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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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「あっ、外だ、外に出た」


 通路を抜けると、空が見えた。


「屋上庭園というところだな」


 緩やかな風に、ラッガートのマントが靡いている。


 城郭を背にして、空中に張り出した広場という感じだ。


 しかし床は平坦ではなく、大きなブロックごとに段差がある。


 それはそれでおもしろ味があるが、客を楽しませようという意図は、建造主にはないと思われる。


「見晴らしがいいわね、ここ」


 何歩ごとかに下りたり上ったりしながら、ナーディはブロックを伝っていった。


 いくつめかで立ち止まり、景色を眺める。


 尖塔が乱立する間から、空に浮かぶ人工の島、異世界宮殿の外辺まで見下ろせる。


 スゥーディが追いついてきた。


「こうしてみると、本当に異世界宮殿って、無秩序な構造物の集合体ですね。

 いったい、どういう必要性で造られているんでしょうか」


「計画性がないだけなんじゃない?」


「……」


 スゥーディはしばし沈黙した。


 成り行き任せを得意技にしているナーディに持ち出されては、計画性も青ざめる。


「ナーディ、スゥーディ、戻れ!」


 緊張をはらんだローユンの声が響く。


 言われるまでもなく、二人はジェーロの波調に気づいていた。


 床を蹴り、駆け戻る。


 だが、あと二ブロックというところで、二人の前方一面に壁が迫り上がった。


「ああっ!」


 わずか一秒の間に十メートルをゆうに越える高さの壁が出現して、広場を二つに分断する。


「撃ち抜くわよ!」


「だめっ、能力障壁が!」


 衝撃波を放とうとしたナーディに、スゥーディが飛び付き、二人して床に転がる。


「そ、そうだったわ、じゃあ、どうすれば」


 ふいに床が沈む。


 そう思って足下を見たとき、すでに床は消えていた。


 人間の落下が追い付かない速度で、床が降下したのだ。


「キャーッ!」


 一瞬、体が浮き上がる感覚。


 二人は深く空いた穴の中へ落下していく。


 それに対応して、二人を阻んだ壁はもとの位置へ下がり、床の一部に戻っていた。


「ナーディ、スゥーディ!」


 ローユンとラッガートが駆け寄ったときには、ブロックの一つが水平移動して、二人を飲み込んだ穴を覆い隠す寸前だった。


「なんてことだ、ボクが追いかける!」


「待て」


 隙間に飛び込もうとするレイを、ラッガートが掴み止めた。


「なにをするんだ、放せ!

 ウガッ、見ろ、穴が閉じてしまったじゃないか!」


 ラッガートの手を振り解き、レイは床に飛び付いた。


 未練がましくブロックの繋ぎ目を引っ掻いたりする。


「うう……」


 がっくりうな垂れたかと思うと、ピョーンと飛び上がる。


 手足をばたつかせて、レイは叫いた。


「なんで止めたんだ、ラッガート。

 ローユンもローユンだ、なぜ追ってやらないんだ。

 二人が心配じゃないのかっ!」


 ラッガートとローユンが顔を見合わせ、またレイに視線を戻すまで、束の間あった。


 ジェーロの気配が増してきていた。


 いつどこから現れても不思議ではない。


 一刀を手にしていたラッガートが、もう一刀も抜き放つ。


「追って、追い付けるとは限るまい。

 その場合さらに戦力が分断されることになる。

 一々仲間の身を案じては、全滅の憂き目を見るぞ。

 これは、そういう相手との戦いだ」


「心配するな、レイ。

 ナーディとスゥーディが二人一緒だ。

 自分たちでなんとかできると思う」


 言って、ローユンは背を見せた。


 ジェーロの気配を感ずるほうへ向きなおったのだ。


 剣を構える二人の後ろで、レイがうな垂れる。


「……ゴメン、おまえたちの言うのが正しい」


 説明されれば、そうかと納得できるのだが、とっさの場合つい動転してしまう。


 レイは地球人とは思考形態の違う種族なのである。


 それは、地球とは異なり、激しい生存競争を必要としなかった星で発生し進化した種族の特性だったろう。


「来た!」


 ローユンの前方にオーロラが立ち昇り、見るまに収縮して半透明の円筒を形作る。


 その中に、ささめく光の残滓を纏い付かせたジェーロの姿があった。


「ホログラフかな?」


 ラッガートの背中にレイが聞く。


「いや、この波調は実体だ。

 ホログラフならば、もう少し性格がましなはずだ」


 ジェーロは頬にダガーの傷痕を残していた。


「ふーむ、三姉妹も、こういうところは普通の生き物と大差ないんだな。

 再生能力がこの程度なら、二つに斬ってしまえばやっつけられるだろ」


 興味深くレイは観察した。


 その視線をジェーロが捕らえ、唇が嘲笑を浮かべてつり上がる。


「おや、先程より人数が減っているのではないか?」


「なんだとーっ!

 おまえがやったんだろうが、おまえが。

 ナーディとスゥーディをどこヘやった、返せ、戻せっ!」


「そうもいかぬ。

 おまえたち、まとまっていると少々うるさい」


「おまえなんか、一人でも充分うっとうしいわい」


「残ったのは三人か。

 ではまず、おまえたちから血祭りに上げるとしよう」


「フライや天ぷらじゃあるまいし、そう簡単に揚げられてたまるかっ」


 レイが真剣につまらないことを言う。


 だがジェーロは、くっくっと声に出して笑った。


「おもしろいことを言う」


 ジェーロにはてんでギャグのセンスがなかった。


 耳に入ってはいたが、この二人のやり取りに、ローユンとラッガートは付き合っていなかった。


 ジェーロに一跳躍の距離まで近付き剣を構える。


 ローユンが切っ先を、つ……と動かす。


 ジェーロが袖をひるがえした。


「これをごらん」


 ジェーロの左右で、再びオーロラがはためく。


「なにっ」


 髪と瞳の色合いはジェーロと違う。


 だが、よく似た顔立ちと衣装。


 そして紛れもない邪悪な精神の波調。


「ジェナリマとジェオツシだ!」


 オーロラの霞を髪に長衣に纏い付かせ、異世界猫と二人の地球人の前に、三姉妹が揃ったのである。


 レイがラッガートの背中に緊急避難する。


 肩を掴むレイの手が震えていた。


「な、な、なんだ、おまえたち!」


 ラッガートの肩越しに怒鳴る、その声にも震えがまじった。


 ジェーロ一人でも強力な敵なのに、三姉妹が揃ったときの波動は凄まじいものがある。


「ひ、卑怯だぞ、ジェーロ!

 三人がかりでくるなんてっ!」


 これは説得力に欠けるといわざるを得ない。


 ジェーロを袋叩きにしようとしたレイである。


「三対三ではないか、文句はなかろう」


 ナーディとスゥーディを地下に叩きこんでおいてのジェーロの発言だったが、まだしもこちらのほうに理があるように思えた。


 レイは言葉に詰まり、ラッガートに縋り付いた。


「ど、どうしよう、ラッガート……」


 声が情け無く細い。


 切っ先を交錯させるように双刀を構え、ラッガートはローユンと背を合わせる向きに移動した。


 レイにだけ聞こえる声で呟く。


「おまえの装備している電子機器は、能力障壁があっても使えるな?」


「……?」


「ナーディとスゥーディを探査できるか」


「マイクロ・チップをくっつけてあるからな。

 できると思う」


「急いで二人を連れて来い」


「やっぱりきついか、おまえとローユンだけじゃ」


「きついなどという生易しい問題ではないぞ。


 一対一でも、勝てるかどうかという相手だ」


 三対三とジェーロは言ったが、実戦力は三対二である。


 ラッガートの表情を読み、レイはぞくりと首すじの毛を逆立たせた。


「来るぞ!」


 声を合図に、レイはバッとラッガートの背中から飛び離れた。


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