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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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 視界に入ったのは、もつれた蔦の塊だった。


 触手の代わりに蔦を蠢かせる、人の背丈より高いイソギンチャク状の魔獣が数体。


 ローユンの出現を感知して、蔦の先端が触りと向きを変える。


 ローユンは貴奈津を探すいとまもなく、蔦の塊に相対することになってしまった。


 空気を切る音とともに、蔦が鞭のしなやかさと速度でローユンに伸びた。


 超音速衝撃波とでもいう、ローユンの異能力が蔦を撃つ。


「撃てない!」


 消し飛ぶはずの蔦か、身構えてもいなかったローユンを襲った。


 身をひねって一本を避け、足もとに絡もうとした一本を跳躍して逃れる。


 追いすがる蔦から、着地してさらに飛び退る。


「レイ!」


 応じて、どこからか声がした。


「ゴメン、言うのを忘れてた。

 おまえの異能力は、攻撃防御とも使えないように設定しておいたんだ。

 剣も取り出せないからな、気をつけろよ」


「それでは、やられっぱなしになってしまう」


「だって、餌だもん」


 ローユンは深い溜め息を吐きたかった。


 しかしその時間もない。


 形状からは想像しがたい素早さで、本体が這い寄ってくる。


 繰り出される蔦状の触手を、ローユンは何度かかわしたが、なにしろ距離が近すぎる。


 身を翻した途端、地を這って伸びた蔦がローユンの足首を捕らえた。


 後ろへ引かれる力に抵抗して、短剣を取り出し斬りつける。


 断たれてのたうつ先端を残し、蔦が本体へ逃げ戻っていく。


「ダガーは使えるか」


 ダガーとはいえ、サッシュに偲ばせた短剣は、実用より装飾を重視した類いのものだ。


「心もとないが、ないよりはましだな」.


 ローユンは足もとへ目を落とした。


 蔦に巻きつかれた部分の布が、薄く煙を上げている。


 蔦の粘液に焼かれたのだ。


「少しは手かげんをしてほしい」


 蔦を避けて一歩を踏み出し、ローユンは高く飛び上がった。


 逃れた宙まで追いついてきた一本を、後ろ手に切り落とす。


 着地と同時に次の跳躍へうつる。


 今度は足が動かなかった。


 ついで体が地面に叩きつけられる。


 吸いつけられたというほうが正しかった。


 ローユンの周囲だけが、強力な重力場と化したのである。


 容赦のないGが全身を抑え付け、束の間呼吸も出来ない。


 およそ9G。


 これは、並の人間ならすでに意識を失っているはずで、へたをすると命を失うことすらありえる凶悪さである。


 それでもローユンは上空に目をやった。やらざるをえない。


 気配が頭上を覆っていた。


 空を背景にして不気味なシルエットが、真上に落下してくる。


 為す術もなく見上げるローユンを、蠢く蔦の塊が襲い、地面が揺れるほどの衝撃で押しつぶす。


 数メートル離れた地に伏して、ローユンは荒い呼吸を繰り返していた。


 圧死させられる寸前、重力波がかき消え飛び逃れたのだった。


「これもシステムのうちか?

 まったくむちゃをやる」


 息も整わないうちに、ローユンは再び地を蹴った。


 獲物を取り逃した蔦が地面を叩く。


 他の幾本かが今度は前方から伸びてくる。


 短剣で切り払うが、かわしきれなかった一本が腕に巻きついた。


 地面に倒され引きずられる。


 振り上げた短剣に、もう一本の蔦が巻きついた。


 引き離そうとしても力負けする。


 激痛が走り、ローユンは呻いた。


 腕に巻いた布を焦がして、食い込んだ蔦の粘液が肌を焼く。


「これも不可抗力だというのか、レイ」


 皮肉を焼き切り、筋肉をじわじわと溶かしていく気の遠くなる痛みに耐えて、ローユンは蔦から逃れる方法を探した。


 しかし、異能力が封印されていてはどうにもならない。


 このままでは本体に引き寄せられてしまう。


 本体になにがあるか、ローユンはよく知っていた。


 さらに幾本かの蔦が巻きつき、ローユンの体を地面から持ち上げる。


 そして本体の上へと運んでいく。


 本体の上部で、からみあった蔦が左右に分かれ、その中で大口が牙を剥いた。


 身動きもままならずに、ローユンが叫ぶ。


「レイ、仮想現実の中でも死ぬぞ、これは」


 聞こえているはずなのに、レイからはなんの応答もなかった。


 意外と冷たいな、などとローユンは呟く。


 痛みは耐えがたいほどだが、やはりバーチャル・リアリティ・システムの中だと思うのだろうか、どこか危機感が薄い。


 それでも鋭い牙の並ぶ大口を間近にして、さすがに恐怖は抑えられなかった。


「レイ!」


 あと一息で飲み込まれようとしたとき、ローユンの目の前で大口が上から下まで二つに裂けた。


 たちまち蔦状の触手は力を失い、絡み付いたローユンの体ごと地面に落ちる。


 大口は一刀両断にされていた。


 起き上がろうと手をついて、傷ついた腕の痛みにローユンは呻いた。


 その肩を誰かが支えた。


 血相を変えた貴奈津が、呼青竜を手にローユンの前に屈み込んでいた。


「ローユン、大丈夫?」


 ああ、と答えたローユンの腕を見て、無残な傷痕に貴奈津が息を飲む。


 目の色が変わる。


 現実と仮想現実との区別が、貴奈津の理性から完全に吹っ飛んでいた。


「ローユンに、なにするのよっ!」


 振り返って残りの三体に怒鳴るが、怒鳴られたほうも困るだろう。


「べつに」


 とか言って、 すんなり許して貰えそうもない激しい怒りに貴奈津は燃えていたし、三体には言葉を発する能力はなかった。


 ローユンと貴奈津の周りへ、蔦の塊は移動していた。


 二人を取り囲む形に蔦が伸びる。


 どのみち貴奈津も返事を待ってなどいない。


「ローユンを傷つけようなんてヤツは、ただじゃおかないわよ!」


 呼青竜が半円を描いて水平に斬り払われた。


 近付く触手を断ったのではなく、空を切り裂いたのだ。


 レイが説明してくれた、呼青竜のもう一つの使いかた、離れた敵に真空波を撃つ。


 貴奈津の異能力は健在だった。


 剣の一振りで、縦横に真空波が走る。


 後で部品をつなぎ合わせようとしても、難しいくらいに三体は切り刻まれた。


 剣を薙いだ姿勢のまま、貴奈津は前方を睨んでいた。


「わたしは、わたしはねっ、絶対にローユンを守るって約束したんだから!」


 貴奈津の言葉に、半身を起こしたローユンが目を見開く。


「……約束?……誰と」


「え……」


 剣を持つ手がピクリと動く。


 突然の激しい感情の波に、貴奈津はさらわれていた。


 それに耐えきれなかったのか、振り返った貴奈津は目に涙を溜めていた。


「貴奈津、いったい誰と約束を?」


 ローユンが訊ねる。


 今度は、はっきりした質問だった。


 なにかを伝えようとしたのかもしれない。


 貴奈津の口が開かれ震える。


 しかし言葉が出てこなかった。


 貴奈津は唇を噛んで、顔を伏せた。


 大粒の涙が、いくつもいくつもこぼれ落ちた。

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