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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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 ローユンが障壁の一部を緩めている。


 そこへ誘導されてくるのだ。


「うまくいったってことか。

 ウアアッ、だけどやっぱり心配だーっ!」


 頭を抱え、レイは一秒ごとにプラズマ流とローユンに目を往復させた。


 何度目かに視線を戻したとき、光の中でローユンがすっと前方を指さす。


 口が開いて、なにごとかを叫んだ。


 その言葉をレイは瞬時に理解した。


「来るぞ!」


 勘が良いのではない。


 この状況である。


 見ていれば誰にでもわかる。


 内壁一面を激しい衝撃が襲い、シールド内が束の間紫白色の光に溢れる。


 異世界宮殿の姿さえ霞む強烈な閃光。


 その時、なにかがシールドを突き抜けた。


「来たーっ!」


 紫色の尾を引く光球だった。


 それが異世界宮殿のシールドを貫き、もう一つのシールドに飛び込む。


 同時に光球は炎と化す。


「なによ、なにが来たのよ!」


 展開した五人の前に、炎の激流が流れ込む。


 五人を飲みこむ寸前、火炎は目に見えない壁に激突した。


「キャーッ!」


「怯むな」


 火炎を防ぎつつ、ローユンが剣を抜き放つ。


 発光は収まっており声が届いた。


「は、はいっ」


「これはジェーロの波動だ」


「ゲッ」


 防御壁にはじかれ、その場で炎が渦を巻く。


 流れが徐々に立ち上がり、燃え盛る炎の塊に変じる。


 物理的な火ではありえない。紅蓮の超常エネルギーによるものだ。


 その中に、くっきりと影が現れていた。


「あそこだ。

 炎の中心にジェーロがいるぞ」


「一人?」


「そうに決まっている。

 よしっこれなら勝てるぞ。

 やれ、やってしまえ、袋叩きにしてやるんだ!」


 三姉妹の姿を見ると理性が吹っ飛ぶ。


 興奮したレイに、貴奈津が同調してしまう。


「まかしといてっ」


 ついと前へ出る貴奈津に、炎の中から制止がかかった。


「お待ち」


 こう言われると、なぜか待ってしまうのが人情というもの。


 思わず貴奈津は足を止めた。


 火炎の中を悠然とジェーロが進み来る。


 しかしそれが彼女を守るバリアーなのか、炎の中からは出ようとしない。


 ゆらめく炎の壁を隔て、ジェーロと五人は向かいあった。


 ジェーロの白い肌と真珠色の長衣を、炎の斑が流れていく。


 背にかかる長い紅藤色の髪も、赤く染まって靡いている。


「こうしてまた相見える日を、わたくしも久しく待っていた」


「ボクは別に会いたくなかったぞ」.


「進歩のない生き物だこと。

 少しは物分かりがよくなっているかと思えば」


「ウガッ、おまえみたいな残虐非道なヤツに、物分かりを云々される筋合いはなーい!」


「フフ……」


 ジェーロは相対する五人をざっと見回すと、長く白い指をあごにあてた。


「この前と人数は変わらぬか。

 だが、顔ぶれは違う。

 おまえも一人で、ご苦労なこと」


 労われてしまったのはローユンである。


 時を越えて、再び仲間を集めたことを言っているのだろうが、もちろんこれは嫌味である。


「……」


 ローユンは答えなかった。


 落ち着き払ったジェーロの態度に、最初からあった違和感と疑問が深まる。


 これは果たして実体としてのジェーロなのだろうか。


 ホログラフではないようだが、どこかが違う。


 ジェーロが薄く笑った。


 その表情を見て貴奈津が眉をしかめる。


「気持ち悪い……」


 表情を一種の記号化された約束事と考えるなら、ジェーロは確かに笑っていた。


 だがまるで心が入っていない。


 あくまで目は冷たいのである。


 これは怖い。


 長衣の袖を揺らめかせて、ジェーロがローユンを指し示す。


「前々から思っていたが、おまえ、原始的な生命体としては、中々に見た目がよい。

 おまえもわたくしの僕にならぬか。

 一体くらい、生きている地球人をサンプルに取っておくのも悪くはあるまい」


 ジェーロの眼前で、炎の壁にたて一文字の切りこみが入った。


 だが、瞬時に再生される。


 貴奈津が怒りにまかせて呼青竜を振った、その余波である。


「あんたねえ、言うにことかいて、なによそれ。

 ローユンがね、あんたなんかの僕になるわきゃないでしょう!

 バカッ、バカバカバカ!」


 本来なら心臓を串刺しにするような皮肉を叩きつけてやりたいところなのだが、うまく言葉が出てこない。


 口をついたのは、芸のない罵声だった。


 ジェーロは貴奈津を一瞥したが、とくに感情を害した様子はなかった。


 堪えない性格というやつなのだろう。


「戯言に付き合うほど、わたくしは酔狂ではない」


「どっちがたわごとよっ」


「おい、ジェーロ。

 いいことを教えてやろうか。

 気取っていられるのも、今のうち。

 マヌケなおまえは気づいていないだろうが、おまえは誘き出されたんだ。

 これから袋叩きにあう運命なんだ。

 ザマーミロ」


 レイが口もとを吊り上げてケケケと笑う。


 よほど恨みが深いと見える。


「愚か者め」


 肌に炎の彩りをそえ、ジェーロが昂然として言い返す。


「なにっ?」


「このような小細工にかかるわたくしと思うか」


「え……?」


 レイの口が半開きになる。


 その左後方で、イーライが苦笑を浮かべた。


 小細工を提案したのは彼である。


「やはり読まれていたか」


 そう思うが口には出さない。


 しかし、だとすればジェーロの思惑はどこにある。


 イーライにとって気になるのは、その点である。


 立案者の責任というところだ。


 そしてもう一つ、さらなる気掛かりが彼にはあった。


「月葉の様子がただ事ではない」


 数歩の距離をおいて、イーライは月葉を観察していた。


 見守っていたといってもいい。


 極度の精神的重圧、あるいは動揺に晒されているように月葉は見えた。


 事実、その通りだった。


「なぜ、こんなに激しいんだ」


 湧き上がる嵐のような感情を、月葉は必死で抑え込もうとしていた。


「違うじゃないか。

 これがスゥーディのものなら、レイが言っていたことと、まるで違う」


 スゥーディはいつも優しかった、スゥーディはいつも冷静だった。


 レイはそう言っていたではないか。


「とんでもないぞ。

 冷静だったのは、表向きそう振る舞い、そう見えていただけなんだ。

 考えてみれば当たり前じゃないか。

 スゥーディはぼくと似たような年齢だった。

 完璧に冷静なわけがない」


 だいたい貴奈津にそっくりだというナーディの双子の妹である。


 ナーディと同じくらいの激しさを、内在させていて不思議はない。


 その激しさが、ジェーロの姿を目にした瞬間、怒りの波動で月葉の中に沸き起こったのだ。


 生きてきた時代が違う、経験が違う、異世界宮殿戦を戦い続けたスゥーディの優しさは、精神力の強さの証明に他ならない。


「でも、ここまでして抵抗することはないのかな。

 スゥーディの激しさを、ぼくは決していやじゃない、むしろ好ましいくらいだ。

 なのに、どうしても受け入れがたいものがチラつく。

 これがはっきりしたら、ぼくは今までのぼくでいられない。

 だけど……たぶんもうだめだ。

 ジェーロの姿を見ているだけで、内圧が高まる。

 一度剣を撃ち交わしたら、その瞬間にスゥーディの意識があふれ出てしまいそうだ」


 炎の色合いが変化し始めた。


 紅蓮の色から紅藤色へ。


 そして高く上へ巻き上がっていく。


 その中でジェーロの姿が奇妙に揺らぐ。


 激しい炎の奔流が、ジェーロの輪郭と同化しつつある。


「フフフ……」


 低い笑いが火炎にこもる。


 炎それ自体がジェーロの声を発していた。


「おまえたちに、小細工を弄してくれた礼をしなければならぬ」


「礼?

 礼なら、そうだな、ここで首でも吊ってくれるか。

 そうしたら、ありがたくて涙が出ると思うぞ、ボクは」


「それでは、あとの楽しみがあるまい」


「謙遜するな。

 メチャ楽しいはずだ」


 言って自分で想像したのか、ウヒャヒャヒャとレイが喜ぶ。


 人の道を踏み外した振る舞いだが、相手がジェーロなので、まあ許される。


 もう少しましな応酬をしたくなったのかもしれない。


 ジェーロはレイを見限り、視線を移した。


「おまえ、先程から何事か気にしているようだが」


 ローユンはジェーロを注視していた。


 炎の色が、紅藤からさらに青味を濃くしている。


 それとともに、ローユンの受ける違和感も増していた。


「これはジェーロではない」


 ついに断ずる。


 直感的なものである。


「フフ……やはり、おまえが一番扱いづらい。

 だが、わたくしはたしかにここに在る。

 それがわかっていないのか」


「いや、その姿は表層にジェーロの波動を貼りつけただけのものだ。

 実体は違う」


「知りたいか、それを。

 おまえが恐怖するものだと思うのだが」


「逃げ口上のつもりか。

 その姿が例え何者であろうと、斬るだけだ」


「果たして斬れるか?

 よろしい、面白いものを見せてやろう!」


 火色が瞬く間に青紫色に転じきり、ジェーロが裾を翻して飛び退る。


 真珠色の長衣が巻き上がり、綻ぶように見え、火炎の中心部でジェーロの姿は火塊を貫く白光となった。


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