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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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「ウギャッ!

 なんだこの大量の魔獣は。

 数え切れないじゃないか、バカヤローッ!」


 空中で一回転して全方位を見回し、レイの理性が吹っ飛んだ。


 ここまで多くの魔獣を一度に相手にするのは、はじめてだった。


 巨大イモ虫タイプ、軟体動物タイプ、背中にウツボをたくさん生やした空飛ぶマンタ、お馴染みのものから初見のものまで、剣に頼って各個撃破していては、到底間に合いそうもない大群である。


「頭の中まっ白」


 状態に陥り、レイはギャアギャアわめき続けるだけで、四人の地球人が異能力者だということを忘れ去っていた。


 しかし四人は忘れなかった。


 異能力者には異能力があった。


 瞬時に四人が四方向へ異能力を放つ。


 ナーディとスゥーディの衝撃波が魔獣ごと壁を撃ち、戦車砲を思わせる轟音を響かせる。


 床上一メートルをローユンの真空刃が薙いでいき、超音速衝撃音を生ずる。


 吹き飛ばされた魔獣をラッガートの異能力が灼熱の炎に包みこむ。


 五人の周囲で床が壁が灼け溶ける。


 それらが全て、同時に起こった。


「待て!」


 真空波を放った刹那、ローユンは叫んでいた。


 声は切迫していた。


 自分たちの放った衝撃波が真空波が、あらゆるものを焼き尽くすレーザー・ウェーブが、突如方向を転じて五人に襲いかかってかってきたのである。


 異能力を繰り出すとき、異能力者は身を守るシールドを解いている。


 そうでなければ攻撃はできない。


 しかし、自分の放った異能力が、瞬時に自分に跳ね返ってくるとしたら。


 躊躇している時間的余裕はなかった。


 ローユンは叫ぶと同時に全員を包むシールドを張っていた。


 しかし、誰か一人でも連続して攻撃をしかけていたら、シールド内で自分の身に異能力撃つことになる。


「頼む、わたしの声が届いていてくれ」


 全く確信はない。


 できるような状況ではなかった。


 破壊音とソニック・ブームの渦巻くただ中に、五人はいた。


 凍り付くような一瞬は、息苦しくなるほど長くローユンには感じられた。


「跳ね返ってきている、衝撃波が!」


 目の前のシールドを見つめ、ナーディが愕然とする。


 衝撃波と共に、巻き込まれた魔獣がシールドに叩きつけられ、灼け溶けた構造物が降り注いでくる。


「ありがとう、レイ。

 助かりました。さすが……」


 振り返ったスゥーディの言葉はそこで途切れた。


 レイは空中で硬直していた。


「シールドを張ったのはローユンだ」


 ラッガートにはローユンの制止が聞こえていたのだ。


「……能力障壁だ」


 レイが口だけ動かした。


 目を開けたまま気を失っていたわけではないらしい。


 ブルブルッと頭を振る。


「ウッガーッ!

 死ぬかと思ったじゃないか。

 いつのまにこんなもの開発したんだ、ジェーロのヤツ」


「叫いている場合じゃないわ。

 見なさいよ、ジェーロが勝ち誇っている」


 無傷のゴンドラに乗り、ジェーロがさも嬉しそうに笑っていた。


 周囲を見回し、一体の魔獣も生き残っていないことを確認すると、ローユンは保持していたシールドを解いた。


「ウフフフ……」


「やめろ、人でなしジェーロ!

 おまえの笑い声は虫酸が走るんだっ」


 三姉妹を相手にすると、レイはいつにも増して口が悪くなる。


 フフと最後の笑いを納めると、ジェーロは五人を見下ろした。


「さすがに、なかなか死んでくれぬな、おまえたち。

 もっとも、あまり簡単に死んでもらっては、楽しみがないというもの」


「勝手なことをほざくな!」


 ラッガートの右手が閃く。


 驚異の速度で短剣が放たれ、ジェーロの顔を正確に狙う。


 完全に意表をついたラッガートの一投を、ジェーロは避けきれなかった。


「あっ!」


 驚愕の声を漏らすジェーロの頬を、銀光が抉った。


 流れたライラック色の髪を巻き込み、短剣が鈍い音を立てて平に突き刺さる。


 蔦がうねった。


 いつのまにかラッガートは、双刀の一方を短剣に持ち変えていた。


 続けざまの第二投はしかし、ジェーロに素手で払い除けられる。


 頬の傷口にジェーロが手をあてた。


 流れ出る血が指に絡む。


「わたくしを傷つけたな。

 この代償、おまえたち全員の命で支払ってもらうが、よいな」


「カッコつけるな、冷血漢!

 おまえが今までやってきたことはどうなる。

 おまえの命なんかじゃ、てんで軽すぎて、到底償いきれないことだぞ」


「好きに言うがよい。

 口のきける間は」


 蔦に縫い止められた髪を引き抜き、ジェーロは身を翻した。


 背後の壁に深い空洞が現れ、その中へ飛び込む。


「逃げるな、こらっ!」


 レイが叫ぶ。


 空洞はジェーロの姿を飲みこみ、そのまま闇へと続いていた。


 どういう構造なのか、中からはなんの物音も聞こえてこなかった。


「また、大ムカデが出そうだ。

 なんで異世界宮殿の中というのは、どこもこう、ばかでかいんだ」


 一行は屋内競技場なのか通路なのかわからないところを、レイを先頭にして進んでいた。


 レイが首を廻らしたので、つられてナーディも周囲を見回す。


「場所が有り余っているんじゃないの。

 それよりジェーロが逃げたのは、ほんとにこっち?」


「この方向が、異世界宮殿の中心部に間違いないんだ」


「答えになっていないわよ、レイ」


「えーい、ゴチャゴチャとうるさいヤツ。

 ジェーロの逃げた方向なんて、ボクが知るか」


「えっ。

 この道を選んだのは、それなりの根拠があってのことじゃないの?」


 横合いからレイの顔を覗き込む。


 わざとらしく視線を前方へ向けたまま、レイはしらばっくれて飛んでいた。


「構わないんだよ、ナーディ。

 どこへ向かおうと、また三姉妹のほうから挨拶にくるさ」


「そ、そう?」


 ローユンは笑っていた。


 ナーディが後ろを振り返り順に目を向けると、ラッガートとスゥーディがそれぞれ黙って肯く。


 先程「ボクの勘では、こっちだ」などと怪しげなことを言い、先に立って飛び始めたレイに、誰も異議を唱えなかった理由が飲み込める。


「ところで、レイ。

 きみの言っていた能力障壁だが」


「うん?」


「あれは、どういう仕掛けになっている?

 異能力を物理的に跳ね返すことができるとは、思いもよらなかった」


 レイのヒゲがピンと立っていた。


 恐怖がよみがえったらしい。


「あれはな、直接跳ね返しているんじゃないんだ。

 そんなことができるのは、そういうタイプの異能力者だけだと思うぞ。

 能力障壁というのはだな、空間の切り貼り装置だと思えばいいんだ」


「というと、攻撃を受けた面を入り口として、まったく別の場所に出口を作り、連続した空間を、切り放して配置するということか」


「そういうことだ。

 だけどまずい、あれは物凄くまずいよな。

 まさか全ての方向にバリアーがあるとは思えないけど、めったやたらに異能力を使うと、どっから返ってくるか見当も付かないからな」


「では、接触型に頼るしかないということになる」


「あとはサイコロジカル・マジック、言いかえれば精神感応型・多重力場三次元転移増幅装置……ああ、くどい。

 つまりおまえたちに持たせた剣だな。それなら直接攻撃だから大丈夫だ。

 なんとかなるだろう」


 考えが浅いというのか、動じないというのか、一向に深刻にならないレイを見て、ナーディは溜め息をついた。


 レイは自分を映す鏡のようなものなのだが、それには気づかない。


「あんたは気楽でいいわね。

 でも、まあ……」


 そこまで言って、振り返る。


 スゥーディが後を続けた。


「どのみち三姉妹は、遠隔型異能力の通用する相手ではありませんしね」


「そう、そう」


 双子の姉妹が、同じ青紫色の瞳を交錯させて頷き合う。


「いい度胸をしているな、おまえたち」


 ラッガートの声は、笑いを含んでいた。


「そうですか?」


「ああ。

 おまえたちがいれば、勝てそうな気がするよ」


 先頭にいたレイが、その声を聞きつけ飛んでくる。


「おい、ラッガート。

 気がする、じゃ困るんだ。

 絶対に勝つんだ。

 言っちゃあなんだが、ボクはおまえの剣を、すっごく頼りにしているんだからな」


「そいつは、どうも」


「なんだ、その曖昧な返事は。

 ビシッとしろ、ビシッと。

 おまえ職業軍人だったんだろう」


「まあ、そういうことだな」


「だったら軍人というのはだな、いついかなるときも不敵、重厚、峻厳がイメージでいて貰わなくちゃな」


「……」


 それは無理ではないか、とラッガートは思う。


 軍隊で指揮を執っているときならいいが、笑い目の異世界猫や双子の少女などが、今のラッガートの戦友なのだ。


 このような状況で、重厚さ峻厳さなど保っていられるのは人間ではあるまい。


「おまえは体も大きいから、いいよな」


 意味不明の一言を残し、レイは先頭へ戻った。


 ローユンが肩越しにラッガートを見て、堪えきれずに笑っている。


「我々の場合、体格と強さは無関係だぞ。

 なにが言いたいのだ、レイは」


 ラッガートは肩に落ちたマントをはねあげた。

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