表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/102

59

 イーライのベッドに寝かされ、月葉は天井を見上げていた。


 意識はしっかりしているが、 手足の先がまだ痺れている。


 同じベッドに腰かけて、イーライが月葉の顔を覗き込んだ。


「強力すぎたかな。

 ちょっと手を動かしてごらん」


 ベッドに置かれた手を取ると、月葉がそれを振り払った。


「触るな!」


「あ、それだけ動けば大丈夫。

 あと二、三十分というところかな、もとに戻るまでね」


「一般市民に麻痺銃を使うなんて犯罪行為だ。

 監督局に密告して、ライセンスを取り上げてやろうか」


「貴奈津に知られてもいいの?

 二度も麻痺銃で失神させられたと」


「あなたのそういう嫌みなところが、ぼくは大っきらいなんだ」


「わたしは好きだけれどね、きみが」


「……少し黙っていてくれ」


 時機を逸して、月葉の怒りはだいぶ治まっていたが、おとなしくベッドに寝ているのはイーライが見張っているからである。


 痺れが完全に取れないうちは、イーライに抵抗しても勝ち目はないと判断したのだ。


 それどころか、じたばたすると、今度はなにをされるかわからない。


 今イーライは徴笑んでいるだけだが、やるときは、どんなあぶないことでもやるのではないかと月葉は警戒していた。


「とにかく、月葉。

 さっきから何度も言うように、ローユンのことは誤解だからね。

 そのへん、ちゃんとわかったの?」


 黙っていろと言われて、黙っているようなイーライではない。


「うるさいな、わかったよ。

 だけど……」


「やっぱり許せない?.」


「……」


「困ったね。

 きみは重度のシスコンだな」


 はね起きようとした月葉を、イーライがなんなくペッドに押しもどす。


「手をどけろ」


 月葉の胸を、イーライが抑えつけていた。


「まあ、黙って聞きなさい。

 年長者の意見は聞くものだよ」


「相手による」


「ごもっとも。

 しかし、わたしの意見は聞く価値があると思うがね」.


「思わない」


「可愛くないな。

 どうしてやろうか」


「なにかしたら、あとで最低、倍にして返してやるからな。

 おぼえてろ」


 睨み付ける月葉を、少なくとも外見は涼しい顔でイーライは見ていたが、つと視線をはずすと、ついでに抑え付けていた手も放した。


「怖いから、月葉をいじめるのはやめておくよ。

 しかし、いいかげんに貴奈津から自立しなさい。

 いつまでも姉さんに心を囚われているのは、精神衛生上よろしくない。

 それは、きみにとっても不幸なことだ」


「ばかばかしい、そんなんじゃない」


「貴奈津にとっては、迷惑なだけかもしれないね」


 痛いところをつかれて、月葉は顔を背けた。


 言われるまでもない。


 考えまいとしていながら、それはいつも、月葉の心に引っかかっている点だった。


「だとしても、あなたには関係ないじゃないか」


「それが、そうもいかなくて」


 イーライは眉を寄せ、天井を仰いで髪を掻き上げた。


 こんなヤツにも、なにか悩みがあるのだろうか、と月葉は思う。


 顔を戻してイーライが、月葉の瞳を覗き込む。


 イーライの目が、ほんの少し細められた。


「正直に言ってしまうよ、月葉。

 それがきみのためだから。

 きみは貴奈津を他の誰かに取られたくないんだよね。

 いつまでも自分の側にいて欲しいんだ。

 貴奈津は良い子だ、だからきみの気持ちもわからないではないが」


「な、なにを言って……」


 血の気が引いているのか、それとも血が上っているという状態なのか、月葉にはそれすら判断が付かなかった。


「しかし、絶対に無理だね。

 貴奈津のことは諦めなさい」


「あなたはどうして、よけいなことにまで口を挟むんだ!

 ぼくのことに、構わないでくれ!」


 わめく月葉から、イーライは目を外した。


 ついで腕を組み、まじめな顔でなにやら考えはじめるが、どうせ、ろくなことではあるまいと思われる。


「やはり正攻法で諭してもだめか。

 月葉は屈折しているからね。

 と、なると、残るのはあの手しかないな」


 ぶつぶつと呟くが、これは月葉に聞かせるためだろう。


 イーライはポンと手を打った。


 いきなり口調が軽くなる。


「だから月葉、きみが姉さん離れをするために、わたしも微力をつくしたい」


「……は?」


「一番よいのは、他に相手を探すことだね。

 しかし、これが意外と難しい。

 とくにきみのようなタイプはね。

 きみは見た目がきれいで冷たいから、普通の女の子には付き合いづらい。

 そのうえ、好きでもない相手に優しくできるほど、きみは器用ではないね」


 この男は、いったいなにを言わんとしているのだろう。


 月葉は疑問と、それに少しばかり興味もひかれて、話し続けるイーライを見ていた。


「だから、月葉。

 手始めに、わたしを恋人にするというのはどう?

 きみが大人になって、本当の恋をするための第一歩だと思って。

 もちろんわたしに飽きたら、別れてあげるよ。

 まあ、心から好きになる人が現れるまで、相手を取っかえ引っかえしていけばいいんだよ」


 倫理観も道徳観もあったものではない。


 PTAには聞かせられない。


「なぜ、そうなる……」


 色んな感情に襲われたあとだったためか、月葉はほとんど虚脱していた。


 ベッドから起き上がる気力も失せている。


 この男、いったいどこまで本気なんだ。


 どうも本心とは遠いような気もするが、もしかすると全て本音ということも考えられた。


 だとすると、とんでもない男のような気がする。


「よい考えだろう?」


 いつのまにかイーライが真上から覗き込んでおり、月葉はぎくりと我にかえった。


「どこがっ!」


 怒鳴って月葉は、密かに手の指を動かしてみた。


 しびれはもう感じない。


 これならいけそうだと思ったとき、イーライが月葉の両腕を抑え付けた。


 肘の神経系に痺れが走る。


 その辺はさすがにプロである。


 月葉の反撃を警戒してのことだろうが、ほかに意図があるのかもしれない。


「きみの悩みを取り除いてあげたくて」


 月葉は絶対に信じないだろうが、じつはこれはイーライの本心である。


 ただしほんの一部だけ。


「よけいなお世話だ、ほっといてくれ」


「そう言うと思ったけれどね。でも、放ってはおけない。

 わたしはきみが気に入っている」


「ぼくは、あなたが大きらいだと言っただろう」


「このさい、多少のことには目を瞑りなさい」


「多少ですむか!

 手をはなせ、イーライ」


 月葉は歯がみしていた。


 どうやっても腕が動かせない。


「いいじゃないの、月葉」


「なにもよくない、勝手に決めるな!

 聞いているのか、イーライ!」


 叫き立てるのは、月葉が追い詰められている証拠である。


 後退りすらできない。


 イーライがいやに真剣な目で、月葉を見下ろしていた。


 その口もとが、薄く笑いの形に開かれる。


 しかし、いつものような明るく優しい徴笑とは、明らかに種類の違う笑みだと、月葉には思えた。


 イーライがどこまで本気なのか、月葉にはわからない。


 このような場面状況でのキャリアに差がありすぎたし、なにしろ、体勢が圧倒的に不利だった。


「イーライ、手をはなさないと異能力を使うぞ」


 最後の脅しだ。


 片手だけ、イーライが離したが、月葉は腕を動かすことができなかった。


 手を放す寸前、イーライの指が関節に食いこみ、神経を麻痺させていた。


 その手の技能には長けているイーライである。


 やはり、けっこうあぶないヤツかもしれない。


「可愛いね、月葉」


 今まで聞いたことのない種類の声に、月葉はぞくりと肌を泡立てた。


 イーライの声が優しく囁いて、甘い。


 このようなテクニックにも、なぜかイーライはことかかない。


 あまりロクな技ではないが。


 顔から血の気が失せるのが、今度ははっきり月葉はわかった。


「異能力を使うしかないかもしれない。

 でも死なせたら、少しまずい」


 少しどころの騒ぎではないと思うが、危ないことを本気で考えはじめたとき、イズマ イルの手が、月葉の腕をのぼってきた。


 肩を離れた指が、月葉のアゴにかかった。


「!」


 建物を揺るがすのではないか、とも思える絶叫が響き渡った。


 まぎれもない、恐怖の悲鳴だった。


「あれほど、過激な反応を示すとは思わなかったね」


 ベッドの上でひとり座り込み、イーライは髪を掻き上げていた。


 悲鳴に怯んだすきに、 月葉には脱走されていた。


 開け放されたドアに目をやり、溜め息をつく。


「気の毒なことをしたかな」


 そう呟いた口から、すぐに忍び笑いが漏れてくる。


「しかしじつに、からかい甲斐があるねえ」


 反省とか自己批判とかには、てんで縁のないイーライなのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ