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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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 末妹のジェオツシがふわりと近づいてくる。


 緩慢にも見える優雅な動作は、宙を滑ってくるためだ。


 後ろへ揃えて引かれた手は、長柄を握っていた。


 先に刃渡り一メートル半にも及ぶ斧がついた、三日月長斧である。


 ジェオツシは華奢にすらみえる肢体で、苦もなくこの長大な凶器を繰り出した。


 鋭い金属音を響かせ、ラッガートが一刀で受ける。


 すかさず、もう一刀で切り上げたが、ジェオツシの衣の裾をかすめたにすぎない。


 長衣を翻して、ジェオツシの体は宙に舞っていた。


 三日月長斧の刃先が煌めき、弧を描く。


 空中でジェオツシが一歩を踏み出し、 三日月斧が風を切った。


 柄の長さを含めて七、八メートルもの高みから振り下ろされる三日月長斧は、ジェオツシ自身の降下速度と相まって、凄まじい勢いでラッガートに迫った。


「受けられない!」


 ラッガートは直感した。


 数多くの戦闘経験を持つ彼にも、敵の一撃を受けとめられないと感じたのは初めてだった。


 凶刃が身に達する寸前、ラッガートは飛び退った。


 目標を失った三日月長斧が床を撃つ。


 食い込みはしなかった。


 それどころではなく、ジェオツシの一撃は、爆発にも似た破壊音と共に床を打ち砕いたのである。


 長く深くのびる床の亀裂を目のあたりにして、さすがのラッガートも息を飲んだ。


「避けきれなければ、ああなるということか。

 ただの長柄戦斧ではないな」


 ラッガートたちの剣と同様、三姉妹の武器も精神感応型とでもいうべきものだろう。


 そうでなければ最初に刃を合わせたとき、ラッガートの刀が、三日月長斧を両断していなければならない。


「がんばれ、ラッガート」


 離れた位置から、レイは仲間の戦いを見守っていた。


 爪が食い込むほど手を握りしめている。


 蒼白になっているのかもしれないが、毛皮の色は変わらない。


 レイは焦っていた。


 ナーディとスゥーディの位置が、中々掴めない。


 異世界宮殿内部にはなんらかの、電子機器への障害があるに違いなかった。


「持ちこたえろよ、ローユン」


 ローユンは苦戦していた。


 異能力者としては破格の能力をもつ彼も、剣技ではラッガートに遠く及ばない。


 そのうえ、ラッガートよりローユンのほうを与しやすし見たのか、ジェーロと長姉ジェナリマ二人がかりの攻撃を、ローユンは受けていた。


「逃げ回るのはおやめ」


 後方へ跳躍したローユンに、ジェーロの冷笑が向けられる。


「わたくしたちを消し去ってやると、大言壮語したのはおまえではないか。

 あれは口先だけのことであったのか。

 そうでないというなら、踏み止まりわたくしの前に立つがよい」


 挑発である。


 しかし、ローユンは乗らなかった。


「いずれ、そうさせてもらう」


 低く呟き、宙に浮かぶジェーロとの間合いをはかる。


 ジェーロの武器は棹状の尖長刀で、長い柄の先が翼付きのむやみに大きい出刃包丁になっている。


 見た目にこれほど痛そうな武器もない。


 敵に恐怖をあたえる効果は絶大なものがある。


 棹にも刃にも芸術的な装飾が施されていたが、鑑賞している余裕などローユンにはなかった。


 ひらりとジェーロが舞い降りる。


 着地と同時に床を蹴り、ローユンに向かって飛び込んでくる。


 横抱きにした尖長刀が鋭く突き出され、ローユンは半歩足を引いた。


 身をかわしながら剣で払う。


 火花をあげて弾かれた尖長刀が、空中で刃先を転じた。


 一呼吸も置かず、ローユンの足もとを薙いでくる。


 飛び退って一撃を逃れたローユンは、しかし、ブロックの段差に足を取られた。


 靴を滑らせて膝をつき、一瞬だけ床に目を落す。


 すぐに戻し見上げた視線がジェナリマを捕らえた。


 ローユンの斜め上方に浮かびジェナリマが片腕を後ろへしならせていた。


「しまった!」


 この体勢で、ジェナリマの攻撃を防ぎきれるのか。


 ジェナリマの投ずる戦輪の威力を、ローユンはついさっき目の当たりにしたばかりだ。


 とにかく速度が凄まじい。


 戦輪は手の平大の円盤状武器である。


 外縁が総刃になっており、真円形のものが普通だが、ジェナリマの戦輪は鱗形をしていた。


 ジェナリマが手首を翻す。


 ほぼ同時にローユンは剣を跳ね上げた。


 高い金属音と共に、戦輪が弾き返される。


 しかし連続して襲う二投目に、剣の返しが追いつかない。


 眉間を狙った戦輪を、半ばまで引きもどした剣で辛くも防ぐ。


 はね飛んだ戦輪が、髪をかすめ切る。


「円盤状武器とは思えない衝撃だ」


 おそらく速度のためだろう、打撃が重いのである。


 不充分な体勢のまま剣表を撃たれ、勢いに押される。


 倒れ込みそうになる体を、床に手をついてようやく支えた。


 だが一息吐く暇など、もちろんない。


 横飛びにローユンは跳んだ。


 続けざまに飛来する戦輪を、ただ避けるためだった。


 ローユンの位置を、一瞬遅れて戦輪が次々と撃つ。


 ごく薄く軽い戦輪であるのに、固い床面に半ばまで突き刺さるのは、どういうわけか。


 床で一回転して、ローユンは跳ね起きた。


 執拗に襲い来る戦輪を、振り向き様払った剣で打ち落とす。


 視界の隅を白い影が流れた。


 ジェーロが回り込んでいた。


 がら空きになったローユンの背面に、横殴りの一撃が叩きこまれる。


 背後に気配は察したものの、ローユンには、どちらからどの角度でジェーロの尖長刀が襲ってくるのか、判断する一瞬の時間が得られなかった。


 振り返ったローユンはようやく、尖長刀の銀光を見ることができたにすぎない。


 そのまま薙いできた一閃は、しかしローユンの眼前で、激烈な刃音を響かせはじき返されていた。


「一つ貸しだ。

 あとで返せよ」


 ローユンの間近で、ラッガートが紫紺のマントを翻していた。


「……ラッガート。

 一々仲間を庇っていては全滅するおそれがある。

 確か、あなたはそう言っていたような気がするが」


「おまえを失えば同じことだ。

 それにな」


「それに?」


 ジェーロが尖長刀を構えなおし、ラッガートは一刀をそちらへ向けた。


「みすみすおまえを死なせれば、おれがあとで、ナーディとスゥーディに殺される。

 じつは、そちらのほうが恐ろしい」


「なるほど。

 それはわからないでもないな。

 ともかくありがとう、助かった」


 礼を言うローユンに、ラッガートはもう答えなかった。


 三日月長斧をかざして迫るジェオツシを迎え撃っために、すでに彼は足を踏み出していた。


 大口を開けて、レイは荒い呼吸を繰り返した。


「あ、危うく窒息死するところだった……」


 今し方のローユンの危機に、恐怖のあまり硬直してしまい、しばらく息をするのを忘れていたのだ。


 こういうことで死んでくれれば、三姉妹としてはけっこうなことだろう。


「しかし、さすがラッガート。

 なんだかんだいっても、やっぱりあいつは頼りになる。

 凌いでくれよ、二人とも。

 ボクがナーディとスゥーディを探し出すまで」


 呼吸を整えつつ、レイは握った手に力を込めた。


 しかし、探査は電子機器が担当しているのだから、レイが根性を入れてどうなるものでもなかった。


 それでも、タイミングが合うということはある。


「見つけた!」


 レイはヒゲをぶるぶると震わせた。


「気合いの勝利だよな」


 ワープする寸前、レイは呟いたが、それは完璧に違うであろう。

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