第10話 ちぃちゃん
「ひよこ勝利プロジェクトの成功に!
ハムカツとビールで乾杯。」
法子は、北原先生の誘いで駅前の居酒屋に来ている。
北原先生と6年3組の担任の千葉先生も一緒だ。
「お誘いありがとうございます。
すっごく嬉しいです。
この店気になってて、ここ個室あるんですね。」
「いやあ、保護者とか来るんで個室がいいんです。
たまに千葉先生と隠れてこっそりやってます。」
「ひよこの勝利へのプロジェクト、いよいよ始まりましたね。」
「いやあ、全ては広田先生の情熱があってのプロジェクトですよ。」
「私は、ただ孤立している3人にチャンスを作りたくて、何かないかなと考えてて。
北原先生からひよこの試合の話を聞いてお願いしたんです。ダメもとで。」
「北原先生は?」
「俺もちょうど翔太にパスの課題があって、渡りに船って言う感じです。
大人がやれって言うだけじゃ、変わらないんです。
本人が納得して自主的に取り組まないと。
おっ、これいい機会だなって。
それに、何かこのプロジェクトやったら、ひょっとしてひよこが大鷹に勝てるかも、そんな予感がしたんです。
根拠ないけど。」
「北原先生の、根拠ないけど、っていいですね。
何か勝てる気がしてきます。
大人も子供も同じ、ただやれって言われても、自分が納得してなかったら続きませんよ。
紙に書いてサインするのは、どんな意図で?」
「俺は単に口約束忘れちゃうから、いいなって。
コピー渡して、家帰ったら部屋に貼っとけよっていったら、みんな頷いてたし。
俺はトイレに貼るけど。」
「私は、約束したことを紙に書き出しサインする過程で、その都度自分事として理解し、納得できると思うんです。
2番目に書いた、朝登校したら、みんなに、おはようって挨拶することとかって、今まで一回もしてないから、誰だって難しいじゃないですか。
でも目的が、ひよこプロジェクトを成功させるには、クラスのみんなの応援が必要だって理由があると、ずっとそのハードルが低くなると思うんです。
サッカーチームは、サポーターの応援が力になるってことはみんな分かってますから。」
「確かに、決まり事だからやれって言われるより、理由が明確だと遥かにやる気になりますね。」
「でも私、明日の朝3人がみんなおはようって挨拶してくれるか、、ちょっと心配。」
「それって、挨拶しなかったらどうこうみたいな罰則とかあるんですか?」
「何も無いです。あくまで、みんなで努力しましょう、出来なくても全然いいですよ、ってだけです。」
「俺、多分やってくれると思う。
根拠ないけど、みんなそんな顔してたし。」
「私もそんな気がします。
きっと、朝おはようって入って来ますよ。
何せ、チーム、ひよこの勝利のためですから。」
「ありがとうございます。
ちょっと勇気が出てきました。」
「ところでひよこと言えば、うちのクラスのちかこ、ちぃちゃんのほうが分かりやすいかな、いつもお世話になってます。」
「あっ、あのステルスちぃちゃん!
いやあ、あの子にいつも背後を取られて肝を冷やしてますわ。
いつの間にか俺の背後を取って、背中をつんつんしてくるんです。
〜つんつん〜先生、おはようございます!
おおっ、びっくりしたぞ。
てな感じで。」
「はははっ。北原先生もちぃちゃんにつんつんされましたか。
ちぃちゃんクラスで一番小さいのもあるんですが、とにかくすばしっこいんです。
サッカーが大好きで、男の子ばかりの中、ずっとがんばってきました。」
「ひよこって女の子何人いるんですか。」
「2人です。ちぃちゃんと5年生のかなちゃん。
かなちゃんは大きいし、うちのディフェンスの要です。ちぃちゃんはチームのマネージャー的な存在で、すごくがんばってくれてます。」
「6年生は来年の春には卒業だし、私は大鷹との試合がちぃちゃんにとっていい思い出になるといいなって思ってます。」
「北原先生、ちぃちゃん、大鷹との試合に出るチャンスありそうですか。」
「うーん、大鷹はガタイのいい男の子多いし正直難しいかなあ。怪我して欲しくないし。
ひよこプロジェクトで、全ての選手の特性を見てもらうことになってるから、彼らがどう考えるか。
俺に思い浮かばないような、ちぃちゃんの役割とか発見してくれるかも。」
「そうなったら私も嬉しいです。
ちぃちゃん、中学行ってもサッカー続けたいんです。
でも、親御さんからすると怪我とか心配で、本当はやめて欲しいみたいなんです。
今度の試合に、親御さんきっと応援に来ます。
私は、ちぃちゃんがサッカーを続けるのを、お父さんお母さんがこれからも応援する、一つのきっかけになったらいいなって思ってるんです。」




