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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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 このままではまずい、とローユンは危惧する。


 止めてやってほしい。


 視線でイーライに求めるが、イーライはかすかに首を振っただけで、動こうとはしなかった。


「勝手にしなよ。

 貴奈津はいつだって、自分の好き勝手にしてるじゃないか」


「そ、それは……」


 そうかもしれない、と、貴奈津は内心肯いてしまう。


 しかし、ここで引いてしまうわけにはいかない。


 けんかは怯んだほうの負けなのだ。


 半ば姉としての意地である。


「それがなんだっていうのよ!」


 言いかえすが、ほとんど意味は伴わない。


 これでは月葉の台詞と大差ない。


「なにも」


「あっ、わかった。

 月葉、もしかして、今朝のことを根に持ってるんでしょ?」


「なんだって?」


「わたしがローユンと二人で出かけちゃったこと」


「誰もそんなことは言ってないだろ!」


「うそね!

 原因はそれに決まってる。

 だから月葉、朝からずっときげんが悪いのよ」


 必ずしも、間違いではなかった。


 しかしまた、それだけでもないのだ。


 鬱積したものが表に出る、引き金とはなったかもしれないが。


「決めつけるな!」


「だって、そうなんでしょ。

 一緒に行きたかったんなら、そう言えばいいのよ。

 まったく、素直じゃないわね」


「どうして貴奈津は、そう単純なんだ!

 なんにも考えていないだろ!」


「いつまでもいじけている月葉よりましよ!」


 まったく無意識に手が出ていた。


 いじけている、という一言が、月葉の急所を突いたのだ。


 まさに図星、そして向きあいたくなかった真実。


 パシッと音をたてて、月葉の平手が貴奈津を打った。


 間髪入れず、月葉が叩き返される。


 手を出したのはローユンだった。


「えっ……」


 貴奈津がそれきり絶句して、月葉は茫然自失、そしてローユンが自分のしたことに愕然とする。


 有り得ないと思っていた、ローユンが仲間に手を上げることなど。


 貴奈津の驚きはそれに尽きた。


 自分が月葉に叩かれたことも、最近なかったことで、少しはびっくりしたけれど、そんなものの比ではない。


 目の前で起こったことが、貴奈津にはとても信じられなかった。


 月葉の受けた衝撃は、さらに大きい。


 心の底では月葉も信じていた。


 決してローユンは自分を突き放すことはないと。


 その甘えが、打ち砕かれたような気がした。


 自分のせいだ。


 だけど、どうしてローユンがぼくを。


 ローユンはたちまち後悔していた。


 そんな馬鹿な、月葉を叩くつもりなどなかったのに。


 なぜ、こんなことをしてしまったのか。


 痛恨のきわみである。


 レイが手すりのかげで息を凝らす。


 イーライがようやっと壁を離れた。


「さてと、気はすんだかな、お三方」


 その声で月葉が真っ先に我に返る。


 貴奈津とローユンに背を向けると、衝動的に飛び出した。


「待ちなさい、月葉」


 止めるイーライの前をすり抜け、月葉が階段を駆け下りる。


 束の間その後ろ姿を見送って、イーライは何段か上の廊下にいるローユンを見あげた。


「きみらしくもないね」


「……」


 ローユンは深い後悔に沈んでいた。


 無言で俯くローユンを見て、イーライが優しい笑みを浮かべる。


「どうして叩いたりしたの」


「……なんとなく」


 ローユンらしからぬ呟きをもらす。


 しかしイーライは、今度は声に出して嬉しそうに笑った。


 なにを考えているのか、よくわからないヤツである。


「いい答えだ」


 そして月葉を追うために踵を返す。


「わたしがなんとかするよ、心配するな」


 階段の途中で振り返り、イーライは言った。


 とりあえずけんかは収まったと見て、レイが手すりの陰から顔を出す。


 残された貴奈津と ローユンの側へ、レイがよろよろと飛んで来た。


「おい、おまえたち。

 まさか、仲間割れしちゃったんじゃないよな」


 もしそうなら一大事である。


「違うわよ、そんなたいそうなことじゃないわ」


「だけど……」


 垂れ下がったヒゲは、レイの不安を表している。


「心配しなくていいのよ」


 オーバーオールを掴んで、貴奈津がレイを引きよせる。


 抱っこして背中の毛皮を撫でてやる。


「月葉は少し怒っただけ。

 大丈夫、すぐ戻ってくるわよ」


「そうかあ?

 あれが、少しかあ?

 ちょっと怒ったくらいで、おまえを叩いたりするのかあ?」


「あんなの叩いたうちに入らないわよ。

 触れたって言う程度ね」


「痛くなかったか?」


「ぜんぜん。

 でも、月葉がわたしに手を上げるなんて、このところなかったから、ちょっと驚いたけど」


 まだ小さかった頃は、取っ組み合いのけんかなどざらだった。


 それがいつの頃からか、貴奈津が手を出しても、月葉はやり返さなくなった。


 これでは貴奈津としても、一方的に暴力を振るうわけにはいかない。


 だからここ数年は、姉弟げんかといえば口げんかだ。


「やっぱり、すごく腹を立てたんじゃないのか?」


「うーん、そうかもね。

 わたし調子に乗って、ひどいこと言っちゃったもんね。

 あとで月葉に謝らなきゃ」


「いや、謝らなければならないのは、わたしのほうだ」


 ローユンが首をふる。


 腕組みして、反省しきりという表情をしていた。


 自分のしたことが、かなり堪えているらしい。


「反射的に手が出ていた。

 なぜだか、自分でもわからない」


「ふうん、ローユンでもそんなことあるのねー」


 口調が感心している。


「こんなふうに、抑えがきかなかったのは、初めてだ」


「わたしも驚いたわよ」


 返す言葉もなく、ローユンが目を伏せる。


 その様子を見て、貴奈津はなんとなく嬉しくなった。


 ただし理由はわからない。


 レイの背中を撫でるのをやめ、手を伸ばしてローユンの肩をポンポンと叩く。


「気にしない、気にしない。

 おさえがきかないこと、わたしなんてしょっちゅうよ」


 これでも、なぐさめているつもりだ。


 心遣いはローユンにもわかる。


「すまない」


「月葉はなにも悪くないのよ、悪かったのはわたしのほう。

 だからもう、わたしの代わりに、月葉を叩いたりしちゃだめよ」


「代わり?」


「違うの?」


「……」


 しばしローユンは沈黙して、首を傾げる貴奈津を見つめた。


 貴奈津の腕の中で、レイも首を捻ったが、そちらはローユンの眼中にない。


「……わかった」


 肯いて、ローユンが微笑を取り戻す。


 ついで貴奈津の背に片手を回すと、


 ローユンはその肩に顔を伏せた。


 本当は抱きしめたかったのだが、レイがじゃまだったのだ。


「わかったよ、貴奈津」


「よかった」


 すぐに触れてくるのは、ローユンのいつものパターンである。


 貴奈津はそう思った。


 レイの毛皮を撫でる気分で、ローユンの背を叩いてやる。


 今までとは、微妙にパターンが違っていることに、貴奈津はてんで気付かなかった。


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