どうしたら出来るか考える。
違う方向からアプローチしたり、その子にあった新たな指導方法を考え、切り替えることも必要なんだ。
もし、下級生の指導がうまくいかないことがあったら、どんどん俺に相談してくれ。
俺、そしてみんなで、いい方法を考えよう。
とはいえ、自分がされて嬉しいことをする、自分がされて嫌なことはしない。
これが、全ての基本となるの考え方だ。」
「北原先生、ありがとうございます。
いいアドバイス、ありがとうございます。
すごく分かりやすいです。」
「うん、分かりやすい。」
「それ、いいね。僕も使おう。」
「俺もやってみる。」
「北原先生のアドバイス、すごく分かりやすいです。
自分がされて嫌なことはしない。
それだけでも、みんなの当たり前になれば、いじめなんて無くなるのに。」
「まあ、それも含めて、人間ってことです。
簡単なようで、なかなか難しい。
俺もよく周りから言われましたよ。
北原、お前、甘すぎるぞ。
後輩育て過ぎて、結果ポジション取られてバカじゃね、とか。
でも、俺は、それなら、もっと練習し上手くなってポジション取り返えせばいい、と思ってずっとやってきた。
それだけは、譲れないんです。
あの人に約束したから。
俺の気持ちは、これからも変わらない。
俺はひよこなら、甘いと言われたサッカーで勝てると思っている。
いつか、それがみんなの当たり前になることを目指して。」




