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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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 貴奈津が自宅の玄関に入ると、目の前に夜番のメイドが待っていた。


 この家のメイドは昼夜の二交代制である。


 そういう規模の屋敷だった。


「お帰りなさいませ、貴奈津さん」


「ただいま。

 で、どしたの?

 玄関で待ってるなんて」


「旦那様からお電話で、貴奈津さんと月葉さんがお帰りになったら伝言を、と申しつかりましたの」


「そう。

 すると月葉もまだ帰っていないのね。

 よかった。

 で、お父さんはなんて?」


「ご自分の部屋にお入りになって、今晩はもう外出なさいませんように」


 意外な伝言に、貴奈津は瞬きした。


 未だかつて、そんなことを言われた経験はない。


「おかしなことを言うわね」


「それから、話があるので寝ないで待っているように、とのことでございました」


「わかったわ。

 だけど、なんだっていうのかしら」


 まだ若いメイドは小首をかしげた。


「さあ……。

 でも、なんだかたいへん慌てたご様子で」


 メイドは心配そうだった。


 しかし、貴奈津はなんとも思わなかった。


「お父さんがあたふたするのは、いつものことよ」


 そう言って、貴奈津は階段へ向かった。


 途中で足をとめ、振り返ってメイドに頼む。


「悪いけど、月葉とお父さんが帰ってきたら教えてくれないかしら」


 メイドは「はい」と返事をして頭を下げた。


 貴奈津の家は田園調布の一等地にあって、どこの大使館だ? と思うほど広い敷地に大きな建物だった。


 周囲にも豪邸は多いが、その中でも群を抜いている。


 多国籍企業 「眞鳥グループ」 の会長、眞鳥裕次郎の私邸である。


 この家に、二交代制のメイドをはじめ、執事、庭師、運転手、料理人などの使用人を除くと、家族は三人だけだ。


 貴奈津と弟の月葉、そして、二人が 「お父さん」 と呼ぶ眞鳥裕次郎である。


 貴奈津と月葉の姓は青島だから、親子の姓が違う理由として、考えられることはいくつ かある。


 子供は母親と父親、どちらの姓でも選べるから、青島は母方の姓である。


 母親が貴奈津と月葉をつれて、眞鳥と結婚した。


 二人は眞鳥の養子である。


 他にいくらでも複雑なことは考えられるが、それは置いておこう。


 正解は以上の三つだけ。


「青島」は母方の姓であり、貴奈津と月葉の母は二人を連れて眞鳥と結婚したのだった。


 再婚ではない。


 彼女は子供を二人育ててはいたが、それまで誰とも結婚したことはなかった。


 そのあたり、けっこう複雑だったりする。


 それが十年前のことだ。


 当時眞鳥は四十七歳。


 貴奈津たちの母は三十五歳。


 わりあい年の離れた夫婦だったけれど、たいへん仲のよい夫婦でもあった。


 そういう記憶が貴奈津にも、もちろん月葉にもある。


 しかし悲しいことに、母は眞鳥と結婚して一年と経たないうちに、この世を去ってしまった。


 じつは、母と眞鳥は結婚するずっと以前からの知りあいで、二人の結婚は、貴奈津と月葉を自動的に眞鳥の養子にするための手段だった。


 母は自分の死期を悟っており、しかし、子供たちにそれを気付かせたくなかったのだ。


 母は大切な二人の子供を眞鳥に託したのだった。


 したがって眞鳥は最初から、貴奈津と月葉の特異な能力について知っていた。


 貴奈津と月葉は、ほんの数年前に、眞鳥からそういう事情を聞かされた。


「わたしと、おまえたちのお母さんとは、厚い友情と深い信頼に支えられた、清く美しい関係だったのだ」


 眞鳥は涙を浮かべて力説した。


 とはいえ、貴奈津と月葉の母はかなりの美女であったから、眞鳥に一片の下心もなかったとは誰も断言できない。


 しかし、それはそれとして眞鳥は、貴奈津と月葉を本当の子供のように、どちらかといえばそれ以上に愛おしんで育ててくれた。


 眞鳥の真心だけは、誰も疑いようがなかった。


 もちろん貴奈津も月葉も、心から眞鳥に感謝し敬愛もしている。


 貴奈津の部屋は三階にあった。


 その隣が月葉の部屋だ。


 二つの部屋には広いバルコニーがついていて、これは一つに繋がっている。


 ドサッ! と音をたてて、貴奈津はベッドにひっくり返った。


 しかし、すぐに半身を起こす。


 貴奈津は異常に寝付きがよい。


 眠ってしまっては困る、と思ったのだ。


「シャワーでも浴びて、着替えていようかな。

 でも途中でお父さんが帰ってくるとめんどうよね……。

 うーむ」


 貴奈津は考えていたが、ふいにベッドから飛び降りた。


 小走りに冷蔵庫の前に行き、扉を開けて中を覗き込む。


 急にお腹が空いていることに気付いたのだ。


 部屋は広く、ベッドと机、小ぶりのテーブルと椅子が二脚、それだけ置いてもさらに、床でエアロビクスができるほどの余裕がある。


 あとは廊下側にクローゼット、月葉の部屋側にシャワールームがある。


 簡単な料理くらいはできるコーナーも別にある。


 そこに電子レンジやポット、小型の冷蔵庫、電気調理器などが置かれていた。


 貴奈津は冷蔵庫の中にマドレーヌを見つけ、三つまとめて取り出した。


 ベッドに腰掛け、さっそくぱくついていると、インターホンが鳴った。


 そして勝手にしゃべり出す。


「月葉さんがお帰りになりました」


 先程のメイドの声である。


 貴奈津は慌ててマドレーヌを飲み込んだ。


「はーい、ありがとう」


 返事をして二つ目にとりかかる。


 大きく口を開けてマドレーヌにかぶりつこうとしたとき、背後で閃光があがった。


「キャーッ!」


 閃光は小爆発のような衝撃をともなっており、貴奈津は背中に強い圧力を受けた。


 なにがなんだかわからないまま、ベッドの上からはじき飛ばされる。


 床を転がりクローゼットの扉に叩きつけられた。


 それでもマドレーヌは離さない。


「い、痛たたた……」


 背中を押さえて貴奈津は呻いた。


 クローゼットの扉は高級木材を使っていた。


 つまり固い。


 そこに、強か背中を打ち付けたのだった。


「うう……なんなのよ、いったいなにが起こったの。

 まった今日は次から次へと」


 貴奈津は痛みをこらえて顔をあげた。


 暴風が吹き荒れたような惨状を、室内は呈していた。


 テーブルや椅子は引っ繰り返り、本や文具が散乱している。


 机の上から吹き飛ばされたらしいノートパソコンが、床に転がりフタを開いていた。


「あーあ……」


 室内を見回し、深い溜息をつく。


 そしてベッドの上に、毛皮を丸めたようなブキミな物体が出現しているのを発見した。


 さっきまで、こんなものはなかったはずだが。


「……なにかしら」


 貴奈津がぽかんとしている間に、廊下を誰かの足音が駆けてきた。


 かなりの速さで貴奈津の部屋に向かってくる。


「貴奈津!」


 大きく音をたててドアが開かれ、飛び込んできたのは月葉だった。


 クローゼットにもたれて やっと上体を起こしている貴奈津を見つける。


「貴奈津、大丈夫か、ケガはない?」


 駆け寄った月葉に肩を掴まれ、貴奈津が、


「うぐっ!」


 と悲鳴を上げた。


 驚いて月葉が思わず手を離す。


 貴奈津は背中だけでなく、あちこち打ちつけたらしかった。


「大丈夫だけど痛いっ!

 大きなケガはないけど、たぶん明日になったら体中アザだらけだと思う。

 もう、お嫁にいけないわ」


 緊張感のない貴奈津の科白に、月葉は胸をなで下ろした。


 これなら心配なさそうだ。


「だけど貴奈津、なにがあったんだ。

 部屋の中で爆発でも起こったみたいだけど。

 もしかして自分でやった?」


 月葉の言うのは、車を叩き壊したような能力をつかって、という意味である。


 貴奈津は自分の特異な能力を、自分で完璧に把握できているわけではない。


 時には制御できないことがあるかもしれない。


 月葉にしても同じことだが、そういうことが起こったのかと月葉は思ったのだ。


 けれど、貴奈津はぶるぶると首を振った。


「違う、違う、わたしじゃないわよ。

 だけど、下まで音が聞こえた?」


「少し。

 でも聞こえたのはぼくだけだと思う」


 貴奈津の部屋は、幸か不幸か防音であった。


 衝撃は壁を通って伝わっても、音はほとんど階下にもらさない。


 ドアを通して廊下側に聞こえる程度だ。


 貴奈津が夜中に、ティーカップを床に落とす、グラスを割る、テーブルを倒す、椅子ごと引っくりかえる、無理なエクササイズでベッドから落ちる、という凶状を重ね、派手な音を立てまくる。


 そのたびに階下の眞鳥が青い顔をして駆けつける。


 おかげで眞鳥は夜もおちおち眠れなくなり、このままでは眞鳥の健康に支障が出る。


 さてどうするか。


 よし、それじゃあ音さえ聞こえなければ心配もするまい、という、ちょっと違うんじゃないか、と思われる解決策が、貴奈津の部屋の防音処置だった。


「じつはなにが起こったのか、わたしにもわからないのよね。

 背中のほうでピカッと光って、吹き飛ばされたって感じ。

 そして見まわしたら、あれがあったのよ」


 貴奈津はベッドの上を指さした。


 先程見つけたブキミな物体である。


「……貴奈津のヌイグルミだろう?」


「違うわよ。

 ……ん、でもそう言われると」


 よく見れば、確かにヌイグルミのようでもあった。

 ところがそれはピクリと動いた。


「げっ」


 貴奈津がひしと月葉にしがみつく。


 二人が注視する前で、ヌイグルミふうのものは、さらにもぞもぞと動いた。


 そしてバッとベッドの上に起き上がった。


「イタタタタタ……」


 と、そいつは言った。


 人間の言葉で喋ったのだ。


 しかし、どう見てもヌイグルミだった。


 三歳児ほどの身長で、しかし幅はそんなものではない。


 三頭身のブタ猫のヌイグルミ、という形容が一番近い。


 人の頭の倍はあるイチゴ大福を、縦に二つ並べたような体形だ。


 全身が枯れ草みたいな、にぶい黄色の毛に覆われており、光が当たったところは金色の

光沢を放っている。


 大きい猫耳に猫手、猫ヒゲもあり、おまけに目が線のような笑い目なのだ。


 寝ているときの猫の目を想像してもらいたい。


 これが猫でなくてなんであろう。


「猫のようだな」


「うーん、どうみても猫よねえ」


 月葉と貴奈津が小声で感想をかわす。


 だが、こんなに大きな猫がいるはずもない。


 しかも二本足で立ち、服を着ていた。


 といっても、裾のゆったりしたハーレムパンツのようなオーバーオールだけだが。


「いやー、失敗、失敗」


 巨大猫は器用に頭を掻いた。


 照れを表す人間の表現パターンを踏襲しているようだ。


「ちょっと、のんきに頭を掻いてる場合じゃないわよ!」


 貴奈津が猫を怒鳴りつけた。


 てんで弱そうな相手だったので、いきなり強気になったらしい。


 猫は貴奈津に目を向けると、ひょいとべッドから飛びおりた。


 床に降りると、猫の身長がはっきりした。


 貴奈津の半分はない。


 それでも猫だとしたら、異様に大きい。


 猫はパタパタと二人のほうへ歩いてきた。


 歩くときも二本足である。


「おまえ、ナーディだな」


 猫は二人の前で立ち止まり、まず貴奈津に言った。


「転生して姿は変わっているが、ふむ。

 どことなく、表情にナーディの時の面影があるぞ」


 言葉づかいは偉そうだが、声が変に軽くて子供っぽい。


 ついで猫は月葉を見た。


「こっちはスゥーディか。

 久し振りだな、二人とも」

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