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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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 なだらかな砂丘の列なりが、長い影をひいている。


 地平線の彼方から、朝日が昇りはじめていた。


 見渡すかぎり、砂の他にはなにもない。


 ただ白い石造りの神殿が建っている以外は。


 広大な砂漠のただなかに建つ神殿は、上空から俯瞰すれば、大海に漂う孤独な船のように見える。


 しかし、側に立ってみれば、意外な大きさを持つ建築物であることに驚く。


「どうだ、すごいだろう。

 身長の二十五倍の高さだぞ」


 レイがそう言って、巨大な門を自慢したことがある。


 とはいえ二十五倍というのは、あくまでレイの身長を基準にしてのことで、ローユンの身長に換算すれば十倍ちょっと、というところだ。


 それにしても五階建てのビルくらいの大きさはある。


 その門を入ると庭園があり、広く長い階段の奥に一見ローマ建築風の、格天井を持つ神殿がある。


 宇宙艇も格納可能なスペースを持つ神殿だったが、ほとんど使われてはいない。


 すぐそばに、やはり石造りの建物があって、そちらが主な生活空間だった。


 全体の規模はかなりのものだし、天井にも石柱にも凝った装飾が施されていたが、為政者が権力にまかせて建造したものではなく、レイが一晩でパッパッとこしらえたものだ。


 したがって石造りに見えるが、じつはそうではないのかもしれない。


「一応ここを拠点にしよう」


 とレイは言ったのだが、ナーディ、スゥーディ、ローユン、それにもう一人の戦士ラッガートと、留守番役のシェンレオ、さらにレイを含めてもたった六人のための拠点に、なぜこんな巨大な建築物が必要なのか誰にもわからなかった。


 レイにもとくに理由があったわけではない。


 大きい方がかっこいいんじゃないか、と漠然と思ったにすぎない。




 射しこむ朝日を正面から浴びながら、一人の異世界猫と五人の人間が神殿の門前の石段に立ち、あるいは腰を下ろして、各々装備の最終点検をしていた。


 これから敵の本拠地、異世界宮殿に乗りこもうという日の朝であった。


 三姉妹に最終決戦を挑もうというのだが、戦士たちには特別の感慨も気負いも感じられない。


 彼らには今日の出撃も、延々と繰り返され続いてきた、対異世界宮殿戦の延長にすぎなかった。


 それくらいの強かさがなければ、日々戦いに明け暮れるなどという生活には耐えられない。


 しかし、心配性の人間が一人いた。


 留守番役のシェンレオである。


 口ひげを蓄えた五十がらみの、もと商人で、頭に布を巻き、裾のふくらんだ、ズボンに長衣を羽織っている。


「あああ……ううむ……」


 などと意味不明の呟きをもらしながら、シェンレオは他の四人の周りを歩き回っていた。


「ねえ、シェンレオ」


 ナーディに呼ばれ、シェンレオがダッと駆け寄る。


 移動速度はマッハ三くらいだ。


「どうかしたかね、ナーディ。

 おなかでも痛いとか?

 そうだ、胃薬を持っていくかね」


 答えも待たず、懐から丸薬を取り出そうとするシェンレオを、ナーディが笑って止め る。


「そんなんじゃないわよ。

 このイヤリングなんだけど、やっぱり紫水晶のほうがよかったかなあ。

 どう思う?」


 片手でトルコ石のイヤリングを揺らしてみせる。


 ナーディはシナモン色の長い髪をアイス・グリーンの布で結っていた。


 イヤリングの石を、髪と布、どちらの色に合わせたら良いかと聞いているのだ。


 衣装のほうは、びっしり刺繍の入った短いベストの他は、ゆったりしたミニのワンピースのように見えるシャツも腰のサッシュも、やはり青緑系でまとめている。


 シェンレオはがっくりと石段に膝をついた。


「アクセサリーなど、どうでもよろしい。

 それより、くれぐれも体に気をつけて。

 異世界宮殿の中で、絶対に生水など飲んじゃいかんよ」


「あー、はい、はい」


 おざなりな返事をして、ナーディは青紫色の瞳がそらしてしまう。


 隣に腰かけていたスゥーディがシェンレオを慰める。


「あまり心配しないで、シェンレオ。

 いつものように出かけて、またいつものように帰ってくるだけですから」


 スゥーディはナーディの双子の妹なので、顔貌は同じだが、なぜか性格は違った。


 役割分担をしているうちに、だんだんとそうなったのだろう。


 突っ走るナーディに対し、制止するスゥーディという図式だ。


 言葉使いまで違う。


「ほんとうだね、必ず無事に帰ってきてくれるのだね」


 スゥーディの手を取って念を押す。


 シェンレオは涙ぐんでいた。


 その二人の上に、明るく優しい声がふってきた。


「わたしたちは死にに行くわけではない。

 シェンレオ、あまり悲壮な顔をしないでくれ」


 ローユンが傍らに立っていた。


 腰に結んだサッシュが、緩やかな風にひるがえる。


「かといって、鐘や太鼓で見送るわけにもいかんでしょう。

 それにこの顔は生まれつき」


 すかさず、


「ふーん、生まれつき口ひげがあったんだ」


 とナーディが茶々を入れたが、誰も相手にしなかった。


 突っ込みを外されたナーディは俯いて、思い出したように靴のホコリを払いだす。


 それを見やって、ローユンが声に出さない笑いをもらした。


 またシェンレオに目を戻すと、その肩に手を置いた。


「行くしかない。

 それが結論だっただろう」


「そのとおりですがね……」


「なに、危ないと思えば、すぐに引き返してくるさ。

 わたしたちは、逃げ足だけは速いんだ」


「つまずいて転んだりするということも……」


 ローユンの言葉を額面通りに受け取るほど、シェンレオは三姉妹について無知ではなかった。


 逃げたいときに、すんなり逃がしてくれるほど、与しやすい相手では決してないのだ。


「おまえなー、出発間際になって愚痴をこぼすな。

 士気にかかわるじゃないか」


 腕組みしたレイが飛んでくる。


「愚痴ではない。

 きみたちの心配をしておるのだ」


「おまえはみんなの夕飯の心配をしていればいいんだ」


 ビシッとレイが決めつける。


 うっ、とシェンレオは呻いたが、彼は基本的に善意の人である。


「な、なるほど」


 夕食までには全員無事で帰ってくるから、よけいな心配をするな、というレイの心づかいであろう。


 そう、シェンレオは解釈して引き下がった。


 それで、あとは大人しくしているかというと、そうではない。


 彼は元来、落ち着きのある性格ではなかった。


 対して、この場にいる六人のなかで、もっとも落ち着きのあるといえるのがラッガートである。


 かといって、彼が寡黙だとか冷静すぎるとかいうわけではなく、概ねほかのメンバーがにぎやかなので、相対的に落ちついて見えるだけだ。


 シェンレオは石段をいくつか登り、ラッガートに貼りついた。


「いや、レイもナーディも、今一つ真剣味に欠ける。

 危なっかしくて、見ちゃおられん。

 ここはやはり、あなただけが頼りだ。どうかみんなを守ってやってもらいたい」


 確かに悠然と構えているように見えるラッガートに、シェンレオは訴えた。


「もちろん、できるだけのことはするが、三姉妹が相手では正直いって自信はないぞ」


 長身の男は、肩まで届く金色の髪と青灰色の瞳を持っていた。


「ああっ、最強の戦士ともあろう者が情けないことを!」


「情けないか?」


「おおいに!

 あなたがそんなことでは、はたしてナーディやスゥーディは生きて帰れるのであろうか」


 悲嘆にくれるシェンレオを見おろし、まずかったかなとラッガートは思った。


 シェンレオは双子の姉妹を我が子のように可愛がっている。


「大丈夫だ、あの二人は異常に強いからな」


「並の人間と比較してどうするのかね。

 相手は三姉妹ですぞ。

 あの双子が強いとはいっても、あなたにはとてもおよばない」


「剣だけをとればな。

 だが、彼女たちにはおれより強力な異能力がある。

 総合力では遜色ない」


 ラッガートが目をやった方向を、シェンレオもつられて振り返った。


 ナーディとスゥーディが、お互いの装備を点検している。


 頭を振って、シェンレオは顔を戻した。


「わたしにはどう見ても、そうは思えんがね」


 シェンレオがラッガートを頼もしく思うのは、おそらく見かけのせいである。


 三十歳前後のラッガートは、ローユンより頭半分背が高く、戦士というのにふさわしい体格をしていた。


 体重でいえばナーディたちの倍近くもあるだろうか、大柄な男と少女とを比べたら、だいたいそんなものだ。


 肩と胸、それに手足の一部に、銀暗色のアーマーを鎧っている。


 ほとんど肌の見えない衣装は紫がかった寒色系で、色鮮やかなアクセントがけっこう派手な印象だ。


 紫紺のマントをまとった姿には、指揮官の風格があった。


「おまえはナーディとスゥーディの華奢な見かけに欺されているのだ。

 こと実戦となれば、あれほど頼もしい味方もまたといないぞ」


 そうラッガートは言うのだが、神業としか思えない剣技を見せる彼が、陣営最強の戦士であることは間違いなかった。


 そのうえ年長者である。


 ナーディやスゥーディ、それにローユンやレイにとっても、ラッガートは大切な心の支えなのだった。


「では、そろそろ行くぞ。あとを頼む」


 納得しかねているシェンレオの肩を叩くと、ラッガートは石段を下りていった。


 並んで腰を下ろしているナーディとスゥーディの後ろで膝を折り、両腕に二人の肩を抱く。


「準備は整ったか」


「はい」


 振り返り、二人同時に返事をする。


「よし、出かけよう」


 スゥーディを見て肯き、ついでラッガートはナーディに目を向けた。


 ナーディがラッガートの青灰色の瞳をとらえたとき、意識が夢のなかの貴奈津にフラッシュ・バックした。


 ナーディとしてではなく、貴奈津は自分の意識でラッガートを見上げていた。


「あ、この人。

 ……忘れていた。

 わたし、今まで、この人のことを忘れてたわ。

 どうしてかしら……でも、ちょっとハンサムじゃない……ラッガートって……」


 思ったが、そこまでだった。一万八千年前の世界に、貴奈津の意識のまま、とどまることはできない。


 ナーディは剣を掴んで立ちあがった。


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