第26話 横浜たそがれ
今日法子は、まゆちゃん、ゆきちゃんと、久しぶりに横浜の恭子先生宅に来ている。
みんなの近況報告をしている中で、ひよこプロジェクトについてもお話したのだ。
「まあ、そんな素敵なことがあったなんて。
法子ちゃんがんばったね!
うさぎ係のことがきっかけだなんて、私も誇らしいし嬉しいわ。」
「子供の成長ってことだけど、私自身、最近いろいろ考えることがあって。
教師として、もっと私に出来ることあったんじゃないかって。」
「恭子先生が、、ですか。」
「ええ、何十年も先生やってたから、教え子の卒業生いっぱいいるでしょ。
もちろん、いい話が多いんだけど。
時々、あまり良くない話も聞くの。
卒業してから、悪い方向に進んでしまった子の話を。
弱い子をいじめたり、引きこもりになったり、心を病んだり、ときには警察のお世話になることまで、本当にいろいろ。
でも、その子達みんな、小学生の時は本当に明るくていい子、優しい素敵な子だったの。
でも、何故か歯車がおかしくなってしまったの。
どうして、、、あの子が、って驚くの。
それで、私にもっと出来ることあったかもって。」
「でも、それって、恭子先生のせいじゃないです。」
「私も、出来ることは精一杯したつもりだけど。それでも、、悲しくて。
どうしてきれいに回ってた歯車がおかしくなったか。
私考えたんだけど、それって、いい事をしたとき周りがちゃんと喜んだり、ほめてあげてなかったのも大きいと思うの。
挨拶をちゃんとしたとき、掃除をしっかりしたとき、お友達に親切にしたとき、何かを頑張ったとき、誰かが凄いがんばったねって、たくさん喜んで、ほめてあげてたら、違う結果になったかも、って。
もっと、いい方向にぐんぐん伸びたんじゃないかって。」
「今、お父さんお母さんも凄く大変。
子育て、家事、仕事、夫婦関係、毎日子供をほめてる時間や余裕なんて無いのかも知れない。
一概に責められない。
家庭それぞれ、いろんな事情があるでしょ。
だったら、せめて小学校の中では、いっぱいほめてあげたいの。
よく、そんなほめてばっかりいたら、子供が調子に乗るとか言う人いるけど。
いいじゃない、調子に乗ったって。
ほめられたからもっと挨拶する、ほめられたからもっとお掃除する、ほめられたからもっと勉強や課外活動とか頑張る。
いい事をほめる分には、悪いことなんて一つも無いの。
悪いことをしたら、当然しっかり指導しなくちゃいけない。
でも、いつもいい事したらちゃんとほめてあげていたら、厳しい話も聞いて反省してくれると思うの。
全然ほめてくれないのに、いつも怒られるばっかりじゃ誰でも嫌になっちゃう。
特に小学生の年齢ではね。
だから、ひよこプロジェクトのお話、私、凄くいいなって思ったの。」
「確かに今のお母さん余裕ないかも。
私、スーパーでうっかりペットボトルを何本も落としちゃった時、小さい男の子が拾うの手伝ってくれたんです。
そしたら、お母さんが来て言ったんです。
うちの子がまたなんかしたんですか、すみません。全くこの子はって。
私、慌てて、いえ、私が落としたの拾うの手伝ってくれたんです、優しいお子さんですね、って言ったんです。
その男の子、お母さんにいい子されてすごく嬉しそうだった。」
「まゆちゃん、私もそういうことあるよ。
スーパーでビール買おうとしてたら、女の子が、わっ、お父さん好きなのだって、缶ビール6本セットを持ってこうとしたの。
でも、子供には重くて落としちゃった。
そしたらお父さんが、またイタズラしてって怒ってて、その子泣き出しちゃった。
お母さんも、いろんなもの触らないでって全然フォローしないし。
その子、わたし、、わたし、、って、何か訴えてた。
お父さんに喜んでもらいたかったのに、結果として怒られてて凄く可哀想だった。
私も、その子の気持ち分かるから、凄く悲しくなっちゃった。」
「二人の話よく分かるわ。
子供は、ほめてもらいたくて、喜んでもらいたくていろいろやるの。
でも、うまくいかなくて失敗することもある。
でも、その度に叱られてたら、積極的には何もしないでいようってなる。
子供の心はガラス細工みたいだから、ちょっとしたことで傷つくの。
傷つくだけなら何とか回復出来るかも知れないけど、割れて壊れてしまったら元に戻すのはとても難しいわ。
教師ができることなんて、ごく一部。
でも、やっぱり少しでもいい方向に進んで欲しいの。
だから、私も、ひよこプロジェクト応援するわ。」
「私、ひよこのコーチ北原先生が凄いなって思うのは、下級生の試合が0-7で負けても、全力を尽くしたからって100点満点あげるんです。
俺、むちゃくちゃ感動したよって。」
「北原先生、とっても素敵な方ね。
私、小学生、特に低学年の子には、ハードル低くていいと思うの。
それこそ、1cm位、ちょびっとだけ。
チャレンジしたから100点、がんばったから100点満点て感じね。
北原先生はそれができる人だと思うわ。
それに、子供をちゃんと一人の人格として認めるのって以外と難しいこと。
法子ちゃん、いい同僚に出会えて良かったわ。」
「恭子先生、なんと、その北原先生にのりちゃんがほの字なんですよ。
黒パン、キャー、パクっ、とか言って、まあ、かわいいもんです。」
「まゆちゃん、、やめてぇ、まんず、恥ずかしいっす。」
「あらまあ、びっくり、そうなの。
いいんじゃない、北原先生。
私、全力応援するわよ。
ふふっ、黒パン。
どんだけ黒いのか、私も見たくなっちゃったわ。」
「恭子先生ぜひぜひ!じゃ、いつにしましょうか。
黒パン見学会。」
「ゆきちゃんまで、、、、
なんでそうなるの、!!!。」
たそがれの横浜に、法子の声が響いていたのだった。




